第一話 入学(1)
春。新春。
それはさまざなな物事にとっての始めてや始まりを意味する季節。
そんな季節を全力で後押しするかのように感じる桜の並木道を俺は歩いていた。
雲一つ無い空から降り注ぐ眩しい朝日を浴びながら満開に咲き誇るそれを見ているとなんだかこっちまで意味無くワクワクしてくる。
・・・・いや、違うな。
意味ならある。
なんといっても今日は俺こと水無瀬 天恭の彗校こと彗陛高校への入学式の日であり、夢と希望に溢れた高校生活の初日なのである。
彗陛高校は日本屈指のマンモス校であり、普通科による進学校と魔術科による専門校兼ね備えた中高一貫校だ。学校の敷地はかなり広く、魔術はもちろん普通科のための授業施設が完備されており、また部活のためのグラウンドやなんやもしっかり整備されている。聞くに近々、彗陛の大学部の設立の話もあるらしい。
また、彗校の魔術科は世界的にも注目されていてなかなかのランクに位置付けをされる学校なのだ。
「そんでもって今日があの日だもんなぁ・・・。」
ワクワクと共に少しずつ緊張が沸いてくる。
新しい仲間。
新しい教室。
新しい出来事。
高校生になって沢山楽しみなことはあるが、やはりなんといっても俺にとって――――――いや、魔術科に入る生徒ならほとんどが重要視するであろう事がある。
それは魔術科のある学校ならどこでもやるような恒例なことであり、俺達生徒にとってのステータスに関わる問題。
「魔術適性検査」、通称「魔検」だ。
聞いて分かると思うけど意味はもちろん文字通りで、魔術を覚醒させるだけの力があるか。覚醒させた上でそれを行使できるだけの魔力があるかを診るものだ。
魔術は一人一人に覚醒させられるだけの可能性が秘められているらしいけど、もちろん世の中には極稀だけど使えない人だっている。
だからといって使えなくても良いのかというとそういうわけではない。
やっぱり、使えると使えないではどうしても差が出てくる。
検診で「才能がないです。無能です。プギャー。」
なんて日には高校三年間拭うことのできない落ちこぼれの烙印が押されざるを得ないだろう。
特に俺みたいな彗陛に中学からいる奴なんかは顔が知れている奴ばっかだろうから死ぬほど馬鹿にされるだろうな。
「やばい・・・。考えれば考えるほど緊張してきたな・・・。」
待て待て、落ち着け。
なぁに、漫画のテンプレみたいに入学当日から遅刻なんてネタをかまさないように余裕を持ってうちを出てきたんだ。
時間になら余裕がある。
力を抜いてゆっくり気楽にいこうじゃないか。
「そうだよな。大丈夫だ。なんかしらの魔術はきっと使えるさ。」
そうやって気分を換え、綺麗な桜を見ながら。あるいは新しい学校生活のことを考えながら登校して行く。
そんなことをしているうちに校門が見えてきた。
腕時計を確認する。
8時15分。
入学式は9時からだしまあまあの時間といえるだろう。
いやあ、順調だな。
今日、いい事あるかもなあ。
そう思いながら校門を目指していると、近づくにつれて一人の人影が立っているのが見える。
身体の大きい男性で、一目で筋肉質だと分かる程のがたいにスーツを身に纏っているのがわかる。
見た目からして、十中八九教師だろう。
やがて俺はその教師の前に辿り着く。
「おはようございます。鬼先生。」
「おお。おはよう、水無瀬。」
その教師は男似 鉄夫教諭。通称「鬼」。
この彗陛高校の生活指導部そすべる教師であり、この学校の全教師において肉弾戦に関しては右に出るものがいない最強にして最凶の鬼教師である。
ちなみに鬼という由来は男似先生への畏怖の念が込められているというのと、苗字がシンプルに鬼と読める所から来ている。
「水無瀬。今お前鬼って言わなかったか?」
「ははは、やだなぁ先生。そんなことを言う筈が無いじゃないですかあ。」
「ん?そうか。」
やべぇ、口が滑った。
鬼のことがばれた日には生き残れる気がしないからなぁ。
とりあえず、面倒になる前に話しをそらそう。
「そっそういえば先生。どうしてこんな時間から校門に立ってるんですか?」
まあ話を逸らすのもあったけど、実際これは気になった。
遅刻ギリギリの時にはよく見たけどなあ。
・・・いつもこれくらいの時間に立ってたっけか?
「はっはっはっ。水無瀬は入学式の日からなかなか面白いことを言うじゃあないか。」
俺今なんか面白いこと言ったか?
「あはは。今の会話の流れが面白いだなんて先生は相変わらずおめでたい脳筋でなによりです。」
うん。今日も平和だなあ。
「よし、水無瀬への愛の補習は後でにするとして。水無瀬、学校の時計を見てみろ。」
あれ?
今なにかとてつもないことがさらっと決まらなかった?
今の会話に違和感を感じつつ鬼の言う通りに学校の時計に視線を向けてみる。
一体なんだというのだろう。別に遅刻をしてるわけじゃあるまいし。
学校の時計が視界に入ると共に自然に時間を読み取る。
時計の短針は10。
長針は5に限りなく近い状態。つまりは10時5分に差しかかる頃だった。
・・・・・あれ?
驚きは一周を通り越して俺に冷静を授けてくれた。
自分の腕時計を確認する。
8時20分。
まさに俺が学校に着くであろうと予想していた時間だ。
学校の時計を確認する。
腕時計を確認する。
学校の時計を確認する。
腕時計を確認する。
そんな機械的行動が繰り返され、得られた結果。
HAHAHA・・・・マジかよ笑えねぇ・・・・。
それは、余裕?何ソレ美味シイノ?と言わんばかりの大遅刻だった。
・・・入学式なんて無かった。
ていうかなんで腕時計が一時間以上も遅れてんの!?
訳が分からないよっ!!
区切るのって結構難しいんですね。(・ω・;)
変な区切り方でも勘弁してください。(;-ω-)