学園を揺らす黒の異端
訓練場に、しばしの静寂が訪れた。
砕け散った模擬魔獣の残骸を前に、誰もが息をのんでいる。
そして次の瞬間――ざわめきが広がった。
「見たか? 黒のやつだぞ!」
「魔力ゼロじゃなかったのか?」
「今の……どういうことだ?」
僕はその真ん中に立ち尽くしていた。剣を握る手が震えている。
(おいおい、そんな顔すんなよ、相棒。初陣にしちゃ上出来だろ?)
……黙ってて。頭に直接響く声に、思わず眉をしかめる。
「ふん、まぐれだろう」
嫌味ったらしい声。フランだ。悔しさを隠しきれない顔で僕を睨みつけている。
「だが……面白い」
ユリウスは冷静に言った。赤い髪を揺らしながら、真っすぐにこちらを見る。
その目は、まるで新しい獲物を見つけた猛獣みたいで――正直、怖い。
◇
「ルカさん……さっきは本当に、ありがとう」
ティアが小さな声で礼を言った。頬が赤い。
「い、いや……僕も、必死で……」
ブランは拳を握りしめて歯ぎしりしていた。
「俺が失敗したせいだ……! 次は絶対やってやる……!」
マルコは半泣きのまま僕を見ている。
「すごかったけど……ほんとにルカなの? 偶然だよね?」
やめて。自分が一番信じられてないんだから。
◇
「ふん……虚無の体質か」
ヴォルフ教官が低くつぶやいた。その眼光はまるで刃物のようで、背筋が凍る。
僕のことを“知っている”――そんな気配がした。
「今日はここまでだ。黒も紅も翠も、解散!」
解散の声が響くと、生徒たちは口々に噂をしながら散っていった。
でも、その視線の多くはまだ僕に注がれていた。
◇
夜。黒クラスの寮。
「……はぁ」
ベッドの上に腰を下ろして、ため息をついた。
腰の剣――ネメシスを鞘から抜く。
「……お前、一体何なんだよ」
(ははっ、やっと俺に聞く気になったか)
いきなり返事が返ってきた。心臓が止まりかける。
「しゃ、しゃべるなって! ていうか、何をしたんだ今日!?」
(簡単な話だ。お前の中に眠ってる“虚無”を、ほんの少し覗かせただけだ)
「虚無……?」
僕が問い返しても、ネメシスはそれ以上説明しない。
(仕組みなんざ今はどうでもいい。大事なのは――これからもっと面白くなるってことさ相棒)
「……勝手に相棒呼ばわりするな!」
剣に向かって声を荒げている僕を、同室のマルコが変な目で見ていた。
「……ルカ? だ、大丈夫?」
「な、何でもないよ!」
うわ、完全に危ない人だと思われた……。
◇
夜が更けて、窓の外で鐘が鳴る。
僕は布団に潜り込みながら、胸の奥で呟いた。
「僕は……本当に戦えるのか?」
(もちろんだとも、相棒。次はもっと面白いぞ)
ネメシスの声が耳に響き、嫌な予感と期待が同時に膨らんでいった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は訓練の余波として、ルカが発揮した“虚無”が周囲に強烈な印象を残しました。
フランの敵意、ユリウスの興味、アリシアの静かな眼差し、そしてヴォルフ教官の意味深な言葉。
それぞれの立場から、ルカへの見方が少しずつ変化していったのではないでしょうか。
本人はまだ「何をしたのか」分からないまま。
ただ、ネメシスだけが先を知っていて、読者と同じくルカを“引きずっていく”役割を果たしています。
次回からはいよいよ学園での生活や授業が本格的に始まり、虚無体質がどのように扱われていくのか、黒クラスがどう見られていくのか――そこをじっくり描いていきます。
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それでは、また次回。




