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ッ!! と心臓が跳ね上がった。首筋に冷たいナイフを当てられたかと錯覚したほどだ。それほどの囁き声が右後ろの耳元からした。さっきまでも耳元で囁いてきた声と同じ声でだ。急いで振り返る。それでまた、自分がまだスケートリンクのないところに立っていることを思い出させられる。自分の内側が縦に揺さぶられる感覚はないけれど。視界の下で見上げてくる髪の長い小学生な女の子のなにかがおかしい。その子に焦点を合わせると顔面も全身も皮膚をひん剥かれて筋肉の繊維を覆う、無数の真っ青な血管の枝分かれが太く、細く、剥き出しの姿。零れ落ちそうな眼球で見上げて楽しそうに笑いかけてくる。
「ッあああぁあ!?」思わず飛び退いていた。そして急上昇する景色がブレている視界に女の子がいないことに気づいたのは、全身が前へ傾きながら下の空気を突き破っている感覚に気づいた時だ。
目眩がしたかのような感覚。
終わったと思った。
いや。
終わっていない!? と無意識に前のめりで転びそうになった体を踏み出した右足で堪えた時、足元に白い氷の床があることに気づいた。
自分は下を向いている。空気を突き破って落下している感覚がないのがウソみたいだ。
「フフハっ……」と脳天の方から囁き声のように笑う女の子の声。
頭から離れない。全身の皮膚がひん剥かれた女の子の楽しそうな笑顔。
喉のあたりで痰のように粘っこい唾がある。それを飲み込んで、恐る恐る、重く感じる顔をゆっくりと上げる。足元ならば大丈夫。
大丈夫だった。ちょっと白みもある黒の小さいムートンブーツだったのだ。肌触りがサラサラしていそうな厚い黒タイツもフレアスカートなショートパンツも。セーターかカーディガンか、その袖がパーカーの袖からはみ出ている。しなやかに長い黒髪の女の子。
やっぱりだと思った。
あのしつこいくらいに、囁き声のように笑ってきたのは僕の声ではなくて、こいつだ。
……こいつに違いない。
フフヒ、と女の子が微笑みながら、閉ざされている口をちょっぴり開いた。
どうしてだと、思わずにはいられない。
どうして。
こんなに、藤谷の、小さい頃の藤谷に似ている?
「ちょっとですね、見せてもらったんです」
……なにを言い出した。幼げなのに少し大人びた言い方の言葉で。
「今までの先輩の姿を、実はね」
そう言って藤谷な女の子は微笑んだまま、目元に、わずかな陰りを作り出す。
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誰だよ。
あんた。




