表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【BL】高貴なる生徒会長は、今日も副会長を慈しむ  ~学園の貴公子と没落貴族のすれ違い救済ライフ~  作者: 夕凪ゆな
【日常編】雪月花の檻(*)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/51

雪月花の檻(*)


 時計塔の最上階、隔離された密室。

 下界の喧騒は魔法の壁に阻まれ、聞こえるのは二人の重なり合う呼吸と、時折窓を叩く雪の微かな音だけだった。


 レイモンドは、セオドリックに抱きすくめられたまま、力なく項垂れていた。


 極限まで削られた魔力、そして不眠不休の代償。彼の身体は、セオドリックが注ぎ込み続ける「熱すぎる魔力」によって、微かに震えている。


「……あ、……ぐ……っ」


 レイモンドの口から、掠れた吐息が漏れる。


 魔導回路を無理やり覚醒させられる感覚は、暴力的なまでの快楽と、それを凌駕するほどの恐怖を伴っていた。

 自分の意志とは無関係に、セオドリックの色に染められていく恐怖。


「ああ、最高だよ、レイ。君の瞳に、僕の魔力が浸透していく……。なんて美しいんだ」


 セオドリックは、獲物を慈しむ捕食者の顔で、レイモンドの潤んだ瞳を覗き込んだ。

 彼は真紅の薔薇をレイモンドの胸元――ちょうど心臓の鼓動が伝わる場所に(かざ)すと、その花弁を一枚、指先で千切った。


「東方の歌にはね、続きがあるんだ。『去りゆく友を思うより、去らせぬ(おり)を築くべし』――散りゆく花や過ぎ去る季節を惜しんで嘆くくらいなら、その対象を自らの手の中に閉じ込め、永遠に固定してしまえばいい……という意味だ。僕はそれに習って、この術式を編んだ」


「……嘘を……つけ……」


 レイモンドは、熱に浮かされた吐息を漏らしながらも、辛うじて抗議の声を絞り出した。


「そんな、続きはない。……そもそも、この詩は……喪失を、嘆く歌。……勝手な、解釈を……するな……!」


 瞬間、セオドリックの瞳に宿ったのは、悦悦(えつえつ)とした輝きだった。

 彼はレイモンドの頬を優しく撫で、その耳元で勝ち誇ったように囁く。


「さすがは僕のレイだ。よく勉強しているね。……そう、今の続きは僕が考えた。僕は『失うこと』を認めない。……なぜなら僕は誰よりも欲張りで、そして――有能だから」


 セオドリックは、レイモンドの唇を指先でなぞり、捏造の続きを真実(・・)として決定づける。


「続きが気に入らないなら、自分で書けばいい。 過去の嘆きなんて、僕らの未来には必要ないだろう? 詩も、歴史も、術式も……君を繋ぎ止めるためなら、僕はいくらでも書き換えてみせるよ」


「……おま、え……どこまで……傲慢、なんだ……」


「君を愛するための傲慢なら、いくらでも背負うさ」


 セオドリックは、千切った花弁をレイモンドの震える唇に押し当てた。


 花の香りと、セオドリックの体温。

 レイモンドが苦しげに顔を背けようとすると、セオドリックの長い指がその顎を強引に固定した。


「逃がさないと言っただろう? この学園も、この夜も、君の未来も……すべては僕のものなのだから」


 次の瞬間、セオドリックの唇が、レイモンドの言葉を塞いだ。


 それは、慈悲という名の略奪だった。

 冷え切ったレイモンドの唇に、セオドリックの熱が、そして溢れんばかりの魔力が、接吻(くちづけ)を通じて直接流れ込んでくる。


 レイモンドの思考は白く染まり、指先が、セオドリックの白い儀礼服を力なく掴んだ。


「ん、……っ、……ふ……」


 深い接吻の最中、レイモンドの視界の端で、胸元の薔薇が眩い光を放った。

 それは、セオドリックの魔力を吸い上げ、レイモンドの心臓と同期する「不変の刻印」。


「な……、んだ……これ……はッ」


 レイモンドは息も絶え絶えに喘ぐ。

 セオドリックは、甘く囁いた。


「いざという時の保険だよ。以前、僕が『指輪』を失くしたせいで、君は魔法を使えなくなってしまっただろう? あの時、僕はとても反省したんだ。万が一指輪が紛失しても、僕らの繋がりが途絶えてしまわないようにって。……その為の印さ」

「印……だと……?」

「そうだよ。この薔薇はね、文字通り僕の血液で育てられた――まさに僕の魂の結晶だ。これで、僕は何があろうと、君を見失うことはない」

「……っ」


 セオドリックは、銀の粉雪が舞う窓の外へ、レイモンドの身体を向かせた。

 そこには、魔法で無理やり咲かされた数千本の花々が、冷たい月光の下で狂おしく死を待っている。


「綺麗だろう? でも、明日にはすべて枯れる。生きとし生けるもの全てが、いつか死ぬ。……だけどね、レイ。君だけは絶対に枯れさせない。僕の傍で、僕の熱だけを吸って、君は永遠に咲き続けるんだ」


「……お前、は……本当に……」


 レイモンドは、朦朧とする意識の中で悟った。


 自分はもう、この男の所有物(もの)なのだ、と。

 再興したアシュクロフトの名も、副会長としての矜持も、すべてはセオドリックの掌の上――この「雪月花の檻」の甘美な支配に溶けて、消えていく。


「さあ、まだまだ夜はこれからだ、僕の愛しいレイモンド。……朝日が昇る頃には、君の世界は、僕だけの色彩(いろ)で満たされているはずだよ」


 セオドリックはレイモンドの唇に、誓いの接吻を、もう一度落とした。



 窓の外、月の光を反射して、一筋の流星が雪の空を裂く。



 こうして、セオドリックの周到な罠にまんまと嵌ったレイモンドは、雪と月と花に囲まれた「世界で最も美しく残酷な箱庭」で――夜が明けるその瞬間まで――セオドリックの執着という名の熱情に、狂わされることになったのである。


To be continued.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ