第八話 合宿にはハプニングが付きものだと言っても過言ではないのだ(part8)
「ええぇ!?本気だったんですか、さっきの話!」
湊が慌てて声をかけるのは、手早く手荷物を纏めた拓人と香織にだ。
何故か北海道へ行くという話になり、多数決で決定してしまったのだ。
湊はそれをその場限りの冗談、ネタだと考えていたのだが、話し合いが終わるや否や二人は着替え始め、そしてバッグに、外に出してあった荷物類を仕舞い始めた。
それを見て湊は、流石に冗談ではないと気が付いた。
「当然じゃない。何のための話し合いだったのかしら」
「そうだよ、法月さん。時間は有限なんだよ?」
息のあった返答を湊に返す二人。
その手は止まることがなく、荷物をまとめ続ける。
「いやいやいやいや、先輩方」
「『いやいやいやいや』とか言っている暇があるなら、さっさと荷物をまとめなさい」
『ジッ』とキャリーバッグのチャックを閉め、作業を終えた香織が言う。
「き、霧島先輩……」
最後の希望とばかりに、拓人へ縋る湊。
藁にもすがるような気持であることが、声からひしひしと伝わってくる。
しかし、その希望は――
「はてーしーないーおおーぞらーとー。ん?何か言った法月さん?」
拓人の熱唱と共に――呆気なく潰えた。
「あ、そうだ」
潰えたと同時に荷物を香織同様まとめ終えた拓人が、突然思い出したかのように言った。
湊が、『今度は何を思いついたんだ』とでも言いたそうな視線を拓人に向けながら言う。
「……なんですか?」
「行く前に、一つやらなきゃいけないことがあるから、それに付き合ってくれる?」
そう笑顔で尋ねた。
同意を得ようとしている呈ではあるが、拓人の言葉には有無を言わせない妙な力強さがあった。
二人には一体何のことか、とんと見当がつかなかった。
湊と香織は、珍しく心の中の意見が一致し顔を見合わせた。
*****
「女将さん」
三人――そのうち一人は最後までぐずった――が荷物をまとめて受付まで行くと、拓人がカウンターの中で何やら作業していた佳代子に声をかける。
「あら、みんな揃って……どうしたの?」
佳代子が三人の方へ顔を向けると、すぐに何かを察したようににこやかな表情を作り、
「ああ、さっき教えた観光地に行くのね、いってらっしゃい」
再び作業に戻ろうとする。
しかし拓人は、
「いえ、僕達これから北海道行ってきます」
「ほっか……?」
口をぽかんと開けて、呆けた声で言う佳代子。
まあ、当然の反応だろう。
明日までここに滞在する予定の客が、途中で切り上げて北海道に行くと言うのだから。
「と言う訳でチェックアウトをお願いします」
拓人は事もなげにさらりと言う。
佳代子は暫く動けずにいたが、
「あ……ええ。分かったわ。楽しんできてね」
と、あっさりと納得してしまった。
「分かっちゃうんですか!?」
出来れば反対してほしかった湊が叫ぶ。
「お客様の言うことは絶対だから、ごめんね?」
「王様ゲームみたいなノリね」
香織は嘆息交じりに感想を言った。
と、拓人が少し改まって、
「ところでですね」
話を切り出す。
拓人の言う『やらなきゃいけないこと』についてだろう。
ここに来るまでに湊と香織は気にはなっていたものの、拓人に聞けずにいた。
「何かしら?」
佳代子は首をかしげる。
「そろそろ白状してもらえたらな、なんて僕は思ってるんですよ」
「……何の事?よく分からないわね」
湊と香織は少し不審に思った。
佳代子の返答に若干の間があったことを。
二人は直感的に、拓人は佳代子について何らかの話があることを悟った。
拓人が一つ息を吐いて、はっきりとした口調で言った。
「結論から言いましょう。あなたは僕達の先輩――鏑木さんとグルだ」
「……一体何の話?」
拓人は咳払いをする。
それを合図に、湊と香織は聞き入る姿勢を取った。
そして拓人は説明を始める。
「この旅館には現在、連絡手段がない。固定電話は故障中で、インターネットの環境もない。唯一あるのは外にある公衆電話だけ」
「ええ。それが?」
香織が促す。
「では女将さんは、昨日、どうやって鏑木さんから連絡を受けたんですか?」
「あ、確かに。言われてみれば……」
湊は昨日のことを思い出した。
昨日この旅館に到着したばかりの時の会話、
――『それでですね。本来、三人で来るはずだったんですが、一人欠席になりまして』
『ええ、ええ。それは既に伺っておりますよ、あなたと出会うその前に。事前に、その『鏑木』様よりご連絡を頂いておりましたので』
『あ、そうなんですか?』
優希の手の速さに、ちょっとばかり驚いた拓人。
佳代子は話を続ける。
『ええ。今から二時間程前に。それで二部屋予約していたのを一部屋にして欲しいと』――
この会話は明らかにおかしい。
この旅館の固定電話は一年前から故障していると言っていた。
にも拘らず二時間前に連絡を受けたと言う佳代子の証言は矛盾している。
「公衆電話では連絡を受けることはできません。となると、別の連絡手段があるのか、あるいは事前に鏑木さんと連絡を取っていたのか……」
ここで拓人はピッと人差し指と中指を立てる。
「…………」
「しかし、ここには故障した電話以外に固定電話はあるように見えないし、ここでは携帯電話は圏外です。となると後者の可能性の方が高いでしょうね」
そして拓人は中指を折った。
そんな様子を見て、湊が隣にいる香織に小声で話しかける。
「なんか探偵みたいですね、霧島先輩」
「何気に頭良いのよ、拓人は」
自分のことでもないのに、何故か自慢げな香織の態度が少し湊の癪に障った。
が、湊は、なんだかんだ言っても香織も拓人の事が好きなのかと安心した。
そんな二人に気が付かない拓人は、尚も説明を続ける。
「僕はそれに気付いて、先程ここに観光地を聞きに来た時、少しカマをかけてみました」
そう言って佳代子の顔を見て、にやりと笑う。
その表情を見て佳代子は何か気が付いたように一瞬身体を震わせた。
「カマ……?」
湊が聞き返す。
「うん。さっきここに観光地聞きに来た時、最後に『――鏑木さんのお陰で助かりました』って」
――『参考になったかしら?』
佳代子が言った。
『ええ、それはもう。――鏑木さんのお陰で助かりました』――
「あ、それか!私が引っかかってたのは!」
その時の湊は何かに対して引っ掛かりを覚えていたが、その支えがようやく取れた。
「あなたのフルネームは確か『椿佳代子』でしたよね。にも拘らず僕の言葉に訂正一つしなかった。となると鏑木と言う名字に親しみがある。……ひょっとして『椿』という名字――それは、あなたの旧姓なんじゃないですか?」
「…………」
佳代子は無言だった。
構わずに拓人は続ける。
「今の名前は『鏑木佳代子』。あなたは、鏑木さんのお母さんです。違いますか?」
拓人はそう、確信を持った口調で締めた。
さすがにこれ以上の追及からは逃れられないと思ったのか、佳代子はふうと息を吐いた。
「……すごいわね。私もバレない様に気を付けていたつもりなんだけどね」
「では、認めますか?」
「ええ、認めるわ。私はあなた達の先輩の母親よ。ここにはあの子から頼まれてきたのよ。ここ、親戚がやってる旅館でね、ちょっと頼んで二、三日女将をやらせてもらったの」
佳代子はとうとう白状した。
「理由は?」
「多分概ね分かってると思うけど……合宿を面白くするためってあの子は言ってたわ」
『あの子』が優希のことだと分かると、湊は顔をしかめて小さな声で呟いた。
「ちくしょうめ……術中にはまっちゃったよ」
「ん?法月さん何か言った?」
「い、いえいえ!何でもないですよ!」
拓人にはかろうじて聞こえていなかったようで、ほっと胸をなでおろす湊。
恐らくこの合宿は湊をからかうために行われたのだろう。
そして湊はまんまと引っ掛かってしまった。
優希の計算通りに。
優希の思惑にも腹立たしいが、それに掛かった自分にも腹が立っていた。
聞こえていなかった拓人は、
「そう?」
とだけ言って佳代子に向き直った。
「後は大体あなたの言った通り。よく気が付いたわね」
佳代子が拓人を褒める発言をする。
本心からそう思っているようだ。
しかし拓人は、さらに言う。
「いえ、ここに来た時からおかしいなとは思っていましたよ」
「え?」
佳代子は素っ頓狂な声を出した。
拓人のこの発言がかなり意外だったようだ。
そのためか、拓人は少し言い変える。
「女将さんの姿を見たときに、妙だなとは感じました」
「……どういうこと?」
それでも理解できない様子の佳代子がそう聞き返した。
拓人は『では』と言ってから、
「『ストッキングの日』の話を昨日しましたけど、本当に女将さんは知ってましたか?」
佳代子にそう尋ねる。
拓人には佳代子の答えに予想が付いていた。
佳代子の答えは、
「……知らないわ、実は」
そう佳代子は答えたものの、拓人には当然の言葉だった。
「そうなんですよ。『ストッキングの日』なんてマイナーもマイナー、どマイナーな記念日を祝う――しかも一カ月間も祝い続けるなんて正気の沙汰じゃないんです」
「『ストッキングの日』なんて記念日を知ってる先輩も大概ですよね」
湊が白い目でそう呟く。
拓人はその言葉を気にも留めず、
「まあ、それは置いといて。女将さんの恰好が『ストッキングの日』に関連していないとすれば、あれがデフォルトの状態と言うこと。するとこの山奥で女将をしている服装からすると明らかにズレてる。ズレにズレてる。と言うことは、この女将さんは別の場所――都会から、あるいは都市部から来ている人間じゃないか、って思ったんです」
湊は思った。
確かに昨日見た格好――それに今日の恰好もそうだが、明らかに浮いてしまっている。
女将として誰かをもてなそうという格好には見えなかった。
佳代子は拓人の推理に一瞬目を見開いて驚き、納得の表情をする。
「なるほどね……服装のことを触れられた時はどうしようかと思ってね。咄嗟にあなたの言う『ストッキングの日』に乗っかっちゃったわけよ。それが失敗だったなんて……」
「それにしても霧島先輩すごいですね!私、全然気が付きませんでしたよ!」
湊が少し興奮したように言った。
「いやあ、まあね」
そう言って拓人は照れた仕草で頭をかいた。
こうして、拓人の『やらなきゃいけないこと』は幕を閉じたのであった。
どーも、よねたにです。
読んでいただいている方には大変申し訳ないのですが、この作品はどうもしっくりこないので、急ではありますが近いうちに完結させてしまうと思います。
個人的に未完のままと言うのは、それはそれで納得がいかないので、完結はさせます。
別のアイディアも出てしまいましたし、この作品のキャラクターが今一つ感情移入できなかったことも要因の一つです。
また、ネタも出難かったですし、地の文があまりスラスラと書けずに雑で稚拙になってしまったこともそうです。
それでも完結はさせますし、気になるところがあれば逐次改稿して行く所存です。
もちろん『ここが分かりにくい』等のご指摘があれば、そこも改稿します。
なので、それまでお付き合いいただければと思います。
では、また。




