Playing
「スキルは、(小)が格下相手、(中)が同格、(大)が格上、(極大)は全部、か……」
攻略サイトにて、Dreammakerに関する基礎的な知識を閲覧していく。プレイ前に下調べをする人もいるだろうが、俺は直面しないと調べないタイプである。
だって、未知な要素はあればある方が楽しいじゃん?
Dreammakerのプレイも4日目に突入した。ゲームの中でならそこそこ稼げるようになり、今は直面している『未知』を自分の中にインプットしているところだ。
それも、かなり早い段階で物理攻撃・見切り(小)なんてスキルを修得した事が要因だ。調べてみて分かったんだが、俺が修得したスキルは結構レアなスキルだったようで、(小)から(中)、そして(大)、(極大)へと進化させれば、モンスターのスキル耐性にもよるが、物理攻撃には絶大な効果を発揮するんだそうだ。
『未知』を楽しみたいんだが、ある程度の予習は必要だった、かな?
「どのスキルも、進化の条件は不明、か……」
発売から何年も経過しているDreammakerだが、まだまだプレイヤーに知られていない要素が数多く存在するらしい。
モンスターの討伐方法は掲載されているが、キャラクターの育成について、見本となるような育成法が攻略サイトにまだ載っていないだなんて、運営陣の企画・開発力には脱帽物である。
「でも、だから楽しいんだけどね」
本日も、朝食のフルーツサンドを食べてからDreammakerにログインをする。
「……さて、今日は何をしよっかなぁ」
まぁ、換金が売りのゲームなんだから、狩りをして稼ぐのが普通なんだが、森林地帯以外にも、『山岳地帯』と『海辺』、2つのマップを手にしたので、何処で狩りをするのかが問題なのだ。
モンスターのドロップ単価が良い狩り場は『海辺』なんだが、他のプレイヤーも稼ぎに集まるので、数は狩れない。今日はとある目標を達成するために、数を狩れる『山岳地帯』にしようかな。
目的が決まれば即実行。『山岳地帯』にテレポし、早速『フレイムリザード』を狩り始める。
すると、何匹目かを倒した時に、そのシステム音は響いた。
『SKILL MASTER!!』
「これで目標達成、っと」
ボーナスガチャでゲットしたトライバルの首飾りに付いていた攻撃力上昇(小)のスキル。それを修得した合図である。
装備に付与されているスキルは、マスターすると外しても効果は続く。つまり、スキルをマスターしていけば、幾つものスキルを同時に発動させながら戦闘が出来るのだ。
俺が今修得しているスキルは、初期設定時に選んだスキルと、物理攻撃・見切り(小)と攻撃力上昇(小)だけだが、スキルが付与されているアクセサリーを付け替えていけばこれからどんどん強くなれるのだ。攻略サイトに載っていたスキルの一覧だけでも、まだまだ欲しいスキルは沢山あったし。
「……とりあえず町に戻って、装備を変更するか」
トライバルの首飾りはもう必要無い。市場に流そう。
ここがオンラインゲームの強みなんだろうが、『オークション』という、よく見かけるシステムがある。
自分にはいらないアイテムでも、高値を支払ってでも欲しいというプレイヤーは存在する。その逆もしかり。
そんなプレイヤーの要望を満たすのが『オークション』だ。そこに売りに出せば、あとは時間が過ぎるのを待つだけ。指定の時間が来れば、最高額で入札したプレイヤーと自動的に売買をしてくれるのだ。
町に戻ると早速トライバルの首飾りを売りに出し、この数日で手に入れた新たな装備を身に付け、また新しいスキルの修得を待つだけだ。
今回はガチャやバトルでの修得じゃなくて、スキルショップから購入した、『威圧(小)』というスキルだ。
戦闘時に発動させると、確率はあるが、2秒もモンスターの動きを封じる事が出来る、ソロプレイヤーには重宝すべきスキルである。
2秒もあれば、数回は攻撃出来るよね。そして俺の武器は天狼……最強の組み合わせじゃね?
意気揚々と再び『山岳地帯』までテレポすると、手当たり次第に『フレイムリザード』を狩りまくる。
流石に横殴りなんてマナー違反はしないが、次から次へと一撃で葬り去っていく姿に、他のプレイヤーが唖然としていた。
……うん、端から見れば異常だよね。まだまだ低レベル帯のエリアとはいえ、一撃は無いよな。
でも、文句があるなら天狼なんて武器を排出したガチャや運営に言ってくれ。俺はやましい事なんて何1つしてないんだし。
ガサガサと狩りを続ける事、ゲーム内の時間で3時間程。ドロップアイテムも溜まりに溜まったし、そろそろ売却で町に戻ろうかな。
町にテレポすると、何故だか知らないが観察をするかのような視線を感じた。何かしたっけ?
「おい、あれが『赤鬼』か?」
「だろうな……髪も装備も真っ赤だし」
んんん?もしかして、俺の事を話題にしているのか?ちょっと聞き逃せない単語が入っていた気がするんだが……
「ちょっとすいません、『赤鬼』って何ですか?」
こちらに視線を向けていたグループに尋ねると、少し呆れながら説明してくれた。
『低レベル帯のマップにて、異常な攻撃力で無双している真っ赤な鬼人族が現れた。恐らくはまだまだ新人だろうが、その行く末は一見の価値あり』
……心当たりがあり過ぎて、無言で立ち去る事しか出来なかった。
これは……あれだな。さっさと装備を新調して、悪目立ちしないように過ごさなければ。俺は有名になりたいわけじゃないし、変な粘着系プレイヤーに絡まれるなんて展開もゴメンだ。
ショップで『フレイムリザード』のドロップアイテムを売りさばくと、急いで防具を『オークション』にて新調した。
色は違えど、『純白の着流し』をセレクトしてしまったのは、日本人の性なのかな?
でも、今回選んだ『純白の着流し』にはスキルも付いているんですよ!
『魔法防御(小)』
物理に魔法、両方を防御出来れば最高だよね。でも、調子に乗りすぎて今度は『白鬼』なんて呼ばれないよう、自重を心掛けようと思った1日であった。
―――
「ふぃ~」
コクーンから出ると軽く体をほぐす。ゲームの中で半日過ごしたって事は、リアルでは6時間近くが経過しているのだ。ずっと横になっていたからか、屈伸をすると関節がポキポキと小気味良い音を鳴らす。
「さて、飯にするか」
気分新たに、じゃないが、日々の食事から少しは大人しくしてみようと思い、冷蔵庫から取り出した弁当は海苔弁だ。
安くて美味い、王道で定番な庶民の味方である。
レンチンしてから磯辺揚げ、きんぴらに箸をつけ、海苔佃煮が乗ったご飯をかっ食らう。
もちろん、白身魚のフライにはタルタルソース。これは外せないよね。
弁当を食べながら、それなりに貯まったギルの使い道を検討する。
まだ換金するには早過ぎるだろう。どうせならもっと稼げるようになってから、ドカンと換金したい。それまではキャラクターの育成に費やす方が妥当な資金の使い方だと思う。
「……となると、スキルだな」
スキルショップから購入出来るスキルを、運営の公式サイトや攻略サイトから確認し、早めに修得しておきたいスキルを幾つかチョイスし、脳内にメモっておく。
換金してみたい気持ちが無いわけではないが、今後のための初期投資、と割り切れば、現時点での所持金が0になっても良いつもりだ。
「アレとコレと……ソレもだな」
スキルを眺めていくうちに、自分のキャラクターをどういうタイプに育成するかが、頭の中で描かれる。
もちろん『鬼武者』というプレイスタイルが基本なんだが、純粋に物理攻撃特化か、魔法も使える万能タイプか……
「悩むなぁ……」
尖った『物理攻撃特化タイプ』は、型にハマれば驚異的な強さを誇る。
万能タイプだと、どんな戦いでも自分に有利な流れを作る事が出来る。
「……ゲームなんだから、楽しまないと損、だよな?」
職業ゲーマーを目指していても、プレイする事が楽しめる方が良いに決まっている。
ならば、俺が選ぶ道は……
数時間の休息をはさんで、再びログイン。今度はスキルを購入してからスタートだ。
『チャージ(小)』
『飛燕』
『物理防御力上昇(小)』
『魔力上昇(小)』
手始めに、この4つのスキルを修得した。
『チャージ』はスキルを発動させてから攻撃を放つまでの時間の長さに比例して攻撃力が上昇する。
『飛燕』は斬擊を飛ばす遠距離攻撃。
『物理防御力上昇』はその名の通り。
『魔力上昇(小)』は、前記した『魔法防御』の効果を高める。
4つの合計で8万ギル。所持金的には某落語家の謳い文句ように、まだまだ若干の余裕があるが、そこは追々でも良いと思う。先ずはこの5つをしっかり自分の物にしなければ。
俺が選んだタイプ。それは少しだけリスキーな『物理攻撃特化』であった。
前回のプレイ時のように、エリアを駆け巡り天狼の攻撃力に任せて無双するのではなく、今度はモンスター1匹ずつ、自分のプレイヤースキルという物を確認しながら狩りを行った。
天狼は使っちゃいるが、天狼に頼らない戦い方を。
ちょっと矛盾しているかも知れないが、それを念頭に置いてのプレイを心掛けた。収穫はボチボチかな。数を狩ってはいないので、前日よりは収入は少し減ったが、プレイヤースキルは磨けたと思う。スキルにも少しだけ慣れたからね。
ちなみに、スキルの発動はスイッチのオンオフのように、発動させたいスキルを頭の中でカチッと電源オンと思い浮かべるだけで済む。
詠唱なんて厨ニ臭い事はしないで済むが、その代わり、エリアに出れば自動で発動するPS以外の、その時その時でしか使わないASは全て覚え、その特性まで理解しなきゃいけないな。
ただ、1つだけ気になる事がある。
このゲーム、無駄にリアリティーが高いんだ。
キャラクターの身体能力はもちろん、触れた物の質感や匂い、そしてモンスターに攻撃した時の手応えとか……そこまで再現させる必要はあるのか?と疑問を抱くぐらい、かなりリアリティーが高い。まぁ他のVRゲームをプレイした事は無いから、比べようが無いけども。
まぁ、最先端のゲームなんだし、これが普通なのかもな。
「……よし!レベル10到達!」
ゲームの主題である狩りに没頭し、この数日間で何とか100万ギルもの資金をレベルに費やしたお陰で、新人の最初の到達点、レベル10に届いた。
Dreammakerでのプレイスタイルは、プレイヤーの数だけある。つまり千差万別だ。オリジナルなプレイスタイルも、運営に認められれば、公式な『職業』として登録されるのだ。そしてそんな『職業』に伴うスキルも追加される。
そんな『職業』に転職出来るのはレベル10に到達してから。それにやっと届いたのだ。
俺の狙っている『職業』は、当初の予定通り、鬼武者である。転職条件は満たしているし、迷う事無く鬼武者を選択する。
目の前に浮かんでいるアイコンをクリックすると、光の玉が俺の体に吸い込まれ、ファンファーレが聞こえる。
『おめでとうございます。貴方は鬼武者へと転職しました!』
……見た目や感覚にこれといった変化は無いが、システムが告げているんだから『転職』は成功しているのだろう。
ポーン
『転職システムを利用しました。ボーナスガチャが1回ひけます』
おぉう、まだボーナスガチャの権利が残っていたか。初心者に優しいな。
そのままガチャを回しに向かう。まぁ、Mythologyクラスの武器を1個引き当てているんだ。これ以上を望むのは贅沢だろう。
ガラガラガラと、商店街の福引きなようなガチャを回す。出てきた玉の色は、透き通った水晶のような玉。
これは確かRareのアイテムが当選した証だったはず。
まぁ、2度もMythologyクラスが当たるなんて、流石にありえないよな。1人だけインフレ起きちゃうし。
これで初心者向けガチャは終了したようで、視界からアイコンは消え去った。何となくだが、少しだけ達成感を感じるな。
ちなみに、引き当てたアイテムは『鬼人族の鎧』と、まさに鬼人である俺に、当たるべくして当たったかのような装備だ。
Rareクラスの装備をしているプレイヤーなら、周りにいくらでもいるので、目立つような事も無いだろう。
早速その場で装備を変えてみると、職業の鬼武者に見合った甲冑姿に変わった。動けば流石にガチャガチャと音は鳴るが、関節の動きを阻害するような感覚は無い。
うん、Rareクラスでも十分だな。
武器はMythologyクラス、防具はRareクラス。まずまずの装備が整ったと思う。『鎧』を手にした事で、着流しよりも防御力は上昇しているはずだし。
でも、それを試すには狩りに出掛けなきゃ分からないわけで。
そこで、攻略サイトでもオススメしていた、転職後、最初にクリアすべきエリアへと向かう事にした。
一次の転職を終えると、『クエスト』なるものを受ける事が出来るようになるのだ。
物は試しとばかりに、クエストナンバー01、『牛鬼』の討伐を受けると、新たなマップ『洞窟』を購入し、狩りに出掛けた。
『洞窟』は『牛鬼』がひしめき合う、狩り場としては上々の場所らしい。『牛鬼』の強さは一次転職が終えたプレイヤー数人推奨ではあったが、天狼もあるし、1人でもいけるんじゃないかと予想し、一応ポーションの類は買い揃えてから『洞窟』へとテレポした。
「おぉ~、いるいる」
『洞窟』にはそれなりの数のプレイヤーが『クエスト』の攻略を目指して狩りに励んでいた。
『牛鬼』は、体長3メートルはある、斧を持った二足歩行の牛?鬼?まぁそんなモンスターだ。
「グモォォォッ!」
俺にターゲットを絞った『牛鬼』が雄叫びをあげて突進し、隙だらけの大上段から斧を振り下ろしてくる。
まぁ『鎧』の性能を試すために、一撃はもらう覚悟でいたので、大したガードもせずにそのまま受け止める。
ガガガガガッ!
岩を削るようかのような音が響き、体にもそれなりの衝撃は食らったが、HPは1割も減ってはいない。これなら安心して戦えそうだ。
『牛鬼』の攻撃は斧に纏わせた風の刃がメインのようだし。
俺の攻撃力に関してはインフレしてるので何の心配も無い。
ほぼ作業のような狩りで目標の10匹を討伐すると、クエストの達成報告をするため街に戻る。達成報告を終えると報酬を受け取る。報酬は換金ゲームらしく、ゲームの通貨が基本のようだ。
まだまだ換金するには早いと思うので、資金はキャラクターのレベルに費やす。
レベルが上がれば次のレベルまでに必要な資金も増えるが、その分稼げるエリアに出掛ける事が出来るようになる。
……どっちが良いのかは、個人の価値観だな。
まぁそんなプレイも、ゲームの中の時間が夕方になれば終了となる。夜は面倒なモンスターばかりだと聞くし、今のところはそこまで強行する必要は無い、かな?
本日も無事にDreammakerを終了させた。
作品に対する感想やアドバイス等、お待ちしています。