里菜
「手記。
これを読んでいる、私以外の人へ。
あなたがこれを読んでいるということは、私はもうこの世にはいないでしょう。
たぶん、あなたは私を倒すことのできた、強い人です。
私の本名は大神月子。この手記の中では『私』と、表記します。」
・・・この文章を見るかぎり、Iは読んでいる相手にすごい低姿勢だと受け取れる。
この文章だけを見ると、あれほどの残酷な事をやる奴とは到底思えない。
俺、和泉はIから受け取ったこの手記を読み始めた。見た目とは大変異なるページ数と構成になっている。
パラパラッと目を通した感じでは、これは遺書ともとれる。
Iは一体、どういう人間だったのか。なぜ、あれほど残酷な大量殺人を行ったのか。そして、なぜあんな力があるのか。
俺は、まず、目次から「私の力」というページから読み始めた。
・・・
「私はいわゆる、超能力者らしい。自分でも確信は持てないが、物を見つめるだけで、浮かべる事ができる。透視能力もあるらしく、見つめるだけで、いろんな物が透けて見える。
さすがに瞬間移動はできないみたいだが、サイコキネシスでそれなりに速く移動できる。
私は10歳の時に、その可能性を確かめるために、私の友人竹内里菜と言う人間を実験台に使用した。
里菜と遊んだ帰り道、私は突然彼女の後ろで止まった。
「どうしたの?早く帰ろう?」
里菜がそう言った次の瞬間、彼女の手と足を拘束してみた。
危ない事に学校の理科室には、吸ったら身体が動かなくなるような気体が沢山ある。
あらかじめ用意しておいた大きなガラスの箱にその気体を充満させておき、あとは気体が漏れでないように急いでもそれを箱に詰める。
2.3分待つと里菜は動かなくなり静かになった。
動かなくなったそれを自分の家に運んでベッドの上にのせた。
まずは、彼女の身体を持ち上げてみた。感覚は自分の身体を持ち上げているのと、同じ。
これを読んでいる人間にわかりやすく説明すると、
私がサイコキネシスで感じる重さは実際の重さの10分の1になっている。100グラムのボールを持ち上げようとすると私には10グラムしか感じない。
と、いう訳。
まぁ、軽いという事。
次に、私は里菜をベッドに縛り付け起きてもあまり動けないようにした。
次の瞬間里菜が目を覚ました。
「っ!!え?ちょっと月子!!
これどうゆうこと?」
私は答えた。
「うーん。どうゆうことって言われても・・・」
まさか、里菜を実験台にしたとは言えない。
言えないけど・・・・。
「詳しく説明しようか。」
好奇心が勝った。里菜は私の事について知ったらどんな恐怖に溺れた表情になるんだろう。
里菜は震えていた。
どうせ、どうせこの子は死ぬんだ。いまのこの子に何をいっても意味はない。
死なせるならすべてを教えるべきだと、そのときの私は考えていたのだろう。
「私の名前は大神月子。この世にただ一人いる、超能力者。」
「はぁ?え、ちょっと月子何言ってるの?」
「本当だよ。だって、ほら」
私は、部屋にあるものを里菜の前に浮かせて見せた。
本、服、ぬいぐるみ、ノート、教科書、ランドセル、そして、私の父、母だったものの赤黒い個体・・・
「私はね、私が怖くて怖くてたまらないの。生まれた時からこんな能力があって・・・。幼い頃の私はこの能力がこの世にあってはならないことに、気がついていなかった。そのせいで、まわりの大人からは、化け物扱いされて、実験台になってはひどいことをされて、やっと味方になってくれる人が現れたと思ったら、ひどい裏切りを受けた。でも、私も私が化け物としか思わない。こんな私がわからない・・・・・」
里菜は驚きを隠せないそぶりで私に質問した。
「・・・月子は・・・月子は私をどうしたいの?」
私は答えた。
「きまってるじゃん。実験台にしたいんだよ。」
「実験台ってどうゆうこと?私を殺してもなんにもならないでしょう?」
「私たちももう10歳だよ。いまのこの時代10歳でいろんな事をしている人がいるよ。私はね私の可能性を確かめたいの。さっきさ、この世でただ一人の超能力者って言ったけど確信はないんだよ。だからたくさん、たくさん人を殺して、唯一私に反撃した人間が私の同胞って事になるの。でもその人間たちを殺すって事にもコツとか殺し方とかいろいろあると思う。
だって、私の両親を殺した時に二人合わせて5時間くらいかかったもの。もちろん練習として。私は早く短時間で人をたくさん殺せるようになって、人々を恐怖の渦に巻き込みたいの。」
「そんなの間違ってる。」
里菜が発した言葉に少し驚いた。
「なにが間違ってるって言うの?あ、人を殺すってのが?まぁ、普通の人間ならそう思うよね。でもさぁ、いまの地球の人口70億人だっけ?流石に多すぎでしょ。私がこの力を使って人を殺すのも、人生でせいぜい3億人。たった3億人だよ?いまこの瞬間にも何百人かの人間が生を受けてるっていうのに、たかが3億人って。だいたい・・・」
「違う。」
「・・・」
「仲間を探したいなら、他の手段だっていくらでもあるでしょう?なんで、わざわざ人殺しなんか・・・」
・・・
「こればっかりは、わかってもらえないんだね。」
もういいか。
「里菜。」
「なに?」
「やっぱり、私、無理だわ。」
「謝る気なんかさらさらないけど実験台になるんだもん。
一応、謝っとくわ。
ごめんね。
・・・
ばいばい」
それから、3日にもおよぶ里菜を使った実験が始まった。」