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【BL】高貴なる生徒会長は、今日も副会長を慈しむ  ~学園の貴公子と没落貴族のすれ違い救済ライフ~  作者: 夕凪ゆな
【指輪紛失編】銀の迷宮と白金の檻

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賢者の敗北


 生徒会室には夕陽の残光が差し込み、重たい沈黙が満ちていた。ミレイとリヴェールも落ち込んでいる。


「……すみません、会長、副会長」

「僕たち……頑張ったんですけど……」


「――いや、お前たちのせいじゃない」


 会議机横のゴミ箱には、学園中の生徒たちが忠誠心という名の情熱を注ぎ込んで集めてきた、銀色の円形をしたガラクタの山が築かれていた。

 銀色のボタン、カーテンのリング、手品用の銀輪、アルミホイルを丸めた球体……。


 レイモンドはつい先ほどまで、届けられるそれらを「違う!」「形すら似ていない!」と怒鳴り散らしてはゴミ箱に放り捨てるという無限ループ繰り返していた――だが、結局、『学園守護の指輪』は見つからなかった。


 レイモンドは力なくソファに沈み込み、頭を抱える。

 彼の手元にある銀の共鳴(シルバー・レゾナンス)は、もはや魔石のエネルギーが尽き、無機質な鉄の塊と化していた。


「……もうおしまいだ。明日の朝、認証が切れれば……学園の防衛網は……」


 自らの汚れた手を見つめる。今日一日、その手でどれだけのガラクタを掴んだことか。それらすべてが、自らの無能を証明する石碑のように思えた。


「まあまあ、そう悲観するものではないよ、レイ。……君は今日、誰よりも働いた。まずは一息つこう」


 セオドリックは鼻歌混じりに棚へ歩み寄ると、「確か、君のお気に入りの茶葉がここにあったはずだ」と、古い茶筒(ティー・キャディ)に手を伸ばした。


 その時だ。


 セオドリックが茶筒を持ち上げた拍子に、その底に張り付くように隠れていた指輪が、カラン……と、乾いた音を立てて大理石の床を転がった。


「………………あった?」


 レイモンドの思考が、一瞬停止した。

 視線の先、転がったのは、紛れもなく自分が探し求めていた学園のマスター・キー。


「ああ、そういえば思い出したよ。今朝、君に淹れる茶葉を厳選しようとして……指輪が邪魔だったから、一旦そこに置いたんだった。いやあ、灯台下暗しだね」


「………………」


 セオドリックが何気なく指輪を右手に嵌め、レイモンドへと歩み寄る。

 その瞬間。

 

 ドクンッ!!

 

 途絶えていた魔力パルスが、レイモンドの右腕に奔流となって流れ込んだ。

 血管を焼くような熱、戻ってくる感覚。魔法が――、戻った。

 

 だが、再起動した魔導回路が冷徹な理論(ロジック)を取り戻した瞬間、レイモンドの脳裏に、今日一日の致命的な違和感(・・・・・・・)が、鋭いナイフのように突き刺さった。


(……待て。……なぜ、今の今まで気づかなかった……?)


 レイモンドは震えながら、自身の右指にあるレプリカを見つめた。


 このレプリカは、本物の指輪と同じ材質で作られている。

 もし、本物がミスリル銀製であるならば、このレプリカだって銀のはずだ。ならば、今日一日、この探知機が自分の指先にさえ(・・・・・・・・)一度も反応しなかった(・・・・・・・・・・)のは、どういうことだ……?


「……セオドリック。動くな」

「おや、再起動の挨拶にしては物騒だね、レイ」

「黙れ。……解析(アナライズ)展開!!」


 戻ったばかりの魔力を叩きつけ、レイモンドは自身のレプリカの指輪に成分解析術式を強制執行した。虚空に浮かび上がる術式の文字が、冷酷な真実を突きつける。


【材質:白金プラチナ 100%】

(ミスリル)含有量:0.00%】


「…………な…………っ!?」


 ソファから転げ落ちそうになるのを、レイモンドは必死で堪えた。

 白金。プラチナだ。ミスリル銀の波長を追う探知機が、これに反応するはずがない。


「……おい、セオドリック。……これ、銀じゃない。白金だったんだ……!」

「ああ。先代の会長の時に、強度不足でミスリルから白金製に作り替えられたんだよ」

「……お前、……お前、俺に言ったよな!? 一年前、この指輪の仕様を俺が尋ねた時、お前ははっきりと『ミスリル銀だ』と言い切ったはずだぞ!!」


 レイモンドは、記憶の奥底に保管されていた「セオドリックの言葉」を引きずり出した。技術者として、彼が語った仕様を疑う余地など微塵もなかったあの瞬間。


「ああ、そうだったかな。……うん、たぶん僕の記憶違いだね。銀色だったから、ついそう思い込んでしまったんだろう。いやあ、伝え忘れていたというか、僕自身も今の今まで忘れていたよ」

「………………」


 レイモンドは、あまりの情けなさに自分の頭を抱え込んだ。

 

 なぜ、気づかなかった。

 探知機を組み上げた際、手元にあるレプリカでテストをすれば、一秒で分かったはずのミスだ。

 それを、この男が過去に放った適当な記憶違いを、検証の必要すらない物理的事実として、自分の脳が勝手に固定(ロック)してしまっていた。


 技術者として、魔導師として、あるまじき盲信。

 

「……俺は、今日一日……お前のその、適当な記憶違いを……世界の真理みたいに信じ込んで……泥を掘り、馬に蹴られ、ガラクタを拾い集めて……ッ!!」

「いやあ、まさか君ともあろう者が、材質の確認もせずに探知機を作るなんて。……信頼だね、レイ。僕への信頼が、君の冷徹な判断力を鈍らせたんだ。嬉しいよ、最高に愉快だ」


 セオドリックは腹を抱えて笑い出した。その笑い声が、レイモンドの限界を突破させる。


「……殺す……!! 何が信頼だ、今すぐそのいい加減な脳みそを銀の鎖で締め上げてやるッ!! 死ね、セオドリック!!!」

「おや、元気になったね。いいよ、存分に締め上げてごらん、レイ――」


 夕闇の生徒会室に、今日一番の怒号と、それを受け止める不遜な笑い声が響き渡る。

 窓の外では、月が、泥だらけで取っ組み合う学園の双璧(・・・・・)を、呆れたように見下ろしていた。


To be continued.

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