二人の休日
冬の太陽が、生徒会室の窓を琥珀色に染めている。
そこにあるのは、暖炉で爆ぜる薪の音と、規則正しい寝息だけだった。
「……ん、……っ」
レイモンドは、不自然なほどの軽さに包まれて目を覚ました。
視界に飛び込んできたのは、見慣れた生徒会室の天井。だが、自分がソファーの上にいることに気づくのには、数秒を要した。
「おはよう、レイ。最高のタイミングだ。ハーブティーがちょうど飲み頃だよ」
どこからか響いた声に、レイモンドは跳ね起きようとした――が、身体に力が入らない。
深く眠りすぎたのか、心と身体が馴染んでいないような、奇妙な浮遊感だけが、そこにあった。
「……セオドリック」
視線を上げれば、陽光を背負ったセオドリックが、優雅な手つきでティーカップを差し出していた。その顔には、親友の目覚めを喜ぶ、無邪気な笑みが浮かんでいる。
レイモンドはカップを忌々しげに睨みつけながらも、喉の渇きに負けて受け取った。一口含めば、身体の隅々にまで染み渡っていく。
「俺は……何日眠っていた」
「二日かな。昨夜は三回ほど寝言で数式を唱えていたけど、許容範囲だ。どうだい、身体の調子は」
「……最悪だ。……頭が空っぽすぎて、反吐が出る」
毒づくレイモンドを見て、セオドリックは隣に座り、窓の外を眺めた。
「それは良かった。ちなみに、仕事は溜まっていないよ。ミレイたちが頑張ってくれたから。……レイ、君がいなくても、生徒会は回る。けどね――」
セオドリックは、レイモンドを真っ直ぐに見つめた。
「君がいないと、僕は退屈なんだ。君の鋭い指摘や、冷淡な正論が、僕には不可欠なんだよ。……だから、君には壊れてほしくない。この先も、ずっとね」
「……っ」
セオドリックの善意は、いつだって自分勝手で、傲慢で、こちらの事情などお構いなしだ。
この男から受けた仕打ちを思い出すだけで、眩暈がする。
けれど、没落して以来、自分を案じてくれる者はいなかった。
「……勝手なことを。俺は、仕事をしていないと自分が何者か分からなくなるんだ」
「なら、僕の隣で仕事をし続けられるように、自分を大切にする術を覚えてくれ。……それが、君の次の仕事だよ」
セオドリックは、レイモンドの肩に掛かっていた毛布を直し、悪戯っぽく笑った。
「さあ、お茶を飲み終えたら、もう少しだけ休もう。今日は僕も休む。君が次に起きるまで、僕は一歩もここを動かない」
「……ふざけるな。……ああ、もういい。好きにしろ」
レイモンドは深く溜息をつき、ソファーに身体を預けた。
セオドリックという太陽は、やはりどうしようもなく眩しくて、毒が強い。
だが、その熱に浮かされながら微睡む時間は、認めがたいほど安らかだった。
窓の外では、生徒会メンバーたちが、遠巻きにその様子を見守っていた。
「見て。副会長、また寝ちゃったみたい」
「会長も、あんなに嬉しそうな顔して……。ほんと、仲良しなんだから」
白亜のアカデミーに、静かな時間が流れていく。
嵐のようなストライキは過ぎ去り、まさに今、新しい日常が訪れようとしていた。
To be continued.




