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<第八話>


「影がいる」


坂城はそう言った。目線は暗闇の裏路地に向けている。

僕は坂城に任せるままにここまで来てしまった。

好奇心と探求心が交互に僕を動かしたのだ。

ネオンの艶やかな光が僕たちを照らし、小雨が打つ。

「影って何なの? 『影がいる』って、それじゃあ―――」


「うん。僕が言う影は、光が生物の下敷きになように創り出す哀れな分身ではなく、『個としての影』なんだ」

目線は路地に向けたまま坂城が言った。

「僕はそれを消すために来たんだ。これが君の知りたいこと占有率の大部分の答えかな?」


僕は頷いた。これはいよいよ巻き込まれたな、と思った。

「君には悪いけど、この路地にいる影を消すところを見物してもらうよ。後々君にも役にたつからね」

二回頷きながら坂城が言った。

僕の役にたつ? 将来は会社勤めに身をやつす覚悟の僕にそれは役にたつのかな、と思った。

「じゃあ、行こうか」


坂城が歩きだした。

僕もつられて歩きだす。

ビルとビルの間の袋小路は雨と空を覆っている雲で陰気に湿っていた。

20メートル程行くと高い壁が行く手を遮った。

渦をまく湿気が僕の肺まで流れてきた。

「――出力するエネルギーは晴れの間に充填しておいたから、安心だ。問題は影の濃さとタイプかな」

坂城が囁くように言った。

汗が鼻筋に浮いてきた。僕は何が起ころうとしているのか何となくわかった。坂城は

「個としての影」

を消す、戦うのだろう。

そんな戦いを自分は見学できるのだろうか? 僕は戦闘能力のない一介の高校生。

影が凶暴なものだったら自分はもしかしたら、

『こーん、こん』

僕たちの背後からそれが聞こえた。そんなに離れていない。

顔を左に向けて坂城を見る。

坂城はすでに音のほうを向いていた。僕もそちらを向く。

『こーん、こん、こん』

僕は音がしたほうを向いた。

確かに前のほうからそれは聞こえた。

しかし僕の視界にあるのは路地の暗闇が凝縮したような球形のものだった。

いや、これなのかな。

坂城が言った影とは。人が一抱えできそうな大きさの暗闇の塊はまた鳴いた。

『こん、こーん』

「浅野くん、下がっていてくれ。多少危険だから」

坂城が左手で僕を後ろへと促す。

言われるとおり後ろへ5歩退いた。

「さて、と」

坂城は僕が下がったのを確認すると、暗闇の塊と対峙した。

「そんなに濃くはないな。現存のエネルギーで充分に消すことは可能」

『ごォォ、ゴォオ 、ゴォォン! 』


塊が蠢きだした。

何かの形状に変わろうとしているかのように球形から突起がでたり、窪んだりしている。


「タイプは四足動物か」

球形だった塊は犬のような型を形成した。暗黒の色をした犬だった。

暗黒色の犬は吠えた。

『ゴォォン! ゴォォン!』


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