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サンタさん!
今年のプレゼントは年末ジャンボの1等で良いよ!
「どうしたものか……」
数日間、クエストを消化しながらギルを稼いでいた時の事だった。
何匹目かのモンスターを討伐した際にドロップしたアイテム、『強化の魔石』について俺は悩んでいた。
『強化の魔石』は、僅か1%以下の確率で全モンスターからドロップする、武器や防具をパワーアップさせる事が出来る、唯一のアイテムである。
だが、プレイヤーのレベルに上限があるように、装備にも強化の上限があるのだ。その上限は+10。
『強化の魔石』を使えば、+1が確定出来るので、天狼に使えばさらなる攻撃力を手にする事が出来る。
だが、今のところその必要性は感じてはおらず、俺の使い道としては防具に使うか、もしくは売りに出すかなんだが……
「『強化の魔石』、最低でも50万ギル、か……」
つまり、リアルだと1個で最低で500円の収入となる。まだまだ換金は先の事だと思っていたが、クエストの消化とドロップアイテムの売買によって、ゲームの中での所持金は800万ギルまで貯まったのだ。
「……市場での価値を調べるために、今回は売りに出してみるか」
使い道に迷うぐらいなら、売ってギルに変えた方がシンプルで分かりやすい。他のプレイヤーの出品も見ながら、落札希望価格を2000万ギルに設定して、オークションに出品してみた。
さて、どの程度の値段で落札されるのだろうか?
「俺はいつも通り狩りをするだけだな」
クエストは、ナンバー01から00までの100種類。ナンバーが増えれば難易度も上がるんだが、俺はインフレな武器のお陰で、06まではソロでもクリア出来た。それ以降はこれから試すところなんだが……
「気を引き締めないとな」
たかがゲーム、されどゲーム。
職業ゲーマーを目指しているのだから、まだまだ序盤で躓くわけにはいかないのだ。
それに、今は数多あるスキルの中から、ソロプレイに必要だと思われるスキルを修得している最中でもある。
『魔法攻撃力増加(小)』
『業火の太刀』
『雷電の太刀』
魔法防御は数日の間に修得していたが、今回購入した、『業火の太刀』と『雷電の太刀』は少しだけ迷った。
物理特化を目指していても、やはり幾つかの魔法攻撃は必要だ、と攻略サイトに載っていたのだ。
「う~ん……」
でも、現時点で急いで購入・修得する必要があったかどうかには疑問符がつく。だって、威圧(小)で動きを封じて天狼で一撃、手間がかかってもニ撃目で倒せるのだ。
「……いつかは必要とする時が来るんだよな?」
まだDreammakerの先を知らないが、攻略サイトに載っていたのだから、いつかは必要になるんだろう。その時になって初めて使うより、今のうちから慣れていた方が良いに決まっている……はず。
「……よし!」
何に対してだか分からない自己弁護を終えると、次の目標を設定する。
スキルを修得したのは良いが、どんなに便利なスキルでも、使わなきゃ損である。例え天狼の一撃でオーバーキルだったとしても、戦闘時には威圧(小)や『紅蓮の太刀』、『雷電の太刀』を使用して戦う事を心掛けた。
その結果かどうかは分からないが、威圧(小)が(中)に進化し、動きを封じる時間が1秒増えた。
ソロプレイなら必須との事で、それなりの数のプレイヤーが修得しているようだし、その分、進化の条件は緩いのかもな。条件までは分からなかったけど。
それからもスキルでの戦闘を心掛けながらプレイしていると、いつものシステム音が頭の中に鳴り響く。
『オークションが成立しました』
きたっ!
現時点でオークションに出品していたのは『魔石』のみ。期限時間よりも大分早くオークションが成立したという事は、落札希望価格に達したという事だ!
目の前のモブを討伐すると、迷う事無く街へと戻った。
「2000万ギルでも落札されるなら、次はもう少し高めに設定しなきゃな」
ギルを受け取り、3000万ギルが目の前に見えてくると、その後の狩りも気合いが入った。
―――
軽い気持ちで目標に定めた3000万ギル。自分の力量を調べながら、スキルを使いながらのプレイだったので、到達したのはその翌日だった。
でも、換金すれば3万円。まだまだガツンと稼げる額じゃない。
「そうなると、使い道は……」
さらに稼げるようにレベルに費やす、が正解かな?
全額を突っ込むのはまた違う気がして、2000万ギルだけ費やす。今までもチョコチョコ費やしていたので、今回でレベルは19まで上がった。当然の事だが、レベルアップに必要なギルも増えてきた。もっと稼げるようにならないとな。
だが、転職してレベルが20目前。
もう一端のプレイヤーと呼ばれても良いんじゃないのだろうか。攻撃力に関しては文句ないと思うんだが……
さて、Dreammakerからもログアウトすると食事の準備だ。夏期休暇中って事で、ゲーム、睡眠、食事しかしていないが、たまにはコンビニ弁当じゃなくて自炊もしないとね。
無洗米を炊いている間に、簡単なオカズを一品。今日は豚バラ肉とキャベツで回鍋肉を作った。味付けは市販のタレだが、男の1人暮らしならこれで十分に自炊と呼んでも良いと思う。
「ん~……」
オカズが出来上がり、米が炊けるまではスマホでDreammakerの公式サイトを閲覧する。掲示板にはゲーム外でのオークションや、パーティー勧誘、もしくはギルドメンバーの募集等々……カテゴリー別に様々な書き込みがある。
資金はレベルに費やしたばかりなので、オークションはスルーだ。そうなるとパーティーやギルドメンバーの募集がメインになってくるが……
「まだまだソロで限界を感じていないからなぁ……」
ソロの良い点は、クエストの達成報酬を山分けする必要が無い事だ。まだまだ初級のクエストしか試していないが、中級、上級となっていけば、クエスト報酬も増額していく。それを1人で受け取るのだから、実入りは良い。
逆に、悪い点はソロである事の全てだろう。攻撃も防御も回復も、全て自分だけで行わなければならない。戦闘の幅も狭くなるし、もしも現時点で魔法しか効かないモンスターが現れたら、苦戦は確定である。
パーティーの万能性か、ソロの実入りか。
プレイスタイルを選んだ時のように、今回も中々難しい問題ではあるが……
「……まだ大丈夫、だよな」
何の根拠も無いが、いきなり魔法職のみしか戦えないモンスターは早々には出ないはず。自分にそう言い聞かせたところでご飯が炊けた。冷めないうちに飯にしよう。
飯を済ませ、風呂も済ませると1日が終わっていく。Dreammakerを始めてから、俺の頭の中ではDreammakerがかなりのウェイトを占めている。
あのモンスターはどんな行動パターンがあるのか。
あのクエストでの報酬は、対価として見合っているかどうか……
そんな事ばかり考える。
まぁ、職業ゲーマーを目指す俺には、Dreammakerで稼ぐようになるため、知識は必要な武器になるんだが……この数日、ゲームを楽しむ事を忘れてたかな?
もちろん稼がなきゃいけないんだが、まだ学生の身なんだし、まだまだ本格的に稼ごうとしなくても良いのではないか……
「……クエストはナンバー12まで消化完了したんだし、戦闘に問題は無いはず……」
ならば、少しだけ肩の力を抜いてみるのも良いのか?
ゲームなんだから、いや、ゲームだからこそ、楽しんでプレイする必要があるだろう。
「明日からは、また楽しんでプレイしてみるか」
Dreammakerに関しては、俺の持つ情報ではまだまだ未知な部分が多い。それを調べたり実証したり……そんな楽しみを求めてコクーンまで買ったんだ。
楽しめるうちは楽しむ。
そんな原点に立ち戻り、本日最後のDreammakerにログインした。
―――
「……うん、まだまだ楽勝だ」
天狼なんて武器のおかげで、モンスターの殲滅速度はまだまだ衰える事が無い。思い切ってクエストナンバー18まで受けてみたが、進化したスキル、物理攻撃・見切り(中)のおかげで攻撃を食らう事もほぼ無いし、懸念していた魔法のみなんてモンスターも現れない。
まだまだ余裕はある。無駄にリアルな感触にだけはまだ慣れないが、攻撃を食らう事がまず無いので、天狼からの斬る感触には早めに慣れたいところだ。
「……え?」
同じ狩り場にて、同じクエストを受けているであろう1人のプレイヤーが、モンスターと格闘をしている。ショートカットの銀髪の隙間から見える角。俺と同じ鬼人族を選択したプレイヤーのようだ。武器らしいものは手甲やブーツタイプの甲冑をしているのを見ると、本当に格闘が戦法なんだろう。
だが、俺の目を惹いたのは、その女性の口元だった。モンスターの体液なのか、紫色の液体が口から喉元にまで垂れ流れている。
「食って、る……?」
打撃の合間を縫うように、いや、そっちがメインなのか、その女性は確かにモンスターを食っていた。
不意に視線が重なった。彼女はニコリと笑うのだが……いや、ハッキリ言って不気味なんですけど?
「キミも『リザードエッグ』狙い?」
「えぇ、まぁ一応……」
「そっか。じゃあ、コレあげる」
そう言っていきなり『トレード』されてきたのは、クエストで集めている『リザードエッグ』が30個程。
「ボクの狙いは『リザードエッグ』じゃないからね」
口元を拭うと、それなりに美少女と呼べるだけのスペックを持った顔の造形が分かった。それにボクっ娘……でも、口元を拭う前のモンスターの体液ビッシリって姿が強烈な印象だよ。
パッチリ二重に高く通った鼻筋。小さめだがふっくらとした唇。もちろん小顔なのも認める。線はかなり細めだが、VRゲームの中で体格は何の影響力も持たないのは分かっている。
それにDreammakerのみならず、この手のゲームのキャラクターの外見は簡単に変更出来る。だが、デフォを弄ると何とも言えない違和感が残るものだが、彼女にはそれが無い。つまりは現実でもそれなりに美少女なんだろう。
「えっと……『リザードエッグ』が目的じゃないなら、何が目的なんですか?」
「食べる事」
「……は?」
「このゲームに『BITE』、つまり『噛み付き』ってスキルがあるのは知ってた?」
「いや、知らなかったですけど……」
「『噛み付き』はね、そのまま『モンスターに噛み付く』んだよ。それで喉とか腕とか噛み千切るの」
……うわぁ、可愛い見た目からは想像出来ない、野蛮な言葉がポンポン飛び出てきた。
「んで、そこで問題です。何故そんな原始的なスキルがあるのでしょうか?」
「そゃあ……何らかの利点があるから?」
「う~ん、まぁ及第点にしておこうか」
100%の正解ではない理由は何なのだろうか?
「……正確には、ね、攻略サイトにも載っていないんだけど、『BITE』で食ったモンスターの『特性を奪う』事が出来るんだよ」
「『特性を奪う』?」
「そう。例えば、ボクは攻撃系のスキルは、『BITE』以外には何も持っていない。でも……」
ビュォォォッ!!と突風が巻き起こり、地面に鎌鼬のような痕が残る。これって確か牛鬼の……
「……分かった?」
ニヤリと笑う女性。そうか、『特性を奪う』っていうのは、モンスターのスキルを修得出来るって事なのか。上手くいけば、本来ならプレイヤーは修得出来ない強力なスキルが使えるようになるわけだ。
「……結構反則的じゃないっすか?」
「カニバリズムじゃないけど、システム上は問題無いみたいだから、気付いたもん勝ちだよ……食べる事が出来るって幸せな事なんだよ?」
そう言いながらも、彼女は『BITE PLAY』、『噛み付き』の厳しさを口にする。それは肉を噛む感覚がリアルだとか、味はどうだとか、あまり聞きたくない話だった。
ってか、肉なら少しは分かるけど、ここまで昆虫系のモンスターもいたよね?昆虫系も食ってきたのか?
「……君、名前は?」
「あ、レオです」
「レオ、か……ボクは『アゲハ』。よろしく」
差し出された手を握り返すと、『フレンド登録』の画面が開かれた。
……あ、初めての『フレンド登録』だ。でも、何か断れない流れだし……ま、良いか。
「……拒否らないんだ?」
「え?拒否って良かったの?」
俺の素の返しがツボったのか、大笑いをする『アゲハ』。
「良いね良いね!レオ、最高!」
何がお気に召したのかは分からないが、『アゲハ』は御満悦である。
「また縁があったら、一緒にプレイしようね」
『アゲハ』は、去り際にフラグのようなものを立てて街へと戻っていく。
……う、うん。俺も取り敢えずクエストを消化しようかな?