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第十二話 言葉にしないと伝わらないと言っても過言ではないのだ(part4)

 拓人は部室の前にやってきた。

理由は単純明快、二人に告白の答えを告げるためである。

誰からも二人が部室に居るなどと言う情報を聞いたわけではなかったが、拓人には二人が部室に居る予感があった。

 拓人は控えめにノックをする。

が、返事を聞く前にその扉を開けた。

 扉を開けたその先には、案の定――湊と香織、二人の姿があった。

二人はソファと椅子にそれぞれ座り、何やら話をしていたようだった。

拓人は内心少し安堵したが、それを悟らせないようにして言った。


「話があるんだ」


 湊は意外そうに、香織は無表情で拓人の顔を見つめていた。

一体二人は何を思ったのだろうか。

意外と答えを出すのが早かったな、それとも前置きは良いからさっさと言えよ、とでも思っているのだろうか。

拓人にそれを知る術はない。

 刹那の沈黙の後、香織が言う。


「そう。で、どちらに話があるのかしら。私?それとも法月さん?」


 香織は自嘲気味な笑みを作る。

湊は香織の声ではっと我に返る。

どうやら拓人がこの場に来たことが意外過ぎたようだった。

 拓人は首を横に振る。

――今日一日で結構首を振っているなと思いながら。


「二人に聞いて欲しい」


 拓人が、香織の予想と全く異なる回答をすると、


「ええ!?」


 と、驚きを隠せない湊。


「ふうん」


 と、目を細める香織。


「気がきかない男ね。告白した美女二人を同席させて、返事をしようだなんて」


 香織は少し不快そうに言う。

香織のその反応も最もだろうと拓人は思った。

告白の返事――二人から告白されていて、その二人を同席させて返事をしようだなんて、通常ならば正気の沙汰ではない。

そして刃傷沙汰になっても文句は言えない状況を、これから拓人は作り出そうとしていた。

しかし、拓人には二人を同席させなければならない理由があった。


「そうだねぇ。ちょっと前の僕の思考だったら絶対にこんなことはしなかっただろうね」


 拓人は少し昔を懐かしむような目で言った。

ひょっとしたら以前の――告白される前の状況を思い出しているのかもしれない。

何のしがらみもなく、何も考えずに二人と接することが出来た、拓人が理想とする関係。

 だが、今となってはそんなことは言っていられない。

現実は、どうあがいても変えることはできないのだ。


「法月さん、拓人はそう言っているけれど……良いかしら?」


 香織は湊に確認する。


「は、はい」


 慌てたように湊は答えた。

どうやら、湊は湊でいっぱいいっぱいの様子だ。

香織はいつも通りのように見えるが。

拓人はそんな事を頭の隅で考えた。


「と言う訳で、拓人。話して頂戴――と、その前に」


「ん?」


 香織の言葉にはまだ続きがあるようで、拓人は待った。


「色々と時間列が複雑になってしまったから、この場で、もう一度スッキリさせようかしらね」


 そんな事を言った。

拓人は、香織の言うことが良く理解できずに、


「どう言うこと?」


 と、言った。


「法月さん、ちょっと」


 香織は拓人の疑問をあからさまに無視して、湊の耳元に口を近づけた。

そして何やら拓人には内緒の話をしている。

拓人はそれを待つしか選択肢がなく、少し手持無沙汰ではあるが、話が終わるのを待つ。

その待ち時間は意外と短く、湊の、


「えええぇ!?もう一回ですか!?」


 そんな絶叫で終わった。

湊は顔を赤くして、対して香織は少しにやりと笑っている。


「別にいいじゃない」


「うううぅ……分かりましたよ、もう……どうにでもなれですよ」


 どうやら話し合いに決着がついたようで、二人がそれぞれ立ちあがった。

拓人は頭の上にクエスチョンマークを乗せている。


「なになになになに!?」


「拓人は黙って。そのまま座っていれば良いのよ」


「ええ!?」


 拓人は情けない声を出して、香織の言葉に従った。

そして――


「拓人」


 香織が言う。


「私は拓人の事が好きよ。それはもう、随分と昔からね。小学校、中学校、高校――ずっとあなたが好きだったわ。私たちには長い長い思い出があるわね……拓人が忘れていても、私は忘れていないわ。まあ、ともかく私と付き合いなさい」


 香織らしく命令口調ではあったが、それはそれで拓人にとって心地よくもあった。

何があっても自分を変えたりはしない、それがありありと拓人には感じられた。


「霧島先輩」


 次に湊が声を発した。

その声は先程までの困ったような口調ではなく、しっかりとした口調だった。


「改めて言いますけど……私は、霧島先輩の事が、好きです。私は橘先輩みたいに、霧島先輩と長い間一緒で、何でも知っているとか、そう言う訳じゃないですけど……この短い間一緒に居て、霧島先輩の横っていう位置がとても楽しくて、居心地が良くて……叶うならばずっと一緒にいられたらって思うようになりました。その……わ、私と付き合ってください!」


 湊は頬を赤らめて、しかし、拓人の目を見て、言いきった。

拓人は、顔が熱くなるのを感じた。


「――と言う訳で、拓人の答えを聞かせてくれないかしら?」


「聞かせてください、霧島先輩」


 決意の宿った瞳で拓人を見据え、二人が言った。

 ここに来るまでの間、拓人は考えていた。

自分は、二人――湊と香織に好意を抱いている、と。

だがしかし、その行為二種類を付けるとしたら、全くの別物なのではないか、とも思っていた。

 香織とは、先ほど香織が言った通り、小学校からの付き合いでその歴史はとても長い。

その間、様々な思い出がある。

 香織は『拓人が忘れていても私は忘れていない思い出がある』と言っていたが、拓人は香織との思い出を何一つ忘れていない。

そう言いきれる自信があった。

 それ程までに拓人は、香織に好意を抱いていた。

 対して湊とはこの数カ月間の付き合い――しかも学年も違う為このサークルだけの付き合いだった。

しかし、とても密度の濃い数か月だったと拓人は思っていた。

 特につい先日の合宿――途中から香織も来ていたが、その前日は湊と二人きりでの移動と観光だった。

そこで拓人は改めて湊の人柄や性格を知り、親近感を持っていた。

だからこそ、ああ言った態度が取れたのだ。

そしてそれについて考えた時、それは湊に対する好意だと気が付いた。

 そんな拓人に優希、相馬は言った。

『二人と付き合ってしまう』と言う答えがある、と。

確かに、万事上手くいけばこれ程の回答はないだろう。

 しかし拓人には、二人と付き合ってしまうと言う行為、それ以前に二人と付き合ってしまうという考え自体が許せなかった。

相手の好意を踏みにじる、最低の行為なのだと位置づけていた。

 拓人は悩んだ。

悩みに悩んだ。

その結果、出した結論は――

 拓人はすっと息を吸って、その言葉を口から紡ぎ出す。

最初の言葉は――


「まず、その……ありがとう」


 『ありがとう』――感謝の言葉だった。

 照れくさそうに頭をかきながら、拓人は言った。


「い、いえ……」


「そんなことはどうでもいいんだけれどね」


 湊は頬を赤く染めて、香織は無表情――いや、笑顔になるのをかみ殺して言った。


「今まで、こんな風に言われたことがなかったから……凄く嬉しいよ」


「あはは……」


「ふん」


 三者三様ならぬ二者二様の反応を見せる二人。

拓人は続ける。


「まず、これは絶対なんだけど……僕は、二人ともに好意を持っている。これは間違いないんだ。それで、ここに来るまでずっと、なにが最良の選択なのか考えていたんだけど……そこで思ったのは、二人に抱いている好意――これって種類が違うんじゃないのかなって。例えるならば、香織に持っている好意は『信頼』って言う言葉に置き換えられて、法月さんに持っている好意こそが、好きって言う気持ちなのではないか……」


「――っ!」


「…………」


 湊は思わず息をのみ、香織は無表情のまま。


「だから――法月さん、僕で良ければ付き合ってくれる?」


「――はいっ!」


 湊は目に涙を浮かべ、それを手で拭った。

こうして、一組のカップルが誕生した。

しかし、拓人にはまだやるべきことが残っていた。

 拓人は香織に視線を移す。


「香織。ごめ――」


「謝らないで頂戴。私がなんだか惨めに思えるから」


 拓人の言葉をさえぎって言う香織。


「なるほどね、私に向いていたのは『好意』ではなく『信頼』だったのね」


「僕は香織の好意にずっと気が付かずにここまでずるずると来た。だから、香織には事の顛末を全て知る権利があると思った。だから二人一緒に聞いてもらったんだ」


「そう」


「それと、もう一つ、二人一緒に――香織にも聞いてもらった理由がある」


「何かしら」


「僕を殴ってくれていい。それ以外でもいい。なんでもいい。それで、許してくれるなら」


「……ふうん。何をしても良いのね、私」


 厭らしい笑みを浮かべた香織は、つかつかと拓人に近寄る。

拓人は目を瞑った。

何をされてもいいという覚悟の表れだった。


「――――っ」


「――ぷっ、うぇえええええ!?」


「ちょおおおおおおおっ!」


 香織は、拓人に、キスをした。

絶叫しながら湊が、香織を拓人から引き剥がした。


「ななななななにしてるんですか橘先輩!?」


 湊は拓人の前に立ち、両腕を広げて――まるで小動物の威嚇のごとき姿で言う。

香織は当然、そんな事をされたところで怯む訳もなく答える。


「今回は諦めるわ。そのためのキス。それとあなたへの宣戦布告よ」


「はああ!?」


「とりあえず今回は身を引くけれど、そう簡単に諦められる訳がないじゃない。何年間片思いしていると思っているのよ」


「そ、そりゃそうかも知れないですけど!」


「だから、隙があれば拓人を籠絡して行こうと思っているから。よろしく」


「ちょ、えええええ!?」


 拓人がぽかんとした様子で、二人のやり取りを見守っていると、部室の扉がバンと音を立てて開いた。


「いやー、よかったよかった。丸く収まったな、霧島」


「ふむ。良かったじゃないか、霧島」


 開いた扉から入ってきたのは、優希と相馬の三年生コンビだった。

どうやら全てを聞いていたようで優希はともかく、めったに笑わない相馬ですらにやけていた。

湊は顔を赤くする。

拓人はどうやら既に慣れてしまったらしく、平然と呆けていた。


「聞いていたんですか、先輩方」


 香織も特に取り乱したりせずに、冷静に言った。


「聞いてた聞いてた!いやー青春だったな!」


 優希が高らかに笑って言う。

相馬は横で腕を組んで頷く。

湊はこいつら何様だよと言いたくなったが、グッと堪えた。


「ああ、こちらの方が恥ずかしくなってしまった」


 相馬がニヤリと笑う。


「まあ、霧島。三角関係が拗れなくて良かったな。むしろ丸く収まったじゃないか」


「ええ、良かったです」


「良かったわね、拓人」


 相馬の言葉に拓人と香織が満面の笑みで応える。

それを笑いながら見ている優希。


「……宣戦布告されたのに、これって丸く収まったの!?」


 笑い声渦巻く部室内。

湊は一人そう叫んだが、笑い声に飲み込まれ誰も聞いていなかった。



*****



 後日談。

その後、拓人と湊の二人は交際を始め、時々起る香織の、拓人を略奪、あるいは籠絡する行為にも耐え抜き、湊の大学卒業後にめでたく結婚。

二人の子供――うち一人は香織の洗脳の結果、香織も『ママ』と呼ぶようになった――と幸せに日々を過ごす。

どーも、よねたにです。


本来の構想よりも大分短いですが完結です。


ここまで読んでいただきありがとうございました。


本来、告白とその返答までの間に幾つかの話を挟んでという予定だったのですが、以前の後書きの通りの理由から、この文量で完結させていただきました。


暫くして読みなおしてみて、不自然な点や言葉が足りない点は見つけ次第修正して行くつもりではあります。


やっぱり、時間をおいて客観的に見ないと分からない点もありますので……。


では、またどこかで再開することがあればよろしくお願い致します。

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