『豊かな草原亭』
「おぅ、来たか。
今、仕事が終わってお前さんを待っていたところだ。
宿屋を紹介してやるから付いて来いよ。
それにしてもなんか服が破れちまっているが大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。
では宿屋までお願いします。」
「おぅ、任せとけ。」
俺は孤児院を後にしてギルドのお爺さんに会いに行った。
また明日にでも孤児院に行こうかな。
明日の予定は薬草と孤児院だな。
後、服もサイズが合うのを作ってもらえるように相談しよう。
俺はお爺さんについて行って歩く。
最初は周りを見たりお爺さんと話したりしていたが何分疲れていたのでそう長くは続かなかった。
そろそろまだ着かないのかと聞いてみようとしたらお爺さんが振り返った。
「おぅ、ここが俺の紹介する宿屋、『豊かな草原亭』だ。
店の奴は無愛想だが飯は美味いぞ。」
お爺さんの指差すところを見るとなんらかの文字らしきものが書いてある看板がある建物があった。
「入るぞ。」
お爺さんと一緒に入っていくと。
「ぐがー、ぐがー。」
なんかカウンターの上で若い男が眠っていた。
お爺さんはその男に近づいて息を吸い込んで。
「コラーッ!!!
タック!
起きろ!!!」
思いっきり叫んだ。
うん、寝てたら駄目だろ宿屋の人よ。
「ん〜?
・・・あ〜、ホレルドの爺か。
飯を食いに来たのか?」
「馬鹿もん!!
客だ、客!
さっさと仕事をせんか!」
「あ〜、あんた、ここに泊まるのか?」
タックと呼ばれていた若い男は俺を胡乱な目つきで見て呟いた。
「はい。」
「あ〜、ようこそ、『豊かな草原亭』へ。
俺はタック、この宿の者だ。
一泊食事付きで銅貨3枚。
前払いで。」
無愛想よりやる気が無い人なんだろうか。
「はい、どうぞ。」
「ほれ、さっさと作って来い。
二人分な。」
「はいはい。
じゃあ、ホレルドの爺、奥の食堂に案内してて。」
そう言ってタックさんは後ろの部屋に入っていった。
「相変わらず宿屋失格だな。
おい、付いて来い。
ここの料理は別格だぞ。」
そうして食堂の席に座るとやがていい匂いがして来た。
「ほい、今日は肉だ。
ホレルドの爺はいつものエールな。
あんたは酒は飲めるか?」
「いえ、飲めません。」
「なら水だな。
【ウォーター】」
タックが持ってきたのは何かの肉のステーキに野菜スープ、白パン。そしてナイフ。
この世界ではナイフのみで食べるのだろうか。
それとお爺さんには木で出来たジョッキ、中身はエールだろう。
俺には木のコップに魔法で水を入れていた。タックさん、お前は魔法が使えるのか。
「がははっ!
今日はこいつのギルドの登録した日なんだそうだ。
タック、アレも付けてやれ!」
「あ〜、なんだ、祝いに来てたのか?
じゃあ、取ってくる。」
「いただきます、タックさん。」
「あ〜、おう。」
「いただきます?」
な、なんだこの肉は!?
簡単に押しただけで切れるぞ。
それに口の中で蕩けてくるぞ。
肉汁が噛む度に出てなんとも言えぬ美味しさだ。
牛でも豚でもないな。
スープも堪らない。
野菜の風味と旨味がスープに凝縮されている。
ステーキを食べた後の口の中がすっきりとしてステーキを飽きさせない。
パンは・・・普通だな。
水は今まで飲んだものより澄んでいる気がする。
魔法で作った水は飲める物なんだな。
俺はタックさんの料理を味わって食べ尽くした。
「美味しい、美味しいよ。
人生で最高だよ!
お爺さん、ここを紹介してくれてありがとうございます。」
「礼はまだ早いぞ。今日はお前さんのギルド登録、つまり冒険者になったんだ。
あれを食ってから言っても遅くはないぞ?」
「特製のパイだ。
どうぞ。」
「はい、タックさん。
ありがたくいただきます!」
そのパイを一口食べた瞬間、気が付いたら目の前にあった皿が空になっていた。
味は日本でも食べた事のないような味だった。
この世界に来て良かった。
「タックさん、ごちそうさまでした。」
「あ〜、おう。」
タックさんは食器を片付けていた。
幸せだ。
「ごちそうさまでした?
まぁいい。
タック、俺は帰るぜ。そいつを頼んだぞ。」
「分かったからさっさと帰れよ。
おい、部屋は二階だ。
案内してやるから来いよ。」
「はい、タックさん。」
俺はタックさんについていった。
「ここがお前の泊まる部屋だ。
じゃあな。」
「あ、タックさん。
俺は黒崎清です。
清って呼んでください。
これからもよろしくお願いします。」
「あ〜、じゃあな、キヨ。」
タックさんは部屋から出て行った。
よし、スキルを調べてみますか。
魔力残量は21か。
【ステータス】がどのぐらいの使用魔力が必要なのか分からないけどそんなに多くはないだろうし一回だけ。
「【スキルトレジャー】」
《【ブレッド】を習得しました。》
黒崎 清
【ブレッド】レベル1




