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神隠しの行き着く先は異世界  作者: ヌッシー
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対峙、そして

初投稿ですよろしくお願いします。

 都から山二つ離れた街道の脇に神隠しの森と呼ばれる森が存在する。

その名の由来は昔この森に入った著名な侍が行方不明となった事にある。

それだけならただの遭難だが、捜索者が見た物は帯が締められたままの着物と足袋、路銀の入った荷物、命とも言える刀が人だけ消えたように落ちていたためだ。


 そんな曰く付きの森の中、山道から少し外れた古びたお堂の前。

そこでは二人の人影が対峙している。

 一人は古びたお堂の縁側に腰掛けたざんばら黒髪の男。

着物の上からでもわかる程に逞しく、その顔は精悍にして野性的な男らしさを感じさせる。

その背は六尺(一尺約30cm)を超える二十も半ばと思しき美丈夫。

この国の成人男子が五尺前後であるから大男と言って良い。

そんな男にもう一人の人影が声をかける。


 「ついに見つけたぞ、お前は奥州の赤鬼だな?」


長い黒髪を後ろに縛った若い旅人風の男がざんばら髪の男に問いかける。

その腰には旅人には不釣合いな木の柄の刀が腰に差されている。

背丈は五尺程とざんばら髪の男より頭一つ半ほど低く、目深にかぶった旅笠で表情はうかがいしれない。

旅人からは殺気が立ち上ぼり、それに重なるようにして別の気配もする。


 ざんばら髪の男はしばし考える。

人違いで押し通したいが向こうは確信をもっているように見える。

たとえ人違いだと言っても斬りかかってくるだろう。

恨まれそうな理由はいくつも思い当たるが目の前の人物が誰かはさっぱりわからない。


 旅笠で顔は見えぬが声にも覚えはない。

しかしこれが人の放つ気配か?

さてはてどうした物か・・・。


 しかし男の様子を見るに考えてる時間はなさそうだ。

このままではすぐにでも襲いかかってきそうなのでとりあえずの返答を返す。


「いきなり現われて鬼呼ばわりとは失礼な奴だの。ものを尋ねるならばまず名を名乗るべきであろうよ。」


 そう返された男は一瞬刀の柄に手を伸ばすが、短い逡巡の後殺気を押し殺しつつ言葉を返す。


 「お前がなぜ討たれるのか、今際の際に教えてやるつもりだったがいいだろう。私の名は千子村雨。龍泉洞の麓の村より仇討ちの旅をしている。・・・ここまで言えばわかるな?村での事・・・忘れたとは言わせんぞ!」


 その声は意外なほど若いがそこには狂おしいほどの怒りが滲んでいた。

そして最後の言葉には先ほどとは比べ物にならないほどの殺気が込められている。


 「おぬしはその村の生き残りか?なぜわしを仇だと思う?」


 「あの日私は山の炭焼小屋にいた。火の番を終え家に帰ると家族は殺されていた。家から飛び出した私が見たものは村人の死体と藩の兵と戦っている鬼だった。逃げる兵すらも追って事如くを殺し、人間の姿に戻って去って行くのを私は見ていた。それがお前だ!あの日・・・皆の仇を取ると心に誓ったのだ!」


 ここまで聞いてざんばら髪の男は納得する。

あの村に生き残りがいたとはのう・・・。

理由如何では逃げてしまおうと思っていたが弱った。

いや、喜ばしい事ではあるのだが。


 「千子とやら、話はわかった。だが誤解もあるようだの。」


 「誤魔化しは聞かん!別にお前が名乗らずとも斬る事に変わりはない!」


分かっておったが話し合いの余地はなさそうだ。

仕方なく質問の答えを返す。


 「わしは確かに奥州の赤鬼と呼ばれていた。お主の村のことも覚えておる。だがあれは・・・ぬっ!」


 赤鬼にそれ以上言わせることなく千子が刀を抜き斬りつける。

赤鬼はその場から大きく飛びのき水平に振り抜かれた刃をよける。

そして抜かれた刀を見て目を見張る。


 人のものではない気配はこれが理由か!?

抜かれた刀は陽炎が立ち歪んで見える。

 

 刀を抜いてからの動きは人の物とは思えぬ。

あの刀の様を見るに間違いなく妖刀の類であろう。

素手では厳しいと踏み、一飛びで五間(一間約1.8m)ほどの距離を開けた赤鬼は手近にあった石の杭を引き抜き構える。


 「おぬしがあの時見ていたのならわしを仇と思うのも仕方がない。だがわしの話も聞いてはくれんか?」


 「言い訳など聞くと思うか!」


 赤鬼が構えると同時に飛び込んでくる千子。

その一撃を赤鬼は右手の杭で防ぐ。

同時に刀を軸にした千子の蹴りが下から迫る。

それを左手で受け止めるが、スルリと杭をいなした刀が既に眼前に迫っていた。

 赤鬼はギリギリの所で体を仰け反らせてそれを交わすが、刀と人が同時に襲ってくる攻撃は実に読みづらい。

しかも無理な体勢で振るわれた刀でも有り得ないほどに重い一撃を放ってくる。

それゆえ体勢を気にする事なく千子自身は右手に握られた刀を無視したような動きで襲ってくるのだ。


 「ぬうっ、素手の攻撃とは思えん!」


 本来なら人間が妖刀を使えば刀の付属物に成り下がる。

そうならば刀にだけ注意を払っていればいいのだ。

こんな変り種は初めて見たわ。


 「妖刀を抜いてなお正気を保つとはどういうからくりだ?」


 「貴様の知ったことではない!」


 妖刀は作られた目的に忠実だ。

持ち主が壊れてでもその目的を果たそうとする。

 だが千子の場合、妖刀の力は使っているが操られていないのは明らかだ。

さらに数合の撃ち合いの後力任せに振るわれた赤鬼の杭が千子に迫る。

千子は後ろに引いてかわすが笠を掠める一撃にさらに数歩下がって距離をとる。

 なんとか説得しようと考えていた赤鬼もついつい感嘆の声を上げてしまう。


 「実に歪だが強いな!本来なら妖刀に呑まれただの木偶となるものだぞ!」


 かけられた声に反応して千子が赤鬼を睨み付ける。

杭が掠めた際に笠の紐が切れその素顔が露わになっていた。

笠に隠れていた千子村雨の顔はまさに般若の形相、人の顔ではなかった。


 「そういうことか・・・。」


 それを見た赤鬼は先ほどの言葉も忘れ眉間に皺を寄せた。

昨日今日であれ程の腕が身に付く訳がない。

ここにくるまでにどれほどの戦いに身をやつしたか。

その度に振るわれたであろう妖刀は持主の魂を変質させ蝕んでいく。

されど妖刀を持っている限り血を吸わせねば自らの魂が削られる。

刀を手放さぬ限りは負の連鎖が続き、正気をなくしたまま血を求め彷徨う。

ただし、人であれば。


 「千子村雨よ、これまで何をしておった?その刀はどこで手に入れた?おぬし遠からず人でなくなるぞ。」


 その言葉に千子の表情がさらに歪む。


 「家族、友人、村の人はみんな死んでしまった。故郷の村で流れた血を使い、お前を斬る為にこの妖刀を作り上げてより十年。鬼を探しては斬り続けてきた!貴様を斬ることが私と刀の悲願が成就される時だ!!!!」


 そして再び戦いが始まる。

しかし赤鬼は先と違い防戦のみとなる。

責めているのは千子であるが一向に致命打を与えられず焦れた千子が攻撃の手を休める事無く声を上げる。


 「どうした!?なぜ本気を出さない。さっさと鬼の本性を見せたらどうだ。私を侮っているのか!」


 赤鬼は戦いが始まってからも人の姿のままだ。

元の姿に戻ればもっと楽に戦えるだろう。 

赤鬼は一人と一本の猛攻をかわしながら語りかえす。


 「・・・千子よ。おぬしが今だ人であるのは妖刀の目的が果たされていないためだ。その刀がわしを殺すために作られた物なら、わしを殺した時おぬしは人でなくなるぞ。刀の目的が果たされたとき、おぬしは鬼となる。・・・先も言ったがおぬしは誤解しておる。村でのことを考えるとおぬしと戦いたくはない。まして鬼道に落ちる姿も見たくはない。」


 赤鬼がそう言葉を返すと束の間千子の手が止まる。


 「ならば皆を殺した理由は何だ!?行き倒れて弱っているお前を、鬼であるお前を村は受け入れたではないか!私たちが何をしたというのだ!・・・・・・・・・いったい・・・何があったの・・・?」


 激情を吐露した言葉の最後は弱々しく、初めて人の顔を垣間見せる。

その顔にどこか覚えがある気がするが思い出せない。


 「わしの知る事を全て話そう。話した事が信じらぬならわしを斬るがいい。村で過ごした時間にはそれだけの価値があった。おぬしの苦労も報われよう。それで良いか?」


 その言葉に千子は苦しそうな顔を見せ、その横では刀がカタカタと鍔を鳴らして隙を窺っているようだ。


「・・・私は・・・知りたい・・・でも・・・私・・見た・・・・あの日・・・・・・・あの日見た結果が全てだあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 千子の顔が再び歪み般若の形相を見せる。

だが先の戦いとは違いその眼に理性の光はない。

完全に刀に操られ襲い掛かってくる。

どうやら刀が狙っていたのは千子村雨の動揺による心の隙だったようだ。


 「もはや話は出来ぬか・・・。話は聞かせられなかったがどうせ信じはしなかっただろう。元よりあの村で救われた義理は返すつもりだった。命の借りは命で返す。故に約束を守ろう。」


 赤鬼は避けることなく袈裟がけの一撃を受け止める。

傷は内臓に達し鬼の身でも致命傷と言えた。

さらに止めとばかりに刀が突き出される。


 それも避けずに受け入れた赤鬼は刀に貫かれたまま千子の腕を掴み引き寄せる。

鯖折りのような体制になりもがく千子の耳元で赤鬼が語る。


 「わしは死ぬ。おぬしは鬼となる。妖刀と一つになったおぬしは人を殺し続けるだろう。

だが、おぬしもそれは望むまい。あの日の話はあの世でしてやろう。」


 かけた言葉に一瞬動きが止まった気もするが千子に声が届いたかは判らない。

本当なら人の世に返してやりたかった。

だが妖刀を止めるためには結局千子を殺すしかない。

不憫だが本懐を遂げたなら千子も浮かばれよう。


 他に方法はなかったのか?

そうは思うもこうなっては手遅れだ。

鬼のこの身が恨めしい。


 「すまぬ。」


 背中に回した両腕で締め上げると思いのほか華奢な体は鈍い音を立て背骨が折れた。

同時に鬼も力尽き二人は重なるように崩れ落ちる。


 そして意識を失う寸前二人は強烈な光を見た気がした。

不定期での更新ですがたまに覗いてください。

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