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鈍くヒビ割れた音の通りに目の前が全て白く霞んだ。ガクッと前のめりになったかと思えばまさに、底が抜けてどこまでも落ちてゆく感覚。しかもフ、と後ろへ引っ張られているような感じもある。温かく柔らかい感覚も心地いい香りもス、と遠ざかって、離れ離れだ。
なのに、それなのに重力に逆らえず、落ちているとしか思えない。
ゾッとなって頭がおかしくなりそうだ。落ちてっているに違いないだろ!
見えない。
感じるだけだ。
雲の高さから落下しているとしか思えないほどだ。空気を突き破っているような感覚が!
それが絶えず増してゆく。加速感!
「ぃっ――」いつぶつかるよっ。
「はっ――」いつ激突するっ?
「ぁあっ――」嫌だよっ、
嫌だッ!!
「櫻っ!」
ッ――と呼吸ができなかった。
そしてその時も視界が分からなくなっていたのに、今は見える。両肩も掴まれている。
青梅あき先生のイラストのような女の子の顔が、今、目と鼻の先にある。
透き通る晴天も後ろに見える。競技場の客席のような二階席を下にする防爆ガラスの天井の、向こう側。ガラスの一枚一枚を仕切るわずかなものさえなければ、ガラスのことなど忘れてしまいそうな透明感。景色の全てもイラストチックだが前回と違う。今回は㟁本貞代先生か。
トリックアートな感じにも見える。
もう、アニメを見ている時の見え方どころではない。二次元の世界じゃあこういう見え方になるんだと思わずにはいられないくらい、見えるもの全てからそう感じてしまう。見渡したりした時はスライドしているように見えるし、進んだり退いたりすれば奥行き感の頼りない平面の景色のパラパラ漫画だ。CGや油絵が現実の景色なら、こっちの景色は綿密なセル画である。
馬乗りしてきている目の前の藤谷だって二次元化している。黒髪のセミロングはツーサイドアップなのだがあまり横には広がっていない。そんな髪も、顔も、服の質感も影のある部分も全てがイラストチックで、両目だって現実よりも大きく、かわいらしくなっているし、普段は両目の感じが微かに凛々しいのだが、今は泣きそうに眉根を寄せ上げて腹の底から申し訳なさそうだ。本当にハラハラしている。というのにそんな様子が可愛く見えてしまう。
……そのせいなのかは分からない。
こっちは死ぬかと思った。




