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【第2部】1秒ストライカー 〜1秒先の未来が見えるおっさん、サッカーで人生やり直す〜  作者: そきおこ
第1章 テンリーグ

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3/8

第3話 7/18土曜 サッカーに挑戦する

しばらく庭園の歩道を歩き、春斗はようやく『みかん箱ギルド』のロビーにたどり着いた。


 ロビーには大きな時計が設置されており、春斗はようやく時間を確認することができた。


 すでに夜の8時を回っている。


 もう営業時間は終了したのだろうか。閑散としたロビー内に人影はない。


 春斗がロビー内を見渡すと、昼ごろ夏海に対応してもらったカウンターに中年男性の姿を見つけた。


 少しひるんだが、空腹が春斗をけしかける。


 春斗は平静を装いながら、その中年男性に近づいた。


「あれ?君はどうしてここにいるの?」


 人影に気づいた中年男性は、春斗に声をかけた。


 突然呼びかけられた春斗が面食らって言葉を探していると、奥から若い女性が出てきて中年男性に声をかけた。


「もう、ヨウがちゃんとチュートリアルしなかったんでしょ?」


 なぜだか分からないが、今度は中年男性が叱られ始めた。


「いやいや、彼とはいま初めて会ったんだよ。

ねえ、君は今日来たんだろ?

もう食事は終わったの?」


 中年男性の言葉に空腹を思い出した春斗は、我を取り戻して言葉を返した。


「あの、今日は食事を取れてないんですけど、今からやってるレストランってありますか?」


 受付の2人は、春斗の返事に戸惑ったようだった。


 すると、中年男性が問いかけてきた。


「えっと、クラブハウスで食べれたでしょ。

もしかして、誰かに追い出された?」


“やばい、ここのルールがまったく分かんねぇ”


 春斗が狼狽する姿に、若い女性が声をかける。


「ねぇ、あなたのギルドカードを見せて」


“え?ギルドカード?

あ、あぁ、昼間に夏海さんからもらったやつか”


 春斗がカードの存在を思い出し、ズボンのポケットからギルドカードを取り出すと、若い女性に手渡した。


 若い女性は、ギルドカードを春斗から受け取ると端末にかざし、情報を確認しているようだ。


 カチャカチャとキーボードを操作した後、


「夏海が担当だよ」


 と隣の中年男性に伝えた。


「なっちゃんか……。

コミュニケーションモンスターのなっちゃんにしては珍しいね」


「ヨウと違って、私の指導を守る子ですからね」


 相変わらず中年男性は嫌味を言われ、苦笑いをしながら春斗に向き直った。


「えっと……、山崎春斗さん。

テンリーグの説明は理解しました?」


 あらたまって問いかけられた春斗は、もう正直に言うしかなかった。


「実は……」


 春斗は、西野に連れられて来たこと、登録している間に説明をしてもらっていたが、ほとんど耳に入っていなかったことを2人に告げる。


 春斗は無意識に下を向き、ウッド調のカウンターの木目を見つめていた。


「そっか。夏海は、その、にし……の君?に説明すれば、あとは2人で行動すると考えてたんだね。

まったく……。

その人、ほんとに君の友達?」


 若い女性が呆れながら言ったが、春斗は気にせずに答えた。


「西野ですか?

けっこういい奴ですよ。

僕みたいな陰キャにも声かけてくれるし、今日みたいな行動はいつものことなんで」


「わさび、とりあえず、俺が山崎さんと夕飯食べに行ってくるよ。

部屋への案内もやっておくから、今日はもうあがって」


「分かった。

ちゃんと最後に戸締まりしてね」


 こうして、春斗は中年男性に連れられて『あおい庭園』から商店街に出て食事をすることになった。


 しばらく商店街を歩き、駅が見えてきた辺りで左の路地裏に進む。

その先に、通りを照らすホテルが見える。

そして、その向かい側に1軒のお好み焼き屋が見えた。


『てっぱん』と看板に書いてある。


「さ、入って」


 この中年男性との夕食を、春斗は一生忘れることはないだろう。


 これまでに食べたことがないほど美味しいお好み焼きだった。


 でも、それ以上に、常連客との気さくな会話や、何も知らない春斗を自然に受け入れてくれる空気が心地よかった。


 苦くてほとんど飲めなかったビールが、仲間と飲むとこんなにうまいものなのかと初めて知った。


 この夜の経験が、春斗を少しずつ変えていくことになる。


「ヨウさん、ほんとにお金はいいんですか?」


 夕食を共にする中で、中年男性から「ヨウと呼んでくれ」と言われた。


「いいんだよ。

さっき店の中でも話しただろ?

俺も似たような感じでこの町に転がり込んできたんだって」


「俺、こんなにうまいお好み焼き、初めて食べました。

イレさんも、もんちゃんさんも、職人のみなさんも温かくて。

俺、陰キャで友達も少ないし……。

こんな暮らしがあるんだなって」


 春斗は少し酔いが回ったのか、普段は誰にも言うことがない弱音をヨウにさらしていた。


「じゃ、いたいだけいればいいよ。

そのためにテンリーグ作ったんだからさ」


 ヨウの言葉を聞いて、春斗はハッとなって問いかける。


「え?ヨウさんは、高崎登?」


 あまりにも突拍子もない春斗の問いかけに吹き出しつつ、ヨウが答えた。


「高崎登さんね。

違う違う、俺はただの担当者だよ。

テンさん……。あぁ、高崎登さんから命令されて、テンリーグを作ってるんだよ。


言わば、運営側。

だから、春斗を助けてあげるのは控えないといけない。俺、春斗のこと気に入っちゃったから贔屓したいけど、それはダメだろ?


もし、ここが居心地いいと思ったら、ここにいられるように動くといいよ。

どうすればいいかは、春斗が考えるんだよ。


そうやって、考えて動くことで道を開くように、テンリーグやみかん箱を作ったんだ」


 ヨウが、少し得意げに春斗に語りかけた。


「そうなんだ……。

そんな場所に来て、何も考えてない俺が飯にありつけるわけないですね」


 そう言うと、どこか神妙な面持ちで春斗は押し黙った。


 ヨウは春斗を伴い、今日の宿に向かって歩く。


 歩きながら、春斗が口を開いた。


「ヨウさん。

動くってよく分かんないけど、俺、明日サッカーやってみるよ」


「正解。

なんでもいいから、動いて、自分の未来を動かすことが、この町のルールだ」


 酔いのせいだろう。


“この中年のおっさん、なんかかっこいいな……”


 春斗は不覚にも、そう思ってしまった。

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