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 全速力で走る真向(まこ)が「いや、」と強く言い始めた。「必要ないよ百合奈(ゆりな)っ。これは私の」

 しかし藤谷(ふじたに)がそろりと真向へ振り返るが早いか、なにが起きたのか分からなかった。

 分からなかった。

 藤谷がス、と横に動いて真向の後頭部を引っ叩いた途端、なんと真向が大回転しながら祐樹(ゆうき)へぶっ飛んでいったのだ。そして祐樹がハ、としたかと思えば「ぎぇああああああああ!」と叫びながら、真向の大回転に巻き込まれた。(かたまり)になってぶっ飛んでゆく。危機を感じるほどの(すさ)まじい低空飛行だ。その勢いで二人とも透明な仕切りに豪快に激突した。その割には透明な仕切りはガラスで作られたとは思えないくらい、ビクともしていない。祐樹の方も激突した割には「うおおおい止まった!」と他人事のように驚くから、なんの痛みもないように思ったが実際はその通りだと思い出した。

 どうやったらそうなるのだろう。

 藤谷の手つきは、勢いよくやってきた真向を物理的に手玉に取ったように、重さを感じさせなかった。その軽やかさはまるで、後ろから飛んできた長物を振り返りつつ(つか)むや否や正面に向きながらくるくる回してポーズを取る、そのポーズを取る以外のことをやったかのようだった。

 ……信じられない。

 信じられないのだが藤谷は今、祐樹と真向を見て忍び笑いのように大笑いしている。

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