528ヘルツ
むかしむかし、とある国に幸せの花が咲く幸せの谷という場所がありました。
幸せの花はキラキラ光る黄色い花。
人々が幸せを感じたときの周波数と共鳴して花が咲くのです。
幸せの花が咲くことで様々な厄災から守られてきました。
ところがある年、大きな嵐が国をおそいました。
それからというもの幸せの花が咲かなくなってしまったのです。
人々は神様に生贄をさしだし、たくさんの儀式をおこないました。
それでも幸せの花が咲くことはありませんでした。
何年かたったころ、ポツポツと幸せの花が芽を出しました。
人々は大変喜びましたが、それもつかの間、開花して一晩で消えてしまいました。
飢饉、疫病、天変地異、様々な厄災が国をおそいます。
それでも人々は幸せになるために一丸となって立ち向かいました。
ある日、どこからともなく巨大なロボットを連れたひとりの少女が現れました。
人々は神の使いだと崇めました。
「わたしはジョイ。この子はフェリックスよ。よろしくね」
フェリックスはたくさん働きました。
干ばつに苦しめば遠くの水場から水路をひき、
道路が割れれば休むことなく修復し続けました。
広い荒地も一瞬で田畑に変えます。
うたも上手でした。
機械音声でしたが、疫病に苦しむ人々の心を癒しました。
みんなフェリックスのことが大好きになりました。
幸せの花が咲かなくても、フェリックスが国を守ってくれるに違いないと。
フェリックスとジョイが現れて3年程たったある日、とある噂が出回りました。
どうやら隣国のやつらが幸せの谷に枯れ薬をまいているらしい、と。
怒った人々は、武器を手にし隣国へ攻撃をしかけました。
隣国は激怒し応戦しました。戦争がはじまったのです。
町にも、幸せの谷にも隣国の軍は進軍してきました。
人々はフェリックスにもジョイにも共に戦うよう命令しました。
ジョイは小さな手に武器を持ちます。
その小さな体めがけて銃弾が飛んできます。
フェリックスはジョイの前に立ちはだかって銃弾を一斉にあびました。
フェリックスの胸には大きな大きな穴が空きました。
中からキラキラとした黄色い花が。幸せの花が宙を舞います。
どのくらい時間がたったのでしょう。
気付けば隣国の軍はいなくなり、荒れ果てた町と青い炎のような冷たい視線だけが残っていました。
「フェリックス…」
もう動かなくなってしまったその塊をジョイは大切そうにひと撫でしました。
人々が次々と詰め寄ります。
なぜフェリックスの胸の中から幸せの花が出てきたのか知りたいのです。
「この子はわたしが作ったの。この子の心臓は幸せの花よ。
幸せの谷に咲く、あなたたちの幸せでこの子は動いていたの。」
幸せの花が消えていた理由は、
ジョイがフェリックスのために人目を盗んで摘んでいたからなのです。
なぜそんなことをしたかって?
「生贄となったのは、わたしのお姉ちゃんだったからよ。たった2人の家族だったのに。
お姉ちゃんを失った悲しみのうえに、あなたたちの幸せがあるなんて許せない!」
ジョイは人々が一生幸せにならないように
フェリックスを連れて復讐していたのです。
怒り狂った人々はフェリックスとジョイを国から追放しました。
その日は月も出ていない静かな寂しい夜でした。
ジョイはフェリックスをそっと抱きしめます。
復讐を終え、怒りも憎しみも行き場を失い、胸の中は空っぽでした。
「復讐のために作ったのに、あなたと過ごした日々がいちばん幸せだった」
はじめてフェリックスが起動した日。
はじめてフェリックスの声をきいた日。
はじめて名前をよんでくれた日。
庭に咲いた花を摘んだ日。
あなたは冠をつくるのが上手だった。
眠れない日もずっと手をつないでいてくれた。
つめたいからだが、わたしには陽だまりのように暖かかった。
キラッとフェリックスの胸の空洞の奥で何かが光りました。
花の種が一斉に芽吹きます。
ジョイの幸せの周波数に共鳴したのです。
その振動は地面を伝わり、幸せの谷にも一面の黄色い花が戻りました。
暗い夜の中、幸せの谷がキラキラと優しい光を放っている____。
幸せは求めるものでも奪うものでも、取り返すものでもなかったのです。
「あの人たちを幸せにすること、それがあなたの幸せなのね」
フェリックスはもう動きません。
けれど、胸に咲いた幸せの花は褪せることなく輝き続けることでしょう。
「さあ、これからどこへ行こうか」
幸せの花がキラキラと静かに揺れていました。




