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【BL】高貴なる生徒会長は、今日も副会長を慈しむ  ~学園の貴公子と没落貴族のすれ違い救済ライフ~  作者: 夕凪ゆな
【指輪紛失編】銀の迷宮と白金の檻

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善意の騒乱


 生徒会室の扉を開けた瞬間、夏の湿った熱気とともに、一人の少年が飛び込んできた。


「会長、失礼します! 先ほどの定例報告の件で――あ、副会長もご一緒でしたか!」


 現れたのは、生徒会庶務のリヴェールだ。夏の陽光に焼けた肌と、常に好奇心に満ちた瞳。帝国創立記念祭での一件以来、彼はセオドリックを「絶対的な王者」として、レイモンドを「その隣に立つ気難しい賢者」として、盲目的なまでに慕っている。


 リヴェールは、レイモンドの手元で火花を散らし、不気味なノイズを上げている配線だらけの機械に目を剥いた。


「ふ、副会長……それは一体? 新種の爆弾……ではないですよね?」

「爆弾ならどれほど楽か。リヴェール、邪魔だ。そこをどけ、俺たちは今から――」

「実はね、リヴェール。少し困ったことになって。どうやら、僕の『(ミスリル)の指輪』が家出をしてしまったようなんだ」


 セオドリックが、レイモンドの制止を待たずに、極めて涼やかな顔で爆弾発言を投下した。


「な……ッ!? セオドリック、馬鹿か貴様は!」


 レイモンドの怒号が生徒会室に響き渡る。

 指輪――『学園守護の指輪ラプラス・ガーディアン』が紛失したという事実は、国家機密にも等しい失態だ。それをよりによって、学園一のお祭り好きであり、口の軽いリヴェールの前で口にするなど。


「指輪……会長の大切な指輪が、紛失!?」


 案の定、リヴェールの顔色が劇的に変わった。驚愕は一瞬で、次には使命感という名の激しい炎がその瞳に宿る。


「大変だ……それは一刻を争います! 会長の大事な宝物であり、学園の(かなめ)……。僕、すぐに行ってきます!」

「待て! 行くのは俺とこいつだけでいい! 騒ぎにするな、これは内密に――」

「任せてください、副会長! ラプラスの生徒全員が、会長の力になりたいと思っているはずです。僕のネットワークを舐めないでくださいよ。全校放送、そして各部活動の連絡網、今すぐ全開放します!」

「リヴェール!」


 レイモンドの叫びは、すでに脱兎のごとく廊下を駆け出していった少年の背中に虚しく吸い込まれた。


「……終わった。なにもかも終わりだ……」


 レイモンドは天を仰ぎ、こめかみを押さえた。

 魔力が通わない右腕が、焦りからくる冷や汗でじっとりと濡れている。

 数分後。学園のスピーカーが、静寂を切り裂くような大音量で鳴り響いた。


『緊急連絡! 全校生徒に告ぐ! 我らがセオドリック会長の大切な「銀の指輪」が、学園内のどこかで紛失した! 特徴はミスリル銀製、魔導回路刻印あり! 些細な情報でも構わない、今すぐ「銀の指輪」を探して、会長と副会長へ届けてほしい! さあ、ラプラスの絆を見せる時だ!!』


 放送が終わるか終わらないかのうちに、校舎全体が地鳴りのような騒ぎに包まれた。


「おい、聞いたか! 会長の指輪だってよ!」

「銀だ! 銀の指輪を探せ!」

「副会長が変な機械を持って歩いているらしいぞ、そこへ集合だ!」


 廊下の向こうから、何十人もの生徒たちの足音が押し寄せてくる。

 レイモンドの持つ『銀の共鳴(シルバー・レゾナンス)』が、四方八方から差し出される銀のノイズを拾い、悲鳴のようなアラートを上げた。


「ピーッ! ピーッ! ピーッ! ピーーッ!!」


「……っ、違う! それはステンレスだ! そっちはカーテンの金具だろう! お前たち、形さえ似ていればいいと思っているのか!?  磁場が乱れて、銀の波長が拾えない!」


 差し出されるのは、学園中の窓から外してきたようなステンレスのリングや、手品用の銀輪、しまいには「銀色の塗装が剥げかけたキーリング」まで。

 セオドリックへの忠誠心に燃える生徒たちは、指輪という言葉の定義を限界まで拡張し、ありとあらゆる銀色の円形(・・・・・)をレイモンドへ突きつけていた。


「フフ、人気者は辛いね、レイ。君の作った機械が、こんなに学園に愛されている」


 レイモンドの漆黒の瞳が、屈辱と焦燥で血走っていく後ろで、セオドリックだけが、嵐の中の静止点のように優雅に佇んでいた。


 指輪――『学園守護の指輪ラプラス・ガーディアン』を失ったとしても、セオドリック自身の膨大な魔力が減衰するわけではない。彼は今この瞬間も、指先一つで学園を焼き払えるほどの力を有している。


 だが、あの指輪がなければ、学園という巨大な魔導機構を制御する眼が機能しない。管理者の承認なしに暴走しかねない防衛システム。その鍵を、彼はどこかへ置き忘れたのだ――にも関わらず。


 セオドリックは、押し寄せる生徒一人ひとりの目を丁寧に見つめ、「ありがとう、助かるよ」「君のその気持ちを、僕は一生忘れない」と、完璧な微笑を振り撒いている。


 その光景を見ながら、レイモンドは震える拳を握りしめた。

 

(……こいつ、わざとやっているのか……?)


 本来なら、管理権限の喪失という()は絶対に隠すべきだ。だがセオドリックは、あえて弱みをさらけ出し、学園全体を巻き込んだ『大捜索イベント』に仕立て上げた。

 それによって、システムの空白という不安を、全校生徒による捜索という圧倒的な連帯感で塗り潰してしまったのだ。


「お前は……お前という男は、どこまでこの世界を自分の都合よく作り替えるつもりだ……!」

「おや、心外だなレイ。僕はただ、君と一緒に歩くこの学園を、少しでも賑やかにしたかっただけだよ」


 セオドリックは、泥沼のような焦燥に沈むレイモンドの肩を引き寄せ、微笑んだ。


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