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祐樹がまた真向へ走り出した。
真向がハ、とそれに気づくや否やギッと祐樹を睨みつけたが、すぐにううっと眉尻をたらす。
心の底から怯えているように。
僕はハ、となった。真向のそれが、強がったように見えたから。
間違いなく真向は無理して強がったのだから。
やめろお!! と叫びながら僕も、反射的に走り出そうとした。なのに藤谷が僕の服の右腕を掴んで必死に引っ張ってきたから、行けない。
「どうしてっ」と振り返るが、不安一色で眉尻を下げる藤谷が弱々しく頭を振った。
さらにはそれとほぼ同時に「なめるなぁあッ!!」の真向の怒声を聞いた自分の耳を疑った。
は!? と真向の方へ顔を戻した自分の目も、疑った。
なんと真向が気合一番、強気の顔で跳んだと思えば祐樹を踏み台にしたからだ。なんでだよ。
無理して強がったんじゃなかったのかよ!?
そんな真向さんが器用に今、透明な仕切りの上に下り立った。
それを見て僕は、本当は強がっていない!? と思ったがすぐに、眉根を寄せ上げる真向の、食いしばる歯が少し見えるほど仕切りの方を睨みつける様に気づいて、かなり強がっているのが分かった。真向の睨みつける先の仕切りでは、前のめりの祐樹の顔面がメコリと潰れるほどぶつかったままでいる。
マジかよ……とも僕は思った。なんと真向が瞬間的に両膝を曲げたかと思えば、急激に跳び上がったからだ。スケート靴でやったとは思えない跳躍。
そしてちょうど、透明な仕切りの直前にまで被さっている二階席の裏側に脳天を思いっきりぶつけた。ゴーンという音どころではなさそうなほど。
それで死んだかのように、透明な仕切りの向こう側へ、落ちた。あああああああああああ!
叫んでしまう。「真向ォォォォ!」と思わず叫んでしまう。そして藤谷の忍び笑いが笑いを堪えているように聞こえている。そういえば真向が頭をぶつけた直後にも、藤谷の「むッ!!」と吹き出したのが聞こえた気がした。
そのことが思い出された時にちょうど僕は叫び終えていた。だから藤谷の方を見てみると、藤谷がしゃがみ込みながら顔を両手で隠している。「ごめん……真向ごめん」とお腹の辺りが苦しそうに震えている。でも、真向は!? と僕は顔を戻した。




