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あり得ないっ。
あり得ない! 魔法使いの空間を発現してくれる人工機械脳だ。非公認改造を施しはしたがそれだけの機能だ。ルニにいる間は隠しフォルダみたいになくなっているものだ。あり得ない。だから、左手首に抱く重さが、左手首に腕時計の形をした腕脳があるのを肌で感じることが、そして左手首を目の前に持ち上げたことで見えるその腕脳が、信じられない。信じたくない。
「まだルニにいるって思ってたんですか?」女の子が、年下の子どもをあやすかのように言ってくる。
僕は女の子の方に焦点を合わせた。
無意識に左腕がだらりと下がる。
「残念ですけど、逃げられませんよ」女の子が微笑む。
「そしてお兄ちゃんのために、その命を捧げてもらわないと困ります」女の子が続けて言う。
「うそ……だ……」頭を振って僕は思わず、か細くても声にしていた。
女の子の目元に陰りはない。今の女の子に腹黒さは見受けられない。本気で言っているように聞こえた。
冗談にもほどがある。
「うそだ……なんでだっ。ごまかしなんだろ!? 信用できるかよッ!」
んふふ、と女の子が心底からおかしそうに肩を揺らす。
「本当にごまかしかしら?」
「決まってんだろ! 腕脳はECRVRと有線接続して初めてオンライン通信を始められるんだっ。たとえ物理的接触で腕脳単体をハックできたとしても、司令塔は僕の脳だっ。乗っ取れるものかよ!」
「それはヒュミノイドを使わなければの話ですけれどね」
意識が飛びそうになったのかと思った。
なにを言っているのか分からなかった。
「腕脳をよく見れば分かるんですよ」咄嗟に僕は左手首を目の前へ振り上げた。
ブレて見えた腕脳が止まってからははっきり見える。ECRVRと有線接続するジャックから、なんだか有線の配線の内の、糸さながらの一本のようなそれが、目に見えるか見えないかレベルの虫のようなヒュミノイドを、首吊りの縄のように吊るしている。人型の虫などいるものか。
こんなもの今までに見たことがない。
ふっひっひっ、と女の子がしゃっくりのような笑い声で、愉快そうに笑っている。
あり得ない。




