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第二話 合宿にはハプニングが付きものだと言っても過言ではないのだ(part2)

 空は澄み渡り、上空の飛行機の姿もはっきりと見える程の快晴――そんな五月三日。

時刻は午前八時五十五分。

 場所は駅。

この近辺の駅の中では割と大きい部類に入る駅であり、明成大学の学生ならば誰もが使用する駅だ。

 駅ビルも存在し、地元民の多くや駅利用者はここを利用し、衣服や生活雑貨、食料品、その他諸々、様々なものを買い求める。

 その駅の改札前に湊は居た――大きな荷物を持って。


「遅いなぁ。先輩達まだなのかな……」


 多くの人が、湊を一瞥して改札を抜けて行く。

そんな視線に、なんとなく居心地の悪輪を感じながら、湊はその場に立っていた。

 今日は、優希が言いだした『秋田合宿』の当日だった。

前々日に、優希から今日この日、大学の最寄り駅の改札前に集合と言う旨のメールを受け取っていた湊は、律義に集合時間の十五分前にこの場所に来ていた。

あのメンバーで、『早め早めの行動を』と言うような、そんな常識を持っている人間など誰一人存在するわけもないのだが。

 そして十分が経過し、五分前行動をする通常の日本人ならば既に来ていて良い時間となり、湊は辺りをきょろきょろと見渡してお上りさんのような様相を呈していた。


「もう……なんであのサークルの人達は常識が無いのよ」


 湊が誰に言うでもなく、呟くようにぼやいた。

と、


「お待たせ、法月さん」


 唐突に、背後から拓人の声が響いた。

一切の気配もせず、全くの無防備の状態で声をかけられた湊は、


「うわっ!霧島先輩!?私の後ろに立たないでくださいよっ!」


 振り返りながらそう文句を付ける。

そこには、いつも独特の雰囲気を纏った拓人が、


「ごめんごめん。待たせてごめん、フゥ~ッ!!」


 とうとう湊には理解不能の域に達していた。


「……え?」


 湊が、拓人の発言の語尾についている不自然なものに呆気を取られていると、そんな事お構いなしに拓人がバッグを漁って、


「あ、はいこれチケット、フゥ~ッ!!」


 湊にチケットを渡した。

それを受け取りながら湊は、


「……なんですか、その……なんですか?『フゥ~ッ!』って。一昔前のホストみたいな」


 理解不能な言動を理解しようと、懸命に努力をする湊。


「あ、これ?これはね――」


 拓人は再び唐突に、回想へと入った。



*****



 遡ること一時間半前。

拓人が、大学生活を送るために実家を出て借りているアパートにいる頃。


「えぇと。あれは持ったこれは持った……よし」


 拓人は荷物の最終確認をしていた。


「あ、これどうしようかなぁ。持って行った方が良いかな」


 そんな事を呟きながら、ああでもないこうでもないとしていると、


(ピーンポーン)


 拓人の部屋のチャイムが鳴った。

時間はまだ七時台。

こんな早朝にチャイムが鳴ったことは、拓人にとって初めてだった。


「誰だ?大家さん――じゃないか。家賃は払ったし。隣の人――迷惑をかけるようなこともしていない……と思うんだけどなぁ」


 拓人はそんなことを考え、少しだけ不安なまま玄関の扉を開けた。

その扉の向こうには、見知った顔があった。


「あれ、鏑木さんじゃないですか」


 早朝にも関わらず拓人を訪ねてきたのは、鏑木優希。

拓人や湊が所属する『人間行動研究会』の創設者にして長でもある。


「おうおう」


 にこにこ――いや、にやにやとした笑みを浮かべている優希。


「どうしたんですか、こんな時間に。しかも突然」


「何事も――やってくる時は突然だよ。ラブストーリーもな」


「あ、確かに」


 遠い目をして決め顔で言う優希に、拓人は感心していた。


「時に霧島。小説でよくある『急に何言ってるんですか!』的な台詞、あるじゃん」


「ありますねぇ~」


「私はね、いつも思うんだよ。――発言はいつだって突然だろ、ってね」


「なるほどなるほど。……で、本題は?」


 同じような話を朝から二度聞かされて、流石に飽きたのか、話を先に進める拓人。


「今日、合宿だろ?」


 言わずもがなの事実。

先程から拓人が荷物の確認をしていたのだってこのためだ。


「そうですねぇ」


 拓人がそう肯くと、優希はバッグをごそごそと漁り、何やら封筒のような物を取りだした。


「ほい、これ。新幹線のチケットだ」


「あ、どうも。……別にこれは駅で渡してくれればよかったんじゃないですか?法月さんの分もありますし」


 チケットを受け取りながら拓人は当然のことを言う。

すると優希は、


「私は風邪を引いてしまったから行けなくなった」


「……風邪引いているのに外出ていいんですか?って言うか、どうみても健康体にしか見えませんよ?」


 拓人が微妙にずれた反論をする。


「おいこらてめぇ。先輩の言うことが信じられないのか?いつからそんな後輩になった?私はそんな風に育てた覚えはない!」


 胸を張って堂々と言い切る優希。

そんな優希を冷めた目で見つめる拓人。


「僕は先輩に育てられた覚えがありませんけど……」


「とにかくだ!新幹線乗って駅着いたら、レンタカーでも借りて、この『ふけ野旅館』って旅館に行け。予約はしてあるから」


「……はい。わかりました。最後に、なんか嘘臭いんでもう一回確認しますけど……本当に風邪なんですよね?」


 すると優希がタイミングよく――と言うか微妙にわざとらしくクシャミをする。


「ハックション!」


「うわ、ちょ、汚いですね!もうっ!」


 拓人が後ろに飛んで下がる。


「は……は……」


「マイケル?」


「ジャックソンッ!」


「……おお……ふ」


「『おお……ふ』じゃねえよ!何やらすんだ!……とにかく、後は頼んだぞ?」


 そう言って踵を返し、帰ろうとする優希。

どうやら話はこれで終わりのようだ。


「……釈然としませんけど、分かりました」


 首をかしげながらも、拓人は渋々了解した。


「じゃあな、フゥ~ッ!」



*****



「で、なんか分からないけどはまっちゃって、フゥ~ッ!」


「こっちの方が分からないことだらけですよ!」


 湊は語気を荒げて拓人に詰め寄った。


「えぇ?」


 素っ頓狂な声を上げる拓人。


「なんですか?じゃあ、鏑木先輩はこの合宿に来なくて、私達、ふ、ふ、二人きりで二泊三日ってことですか!?」


「なんでそんなに語気を荒げているのか分からないけど……そうだね。結局香織も『当日は行けない』って言ってたから」


「――――」


 湊はこの間の、湊のウインクを思い出していた。

あれはこういうことだったのか、と。

しかし湊は、嬉しさと気恥ずかしさで、優希に対して怒っている余裕など一切なかった。


「……どうしたの、法月さん。顔赤いけど。まさか、風邪?あ、じゃあ合宿を中止に――」


 湊の顔を覗き込みながら、心配しながら言う拓人に、湊は、


「いえ!風邪じゃありません!行きましょう!」


「そう?ならいいけど」


「ええ、もう問題ありません!」


 胸を張って言う湊。

傍から見れば、それはもう堂々としたものだったが、内心は動揺で大変なことになっていた。

もちろん、拓人はそんなことを知る由もない。

二人は改札を通ってホームへ向かう。

と、


「あ!!」


「え!?なんですか!?」


「駅弁!駅弁だよ!すっかり忘れてた!後で買おう!」


「……あ、はい」


 拓人は湊の動揺を、本当に、知る由もない。

それを知った、湊だった。



*****



 所変わって鏑木家。

その頃、優希はと言えば。


「くふふふっ……。法月の動揺している姿が目に浮かぶようだ……」


 好事家のようないやらしい笑みを浮かべていた。

そう、優希は風邪など引いていなかった。

この合宿は全て、仕組まれたものだった。

拓人と湊を二人きりで旅行させるために――


「相馬は合宿に行くわけがないし、橘も行く確率は低い。しかも私がちょっと情報操作すればその確率は皆無にも等しい!しかし、今回は少しばかり趣向を変えてあるが……ふふっ」


 なぜそこまで、優希が湊のためにしてあげるのか。

その理由は――


「面白き事もなき世を面白く!全ては非日常的展開の為!」



*****



「き、霧島先輩……」


 拓人と湊が新幹線に乗り込み、しばらくした時のこと。

二人並んで、窓側の方に座っていた湊が拓人に話しかけた。


「ん?どうしたの法月さん。お腹空いたの?」


「子供じゃないんですから……違いますよ」


 呆れた表情を浮かべて否定する湊。


「じゃあ、トイレ?トイレならこの通路を真っ直ぐ――」


「霧島先輩。デリカシーと言う言葉の意味、知っていますか?」


「えぇ?それくらい知ってるよぉ」


 自信満々の拓人と裏腹に、精神面が満身創痍な湊。

対照的な二人だった。


「……絶対知らないですよね。身体に教え込ませた方が良いんですかね」


 こめかみに指を当てて頭を振る湊。

 どうしてこんな人が好きなのか、と頭が痛くなる湊だった。


「それで、一体どうしたっていうの?」


「いえ、その……ふと思ったんですけど、私と先輩って知り合ってまだ一カ月もたっていないんですよね」


 拓人の方へ、少し身を乗り出して言う湊。


「……そう言われてみればそうだね。随分昔から知り合いみたいな感じがしていたから、なんかそういう実感が全然ないけど」


「それで、よくよく考えてみると、私って先輩のこと全然知らないんですよ」


「そう言ったら、僕だって法月さんのことあんまり知らないよ」


「そうですよね。と言うわけで、その……お、お互いのことをもう少し知るために、自分達のことを話しませんか?ほ、ほら!三時間程、着くまで時間ありますし!」


 頬を赤らめて、後半は捲し立てるように喋る湊。


「なるなる。良いと思うよ」


「ですよね!――と言うわけで、先輩から聞きたいことあれば、どうぞ」


 こみ上げてきた恥ずかしさの処理で手いっぱいの湊は、質問の先行を拓人に譲る。


「そう?じゃあ……法月さんの趣味って何?」


 と、お見合いのごとく無難な質問をした拓人。


「私の趣味ですか?そう言われてみると、『これだ!』ってものもないんですが……強いて言えば、最近は写真に少しハマってます」


「写真?」


「一応、一眼のカメラを使ってます。今日だって――ほら、持ってきているんですよ」


 拓人が聞き返すと、手持ちのバッグから少しばかり本格的な感じ漂うカメラを取りだした。

もっと女の子らしい趣味でも持っていると思っていた拓人は少し驚いていた。


「へぇー」


 が、そう言う感情が表情に出ない拓人だった。


「先輩の趣味はなんですか?」


 ようやく落ち着いてきた湊が質問する。


「僕?趣味……趣味……あれ」


 天井を見つめ、考えていた拓人は、きょとんとした表情になる。


「どうしたんですか?」


「僕の趣味ってなんだろう」


 湊を見つめて、無表情で拓人は聞いた。


「私に聞かないでくださいよ」


「僕、趣味……ないかもしれない」


「そう言えば、趣味のない人はケツの穴が小さいって言いますよね」


「え、じゃあ法月さんはガッバガバ?」


 拓人のこの発言に湊は、


「今の発言、法廷に持ち込んだらどうなりますかね。絶対私の勝訴ですよね」


「地裁で負けても、即控訴して最高裁まで持ち込む。それでも僕はやってない」


「……じゃあいいです。なんか面倒臭いんで」


「でも、趣味はあった方がいいかなぁ。無いよりはあった方がいいじゃんって、徳川さんも言ってたし」


「そうなんですか?知らなかったです。ちなみに徳川誰さんですか?」


 湊は歴代徳川家の人物達を思い浮かべる。

しかし『無いよりはあった方がいいじゃん』と言った人物がだれなのか、とんと見当がつかなかった。

 湊は拓人の答えを待つ。


「徳川宏」


「……は?」


 拓人の答えは、湊の聞いたことのない名前だった。


「誰ですか、それ」


「近所のおじいさんだよ」


「じゃあ知りませんよ!知るわけないじゃないですか!どうして私が知ってると思ったんですか!?」


「だって『誰?』って聞くから」


 確かに聞いたのは湊だ。

そして、勝手に徳川将軍家をイメージしてしまったのも湊だ。

つまり、湊の勘違いである。


「……まあ、そうですね。先輩は別にあの徳川家とは言っていませんし。私の勘違いでした」


「でしょぉ?」


「で、でも普通『徳川』って聞いたら、徳川将軍家と勘違いしませんか!?」


「法月さん。現場に先入観を持ちこんだら――死ぬよ?」


「どこの山さんですか。刑事ごっこなら余所でしてくださいよ」


 中身のない会話を続ける二人を乗せた新幹線は、順調に目的地へと向かう――

どーも、よねたにです。


平穏?な日常物語の第二話です。


多分、その内改稿するとおもいます。


では、また。

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