黒クラスの憂鬱
翌朝。
食堂に入った瞬間、僕は全身に突き刺さるような視線を感じた。
「……あれが虚無体質の」
「危険らしいぞ。昨日の訓練で……」
「いや、ただのまぐれだろ」
ひそひそ声が耳に入る。僕がトレイを持って歩くだけで、周りのテーブルから囁きが飛んでくるのだ。
(ふふん。注目の的じゃねぇか、相棒)
「やめてよ……これ、全然嬉しくないから!」
思わず口に出しそうになって慌てて口を押さえる。ネメシスが腰で喉を震わせるように笑った。
「おいルカ! こっちだ!」
黒クラスのテーブルからブランが大声で呼んだ。慌てて席につくと、ティアが小さく笑みを向けてくる。
「昨日は本当にありがとうございました。あの時、ルカさんがいなかったら……」
「いや……僕も無我夢中で……」
マルコはスープをかき混ぜながら、視線を逸らした。
「でも……やっぱり危険なんじゃないか? 虚無って、聞いたこともないし」
その言葉に胸がチクリと痛んだ。
(危険? 最高じゃねぇか。強者の証明だぜ)
「黙ってて!」
慌てて声を殺す。ティアとブランに「え?」と見られ、首を振ってごまかした。
◇
午前の授業は座学だった。教壇に立ったのは白衣姿の女性教師――リディア先生。眼鏡の奥の瞳が冷たく光っている。
「さて、新入生諸君。本日は魔力循環の基礎理論について説明する」
黒板に魔力の流れを示す図が描かれていく。人間の体内を巡る魔力は属性によって形を変え、火・水・風・土の力として発現する――そんな内容だ。
「そして、魔導学園に伝わる逸話が一つある」
リディア先生はチョークを止め、僕たちを見渡した。
「虚無体質――魔力を持たず、あらゆる魔法を無効化する存在だ。だが、これは古い伝説にすぎない。確認された例は一度もない」
教室にざわめきが走った。僕の耳に「昨日のアイツだ」と囁く声が突き刺さる。
「ありえないのです。魔力ゼロは単なる無能を意味する。虚無体質など、物語の中の幻です」
リディア先生の冷たい言葉に、心臓が強く脈打った。僕自身が、その“幻”かもしれないのに。
◇
休み時間。黒クラスの教室に戻ると、ブランが机を叩いて立ち上がった。
「聞いただろ? 虚無なんて幻なんだよ! だから昨日のは俺が油断してただけだ!」
「ちょっとブラン、言いすぎ……」
ティアが眉をひそめるが、ブランは意地になっている。
マルコは小声で「でも……本当に無効化したし」
とつぶやき、僕を一瞥してすぐ目を逸らした。
僕は黙ったまま席に座り、拳を握りしめる。
「僕は……危険なのかな」
(危険でいいんだよ、相棒。無害な剣なんてつまらねぇだろ?)
「お前に言われたくない!」
思わず声が漏れ、慌てて口を押さえた。クラス中の視線が一斉に僕に集まる。
「……な、なんでもないです!」
◇
放課後。
教室を出ようとした時、背後から低い声が響いた。
「ルカ=ヴォイド」
振り返ると、ヴォルフ教官が壁にもたれて腕を組んでいた。獣のような眼光が僕を射抜く。
「昨日の力……やはり虚無の可能性が高いな」
「……虚無、って……」
「お前の力、調べさせてもらうぞ」
その言葉に息が詰まる。
(ほらな、相棒。やっと本格的に面白くなってきたじゃねぇか)
ネメシスの嘲笑が、心臓の奥で鳴り響いた。
今回は「虚無体質」という言葉が初めて学園内で広まる回でした。
ルカは噂と視線に苦しみつつも、授業で「虚無は伝説」と断言され、ますます自分の立場に悩み始めます。
彼自身が“幻”なのか、それとも――。
そして最後には、ヴォルフ教官から意味深な呼び出し。
次回はいよいよ、ルカの力を実際に“試される”展開です。
ここから物語はさらに加速していきますので、ぜひ楽しみにしてください!
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それでは、また次回。




