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車が急発進した時に感じるような慣性がきた。
それが終わらない。
治まりやしない。
しかも振り回されているかのように、視界までブレている。両耳の中では、膜がパクパクと鳴っているような音までパクパク聞こえる。加えて耳鳴り、しかしコォーと聞こえて涼しげだ。
知らないわけではない。よく知っているものだ、しかし、今起きるなんて思いやしなかった。
空間移動じゃないか。
間動の感覚じゃないかよっ。
そう思っているうちに今度は気が遠くなる感じまでしてきやがった。追い打ちをかけてくるみたいに。両目の間に指を当てられている時のような感覚も、激しくなって襲いかかってくる。いや、脳みそが絞られている。ゾッとするほどっ。
知らない。知らないっ。こんな感覚なんて知らない!
……なんだってんだよ!? とも思った。
ふと、夢から覚めたかのように、薄暗い目の前が見え始めたのだ。
――そしてハ、と我に返ったような感覚。耳鳴りもパクパクもとうに消えていた。頭が痛くない。ただ、なにもかもがぼんやりと見えたり感じたりしている。
それでも分かる。違いない。
自分の部屋にいるのは確かだ。
そしてその感覚が懐かしくも感じる。目の前でしゃっくりさながら揺れている小学生の姿も。
転校してきて、小学生の間だけ同級生だった〝奈袴〟という奴の顔。
目の前で、仰向けで、嘲笑っている。
僕はいつの間にか、その奈袴の首に両手をかけている。
それなのになおも嘲笑ってくる奈袴のその、顎を上げて見下ろしてくる眼差しからは、目の前のクズを蔑み、余裕を振りまく憎たらしさしか感じられないっ。
櫻のくせにできんのかよってッ。
そんなだから頭がガッ! と沸騰しそうだ。
歯を食いしばらずにはいられない。あんたこそ舐めてんじゃねえよと。
自業自得だ。
足りないんだよっ。
いくら息の根を止めてやっても足りないだろう。そうだよ!
あんたのせいだっ。あんたのせいだっ。こうなってんのも全部ッ。全部だよッ! これから起こる何もかもも全部ッ、あんたのせいだってんだよッ。なあ!!
あんたが奪ったんだろ。あんたのためにこうなったってんだよ!!
寄ってたかってどれほどのことをしたよ。いつまで経っても消えやしないっ、恐いのが!!
クソくらえッ。クソくらえッ! 全部ッ、あんたのせいなんだからな!!
勢いに乗る。一気に握りしめてやる。
全力で絞ってやる、これでもかと。