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ある日の話



 湊と香織が同日に拓人への告白を敢行し、一応『丸く』収まり取り敢えずの結末をみた告白劇から数日後。

拓人と湊は告白以来初めて二人きりとなった。

場所は部室。

 現在の時刻は丁度昼休みなのだが、普段居座っている部室の主が不在で香織もいないというところを見ると、もしかしたら気を使われているのかもしれないなと湊はなんとなく思っていた。

……いや、『宣戦布告』をしてきた香織がそんなことをするはずがない。

ただの偶然か?

様々な憶測が頭をよぎる。


「どうしたの?」


 拓人が湊の顔を覗き込んだ。


「ふぇ!?」


「いや、なんか面白い顔してたから……あれ、もとからそんな顔だっけ?」


「霧島先輩ホントに私のこと好きなんですか!?さらっと酷いですよね!?」


 愛情の量を確かめる計りがあれば、と湊は現代科学の未熟さを呪った。


「……ところで、霧島先輩。私が作ったお弁当……どうですか?」


 そう、湊は今日初めて拓人に弁当を作ってきた。

もちろん完全なる手作り弁当である。

男の子向けではない小さな弁当箱に色とりどりの食材が詰め込まれた弁当は非常に食欲をそそった。


「うん、おいしいよ。ただまあ、あえて苦言を呈するなら――」


「結構です!あえての苦言なら言わないでください!」


 あいかわらずの拓人に、湊は少しほっとしていた。

もしも自分たちの告白がきっかけで拓人との距離が開いてしまったら――そう考えるだけで胸が締め付けられるように痛くなる。

今くらいの距離が丁度いい。

湊はそう思った。

……まあ、もう少し近づいてもいいかもしれないが、と内心で思ったのは絶対に秘密だったりする。


「法月さん、料理できたんだねぇ」


「ええまあ。これでも女の子ですからね」


「いやいや、どんな食材でも劇的に不味くする人もいるからね~。食材そのまま食べたほうが美味いってくらいに」


「ええぇ~そんな漫画みたいな人実在するんですか?」


「するんだなぁこれが」


「――あ、もしかして橘先輩ですか!?」


 テンションが上がる湊。

もしもそうならば香織に勝てるファクターが一つ増える。

それどころか相対的に女子力のプラスポイントになるのではないか。

そう思った。

が、


「いや、香織はすっごい料理上手いよ。正直このお弁当より」


「……あ、そうですか」


 テンションは急降下した。

そして湊は思う。

何故比較するのか、と。

そして溜めの一つもなく負けを告げるとか、一体どういう愛情表現なのだろうか。

高度な表現過ぎて付いて行けなかった。


「…………」


 そんな湊を見たからだろうか。

拓人が首筋をポリポリと掻きながら言葉を繋いだ。


「……ただ、まあ……ね。料理は味だけじゃあないからね。作った人が誰によるかで、また味わいとかそういうのも変わってくるし……誰と食べるかでも変わってくるからね」


 俯いていた湊は視線をグイッと上げる。

そして拓人を見ると、少し頬が赤くなっているのが分かった。

同時に先ほどまでの鬱屈した気持ちが嘘のように晴れた。


「そ、そうですか……」


 ついでに湊も照れてしまい部室に沈黙が流れる。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 先に沈黙を破ったのは、湊だった。


「ところでなんですけど」


「うん」


 そう前置きをした湊が言う。


「どうして鏑木先輩とかの意見を聞かなかったんですか?」


 湊は知っていた。

優希が拓人に『二人と付き合えば万事解決』と言うようなことを言っていたことを。

今だから正直に吐露してしまえば、それでも湊は良かった。

確かに一般的な男女のお付き合いとは少し趣が異なってはいるが、それはそれで楽しいものになっていたはずだ。

拓人はもちろん、香織も合宿の際に腹を割って話したことで悪い人ではないと分かっていた。

拓人のことを香織よりも後から好きになったにも拘らず、嫌がらせなど排除されるようなことをされなかった。

むしろ、応援してくれてさえいた気がする。

そしてその香織も、三人で付き合うという行為を提案されていれば、あっさりと受諾したような気もする。

結論としては拓人が香織の告白を断り、湊と付き合うようになったが、優希の意見も決して悪い意見ではなかったように湊には思えていた。


「う~ん。まず個人的に三人で付き合うっていうのが二股みたいで嫌だったっていうのもあるし、やっぱり香織に対しては『好意』っていうより『信頼』って言ったほうがしっくりくるような気がしたからかなぁ」


「まあ、それは聞きましたね」


 信頼云々の話は告白の際に聞いていた。


「あとは――100パーセントじゃあないからかな」


「100パーセント?」


 湊は首をかしげる。


「そう。時間と愛情は限りがあると思うんだ。時間だったら一日どう頑張っても24時間だし、愛情も、例えば好きな人のことを考える時間を愛情としたら時間に比例するし」


「なるほど」


「で、付き合う相手が一人なら24時間分の愛情を100パーセント相手に注ぐことが出来るけど、二人に増えたら50パーセントで半分になっちゃうでしょ?――僕の方には相手の100パーセントの愛情が二人分で200パーセントの愛情が来てるっていうのに」


「…………」


「それってやっぱり相手に失礼なことだと思うんだよね。どう頑張ったって相手が二人いたら100パーセントの愛情を二人に注ぐことは出来ないから」


「要するに不公平ってことですかね?」


「そうそう!まさにそう!これは個人的な――まあ、持論みたいなものだけど。愛情は対等じゃないといけないと思うんだ。関係性だけで言えばカカア天下とか女の人の方が力持ってても亭主関白で男の人が主導権握ってても構わないし、女王様と奴隷っていう関係でもいいと思ってる」


「最後はかなり特殊な性癖な感じですけど……」


 まあ持論だから、と湊はひとまず置いておくことにした。


「でも二人が想い合う気持ちの量は対等じゃないと、バランスが崩れて傾いて――ゆっくりとシーソーみたいに傾きが大きくなって、最後は潰れちゃうと思うんだ。だから僕は絶対に一人に決めようって思ったんだ」


 途中おかしい点もあったが、なるほどと湊は感心した。

――『長い棒を持つと振り回したくなるのは武士の血が混ざっているから』とか『隠し事をすると便秘になる』とか、普段は根拠がなくて訳のわからない持論しか言わない気がする拓人が、こんなちゃんとした持論を持っていることに。


「っていう訳で、その~……ね。100パーセントの愛情を……湊に向けていこうと思う」


「は、はい……え、湊!?いま『湊』って言いました!?」


「駄目かな」


「だ、駄目じゃないです!駄目じゃないです……拓人……くん」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 バンッ


 突如として部室の扉が開いた。

二人はびくっと肩を震わせ小動物のごとく視線を向けた。

そこには――


「甘いわね。甘すぎて生活習慣病になるところだったわ、拓人」


 絶世の美女、橘香織の姿があった。


「か、香織!?」


「橘先輩!?」


 二人の動揺を余所に香織は拓人にツカツカと歩み寄る。

そして拓人に目の前にある弁当箱を一瞥して、ひょいとおかず――卵焼きをつまんで口の中に放り込んだ。


「……何よこれ。焼きすぎじゃないの?もう少し焼き方を工夫しなさい。食感が固すぎるわ」


「べ、別にいいじゃないですか!た、拓人くんも『おいしい』って食べてくれましたよ!」


 ドーベルマンにチワワが威嚇するように、香織に向かって吠える湊。

そして援護射撃を期待するように拓人の方をちらりと見る。

が、


「おお~流石だね。僕も思った」


「裏切られた!?」


 味方だと思って背中を預けたらばっさりと切られたような気分だった。


「拓人くん、どうして!?」


「いや、さっき言ったでしょ?『あえて苦言を呈するなら』って。それが、コレ」


「なっ……」


 湊が絶句していると、香織が勝ち誇ったかのように鼻で笑った。


「幼馴染だから拓人の舌については熟知しているのよ。ついでに下の方もね」


「くうっ~!」


「いや、香織も何を言っているんだい?下の方何て知らないでしょうが」


「やはり私を彼女にした方がいいと思うわよ、自分で言うのも何だけれど」


 あの『宣戦布告』通り、攻めの姿勢を貫く香織。


「ちょ、何言ってるんですか橘先輩!?」


 こんなやり取りが収まるのは、二人が結婚するまで続いた。

それでも『収まる』というよりは『少なくなる』と言った方が正しいだろう。

けれど湊も口ではこうは言っていても決して、嫌な訳ではなかったりする。

こういう会話があってこその三人の関係――そう思う節すらあった。

 『円く』収まれば全て良し!

三人の不思議な関係――縁は続く。

どーも、よねたにです。

以前書いたものがあったので投稿してみます。

本編の続きで番外編と言った感じなので、読まないでもなーんにも問題はないんですけどね。

一先ずこれにて、このお話は完結です。

『circle』ってタイトルに付けて上手いこと言えたらなーって最初の話を投稿する前から考えてはいたんですけど、結局何も言えませんでした……。

評価や感想などございましたら、よろしくお願い致します。

では、また縁(円)がありましたら(笑)

……駄目だ、上手いこと言えない。


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