表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【BL】高貴なる生徒会長は、今日も副会長を慈しむ  ~学園の貴公子と没落貴族のすれ違い救済ライフ~  作者: 夕凪ゆな
【悪の守護者編】叛逆のカウントダウン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/32

嵐の前夜


 記念祭を翌日に控えた夜。帝都を激しい雷雨が襲っていた。

 生徒会室の窓を叩く雨音は、まるで巨大な獣の咆哮のようだ。窓硝子が震えるたびに、不気味な稲光が、壁にレイモンドの影を浮かび上がらせる。


 レイモンドは、自らのデスクで最後の『点検』を行っていた。

 彼の脳内には、明日のスケジュールが冷徹な魔導演算のように展開されている。


(――午前十時、記念祭開幕のスピーチ。セオドリックが登壇すると同時に、第三結界塔に仕込んだバイパス回路を遠隔起動する。警備魔導師たちの網を一時的に休眠させ、ベルツの私兵を不審者排除の名目で壇上へ。……そして俺は、ベルツにすべての罪状を差し出し、セオドリックを『被害者』として切り離す。そして地下に仕掛けてある端末から、ベルツ腐敗の証拠映像を転送する。ベルツの抵抗に備えて、念の為あの(・・)術式も用意せねば)


 数式にミスはない。隠蔽コードも完璧だ。

 あとは、その時(・・・)を待つだけ。


 右手の薬指に嵌まった学園守護の指輪ラプラス・ガーディアン――その効力を押さえるために繰り返した隠蔽ジャミングの代償――による痣の疼きとも、明日でおさらばだ。



 思考を止めれば、かつての記憶が雨音に混じって溢れ出しそうになる。それを、レイモンドは必死に押し殺していた。

 

 暗闇の古文書室で、琥珀色の灯火を分かち合った安らぎ。

 街でベニエを頬張り、世間知らずなセオドリックの世話を焼いた、あのもどかしくも愛おしい午後。

 地下礼拝堂で『悪魔(セオドリック)』に魅入られ、逃げ場を失った絶望さえも、今の孤独に比べればどれほど幸福だったことか。


 ――その時、重厚な扉が開く音が、雷鳴の合間に低く響いた。


「――レイ。まだ仕事を続けているのかい?」


 廊下の明かりを背負って入ってきたのは、セオドリックだった。

 彼は迷いのない足取りで近づくと、レイモンドの肩にそっと手を置く。その長い指先の熱が、制服を透かして、レイモンドの肌を焼いた。


「……明日が本番だ。完璧を期したいだけだ」


 レイモンドは顔を上げず、努めて淡々と答えた。

 だがセオドリックは、逃がさないと言わんばかりの強さで、レイモンドの右手を机の上から引き寄せた。

 袖口が滑り、醜い痣が白日の下に晒される。


「……この痣、まだ治っていないのかい?」


 セオドリックの碧い瞳が、レイモンドを射抜く。


「……気づいて、いたのか」

「もちろん。君の変化に、僕が気づかないはずがないだろう?」


 セオドリックは、咎めるどころか、ひどく穏やかに微笑む。


「君が言いたくないようだったから、今日まで黙っていただけさ。……だって僕は、君を信じているからね」


 それは、最悪の誤解であり、最高の信頼だった。

 セオドリックにとって、この裏切りの代償である痣さえも、「自分を支えるために無理をした誇り高い傷」に見えているのだろう。


「セオドリック……。もしも……もしも明日、何かが起きて、お前がその理想とする光をすべて失うようなことがあっても……お前は、お前自身を信じられるか?」


 レイモンドは、激しい自己嫌悪を押し殺し、最後の『警告』を投げかけた。

 セオドリックは、レイモンドの痣がある手首にそっと唇を寄せると、慈しむように囁く。


「いいや。僕は自分なんて信じていないよ。……僕は、僕の理想を実現しようとする『君』を信じているんだ。だから、もし世界が僕を拒んでも、隣に君さえいれば、そこが僕の新しい王国になる」


 セオドリックは、レイモンドの薬指にある指輪を、そっと撫でた。


「君がこの指輪を嵌めている限り、僕たちは一つだ。……さあ、もうお休み、僕の誇り高い守護者(ガーディアン)。明日、最高の景色を君に見せよう」



 セオドリックが部屋を去り、再び静寂が訪れる。

 一人残された執務室で、レイモンドはデスクに置かれた一枚の名簿を、指が白くなるほどに握りしめた。

 そこには、明日『反逆者』として拘束されるべきリストの筆頭に、自らの名が記されていた。


 窓の外で、一際大きな雷鳴が轟いた。

 青白い閃光が、レイモンドの頬を伝う一筋の雫を、一瞬だけ白く光らせる。


「……ああ、お前は本当に、救いようのない馬鹿だな。――セオドリック」


 崩れ落ちるように名簿に顔を埋め、レイモンドは独り、訪れるはずのない夜明けを待った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ