逃亡
気が付いたら誰か見てくれているようで嬉しい限りです。
書き溜めて直しながら投稿しようかとも思いましたが、取り合えず出来たら即投稿でいってみようかと思います。
三階ほどの高さから飛び降りた紅丸は千雨を脇に抱えたまま城壁に向かってひた走る。
幸いなことに今は夜で明かりが少ない。
鬼である紅丸は夜目も利くので明かり無しでも問題なく動ける。
城外にも兵がいたが突然現れた二人に驚いている隙に逃走する。
窓の上から見えた景色から城壁を越えれば町があり身を隠すのも容易だろうとの心積もりだ。
そんな紅丸に千雨が抗議する。
「ちょっと!いつまで抱えてる気!というか一応私も女なんだけど!この運び方はあんまりじゃない!?」
「そうか?すまんすまん。どれ?・・・顔も元に戻ってるようだの。そういえばこっちに来てから段々と言葉も女らしくなってきたな。そっちが素か?」
「それはそうでしょ!もう男でいる理由は無いんだから。いいから降ろしてよ!」
一瞬足を止めて脇の下で暴れる千雨を降ろすと二人は並んで再び走り出す。
だがその速度は紅丸が千雨を抱えていたときよりも若干遅い。
理由は千雨の足に併せて走っているためだ。
後ろから追ってくる足音がなかなか引き離せない。
「千雨よ、それでいっぱいか?」
「これでも全速力よ!」
「やはりその状態だと人並みに走るのが精一杯か・・・。千雨よ、さっき鬼に変化していたのを覚えているか?」
「意識は鮮明にあったわ。剣を握ってから急に力が漲ってきたの。私は私なんだけどいつもより好戦的になっていたのも覚えてる。私・・・ほんとに人じゃなくなったんだね。」
隣を走る千雨の足が少しばかり鈍ったように感じる。
「千雨よ、おぬしは間違いなく人間でもある。事実今のおぬしは人間とほとんど変わらない。わしは今人の姿をしてるが本来は鬼だ。おぬしはその逆で人から鬼になれる。それだけの話よ。」
千雨は走る速度を緩めないように息を整えながら紅丸を見つめる。
「・・・なあ千雨。昔村にいた頃はわしは鬼として、千雨は人として仲良くしてくれたではないか?これから先わしらを受け入れてくれる奴もきっとおるよ。それにおぬしの半分は間違いなく人間なのだから。」
「慰めてくれてるの?・・大丈夫よ。さっきの広間でも言ったでしょ?こうして生きてる!これからがある!それで十分だって!・・・でも、そんな奇特な人たちがいるといいわね。」
そう言って微笑む千雨の顔は素直に綺麗だと思えた。
改めてこの笑顔を守ろうと心で誓い気合を入れなおす。
そして前を向いたその視線の先には硬く閉ざされた城門とその前に集まる兵の姿だ。
「よし!ならば、ここで捕まってる場合ではないの!千雨あの城壁越えられるか?」
言われて目の前の城壁を見る千雨だがすぐに無理と首を振る。
「なら仕方ないの。悪いがしばらく我慢して貰うぞ。」
そういうと隣を走る千雨の後ろに下がると両手で抱き上げる。
「ちょ、ちょっと!!」
「黙っておれ!舌を噛むぞ!」
と、次の瞬間千雨を抱き上げたまま紅丸が跳躍し城門で待ち構える兵を避け城門に隣接する二階建ての建物の上に飛び上がる。
「なに!!」
兵から驚きの声が上がる。
その建物の上で弓を構えていた兵もいきなり目の前に現れた紅丸に固まってしまう。
そんな弓兵を蹴り倒すと勢いを殺す事無く壁に向かいもう一度飛び上がる。
更にその壁を蹴って上に跳ぶとついに城壁の上部にたどり着く。
「この外が城下町のようだから一旦ここで身を隠そう。いくらか情報も集めんと外に出ても文字通り右も左もわからんしの。」
「それでいいから早く降ろしてくれる?さすがにこの格好は恥ずかしいんだけど・・・。」
「女の子らしく扱ったつもりだがこれも駄目か?難しいのぉ。この下に付いたらすぐに降ろすから辛抱してくれ。」
そう言って腕の中を覗き込むと顔を赤らめた千雨が頷いた。
それを確認するとそこに松明を持った兵が駆けつける前に紅丸は暗い城外へと飛び降りていった。
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「姉御!外が騒がしいですぜ。」
「ラック、作戦行動中は少尉と呼べと言っているだろう!」
「失礼しやした。で、どうします?」
「伍長、外の様子はどうだ?」
「はい、城内で何かトラブルが起きたようです。この部屋の見張りは先ほどまで5名いましたが、足音から察するに3名が何処かに行ったようです。」
「軍曹、お前はどう見る?」
「相手はこちらを舐めきってます。外の見張りはが二人であれば騒がれる事無く無力化できます。我々の見張りからも人員を裂いたと言う事はその騒ぎに人手が集中している事を意味します。今なら楽に抜けられるでしょう。」
「よし、ならば行動を開始しよう。無力化した兵は身包み剥がしてから縛り上げろ。伍長、脱出経路は問題ないか?」
「大丈夫です。ここに連れてこられるまでに辿った経路から見て一般的な城の造りと大差ないと考えられます。予想の域を出ませんが我々なら問題ありません。」
「判った!では行動後にはぐれた場合はこの町を出てから一番近い町を合流地点とする。そこで七日待っても来なければ置いていく。各自ドジは踏まないようにな!」
「「イエス、マム!!」」
少尉の号令が終わると扉に張り付いていた男が手で合図を出す。
二人の屈強な男が配置に付くとカチリいう小さな音とともに男が開錠する。
そしてすばやく扉を開けると同時に扉の前にいた見張りを部屋に引きずり込むと声を上げる間もなく昏倒させる。
そしてそこから大した時間も無く兵士の服を着た二人と数名の男女が部屋から出て行った。
城の者がそれに気付いたのは、彼らがとっくに城を抜けた後だった。
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「お前らすぐに追うぞ!動ける者は俺について来い!魔法師はここに残り動けぬ者の治療に当たれ!一人は急いで城門の前を固めるように合図をだせ!逃げた方角からして東門で間違いない。行くぞ!」
「「はっ、了解しました!!」」
そう言って走り出したパッドは途中見張りをしていた騎士を数名引き抜いては人数を補充しながら二人を追いかける。
地の利はこちらにあるが、夜ということもあり中々追いつくことが出来ない。
結局東の城門まで逃げた二人が辿り着いた頃にようやく追いついたが、文字通り人間離れした跳躍にはついて行けずまんまと脱出を許してしまった。
「団長・・・。」
騎士の一人が心配そうに声を掛けてくる。
「ああ、不味い事になったな。とにかく日が昇るまでは市街地での捜索は不可能だ。全員持ち場に戻ってくれ。休める者は明日の捜索に備えて休んでくれ。報告は私がしておく。」
実際今回の不始末の責任を取らされるのは私だろう。
首までは行かずとも降格は十分に考えられる。
ただ今回の件に限らず総監であるストナのやり方は気に食わなかった。
そう考えると降格して直接関わらなくて済むならそれも有りかと思っていた。
だが、その後に届いた報告によりその考えも甘かったことを知る。
ストナのいる執務室に向かう途中で伝令の兵に呼び止められる。
「パッド団長大変です!先に呼び出し監禁していた10名が騒ぎに乗じて逃げました!」
「なに!?本当か?」
「はい。手薄になった西の門から脱出したようです。」
「手薄だったとはいえ良く抜け出せた物だな。だが、彼らはよく鍛えられてはいるようだったが剣も魔法も使えないとの事じゃないか。あのオーガ二人に比べたら逃げたところで大した問題は無いはずだが?」
「それが、その・・・。」
「なんだ?ストナ様にはその件も一緒に報告しておく。判っていることは話してくれ。」
「実はあの者達が逃げて行く途中で幾つかの部屋が荒らされておりまして・・・。その中の一つにストナ様の私室も含まれています。・・・それで金目の物をごっそり持っていかれました。」
「どういうことだ!?警備の者がいただろう?それに鍵もかかっていたはずだぞ?」
「鍵についてはおそらく盗賊のような技術を持った者がいたのでしょう。警備についていた者は裸にされて部屋の中に転がされておりました。騒ぎで人数が減ったのをいいことに出くわした見張りを襲っては装備を奪って変装して逃げたようです。」
「ああ、判った。もういい。ストナ様には逃げた事と私室が荒らされた事も私から伝えておく。もう行っていいぞ。」
パッドがそういうと申し訳なさそうな顔をした伝令が一礼して去っていった。
「・・・まいったね。・・・降格だけじゃ済みそうにないな・・・。」
そうつぶやいて間近に迫ったストナ様の執務室に重い足取りで向かって行った。
誤字脱字や矛盾があれば随時直して行こうと思います。