第8話 7/19日曜 走り始めたサッカー生活
豪の大声が響き渡り、古民家の中をいとも簡単に突き抜けていった。
「やれやれ、やっとバイト生活からおさらばやな」
長身細身の男が、中庭からサンダル履きでやって来た。
その後も、1人、また1人と浅黒い大男たちが姿を現し、春斗を珍しそうにのぞき込んでくる。
「さぁ、すぐに試合に行くから準備準備!」
シュートが元気よく男たちに声をかけると、一斉に部屋の中へ戻っていった。
豪に至っては、部屋に戻る前からシャツを脱いでいる。
"何が始まるんだよ……"
「さ、春斗さんも中に入って」
面食らう暇もないうちに、シュートに引っ張られ、家の中へ連れて行かれる。
「ユニフォームは瀬戸さんの予備のでいけるかな?
お、いいですね。シューズは……」
シュートが、がさごそと物置きの中を物色し、カビっぽいシューズを取り出してくる。
「ちょっときついかもだけど、我慢してくださいね。
今日、勝って新しいのゲットしましょう!!」
"うげ……かび臭い……"
春斗の杞憂など気にする気配もなく、シュートはテキパキと春斗を武装していく。
当のシュートも、いつの間にかサッカー戦闘スタイルへと早変わりしていた。
「春斗さん、もう立派な選手ですよ。
さ、行きますよ〜」
とにかく押し切られる形で玄関前に行くと、全員がユニフォーム姿になり、それぞれサッカーボールを抱えていた。
「よし、行くぞ〜」
豪の掛け声と共に、全員が坂道をダッシュで下り始めた。
春斗は豪に促され、仕方なくその後を追う。
「あの……どこに行くんですか?」
春斗が豪に尋ねる。
「お〜、やっぱり君は見どころがあるな。
しゃべる余裕があるとは。
やはり若者はいいなぁ」
"まったく会話にならねぇ"
そう思いながらついていくと、見覚えのある建物が見えてきた。
昨日、西野と最初に訪れた『みかん箱ギルド』だった。
先頭のシュートが『みかん箱ギルド』にたどり着くと、芝生になっている前庭に全員が集まり、息を整えながらストレッチなどを始めた。
春斗も理由は分からないが、見様見真似でシュートとストレッチを始める。
「じゃぁ、行ってくる」
豪が1人、ギルドに入っていく。
他のメンバーは、それを気にする様子もなくストレッチを続けた。
「それにしても遅いなぁ」
「今日って日曜だっけ。
相変わらず日曜はリチャードの独占が続いてんのか?」
「ちぇっ、またバイトかよ。
この格好でバイトは嫌やなぁ」
しばらくストレッチを続けていたが、一向に豪が帰ってこない。
待ちくたびれたのか、メンバーたちがぽつぽつと会話を始めている。
春斗は、手持ち無沙汰でぼんやり周囲を眺めていた。
「お、春斗。
お前帰らなかったのか」
不意に聞き覚えのある声に、春斗は顔を上げた。
西野だった。
「……なんか汚えシューズ履いてるな。
もしかして、お前、貧民区に住み着いたんか?
だから情弱はまずいって伝えたじゃん。
悪いな、おれの指導不足でさ。
悪いこと言わないから、帰れよ。
ほんと昨日は助かったからさ」
「なんだ涼介、貧民区のやつと仲良くやってんの?」
西野の背後から声がした。
細身で、やけにギラついた目の男だった。
特に背が高いわけでもなく、筋肉があるわけでもない。
だが春斗は、その男から底知れぬ威圧感のようなものを感じた。
「いや、こいつ、俺の高校ん時の同級生なんすよ。
今野さんが教えてくれたじゃないっすか、登録は2人でしろって。
もう用無しなんで帰るように言っといたっすけど、なぜか帰ってなかったんすよ」
西野は、今野と呼ぶ男に答えた。
「へ〜、涼介のお友達か。
おもしれえじゃん。
今日、試合してみろよ」
今野が唐突に試合の話を切り出した。
「いいんすか?
相手は貧民区の連中ですよ?」
西野が汚いものを見るような目で、春斗たちを眺めながら言い放つ。
「ま、遊びよ。
たまにはおもしれえもん見てえんだよ」
今野と西野の挑発を受け、嫌な空気がチームに流れた。
「ほんとですか?
ありがとうございます!!
さっそく手続きに行きましょう」
そんな空気を切り裂くように、シュートが満面の笑みで今野の提案を受け入れた。
その瞬間だった。
春斗の耳に、かすかに"ちっ"という舌打ちが聞こえた。
顔を向けると、西野が目を逸らした。




