虚無の片鱗 ― 最初の実技訓練
入学式の翌日。
僕たち黒クラスは、朝から演習場に集められていた。
「お前ら、新入りの腕を確かめる時間だ」
低い声が響く。実技担当のヴォルフ教官だ。獣のような眼光で、全員を一人ずつ射抜くように見回してくる。
ひぇ……視線だけで気絶しそう。
「今日は紅、翠、黒の合同訓練だ。相手は――模擬魔獣だ」
教官が指を鳴らすと、演習場の魔法陣が光を放つ。次の瞬間、鉄の鎧をまとった獣の人形がぞろぞろと出現した。目が赤く光っていて……いや、絶対怖いやつだ。
「ひぃっ……」
ティアが小さく悲鳴をあげて僕の後ろに隠れる。
「ふん! 俺が真っ先に倒してやる!」
ブランが胸を張って前に出るけど、手が震えてるぞ。見栄っ張りにもほどがある。
「お、おい、これ本当に人形なの? 生きてないよね?」
マルコが半泣きで聞いてきた。いや、僕に聞かれても困る。
腰のネメシス震え、笑った気がした。
(おい相棒、ガタガタ震えてんじゃねぇ。見せ場だぞ?)
「……見せ場なんてないから!」
慌てて小声で返す。隣のティアが「えっ?」と僕を見て首を傾げた。やば、また独り言扱いされた。
◇
紅クラスはさすがだった。ユリウスが前に出ると、炎の魔力を纏った大剣が一閃。模擬魔獣が一体、爆ぜるように吹き飛んだ。
「やっぱりユリウス様だ……!」
女子たちの黄色い歓声が上がる。
フランも負けじと魔法を放つが、見せつけるばかりで命中率は微妙。それでも周囲の拍手に得意げな顔をしていた。
「どうだ、黒の連中とは格が違うだろう」
くっ……いちいちうるさい。
翠クラスも奮闘している。ガルドが大剣を振り回し、仲間を守るように前へ出る姿は頼もしかった。
「おらぁっ! こっちは任せろ!」
その豪快な声が、ちょっと羨ましい。僕にはあんな風に戦える力なんてないから。
◇
そして――僕たち黒クラスの番が回ってきた。
「さ、さぁ行きましょう!」
ティアが気合を入れた……ものの、足は完全にすくんでる。
「見てろよ! 俺がやってやる!」
ブランは剣を振り上げて突進――した瞬間、派手に転んで土煙を上げた。
「ぶはっ……!」
笑いが起きる。紅クラスからは冷たい視線。フランなんてお腹抱えて笑ってるし。
「くそっ……バカにしやがって!」
ブランが真っ赤になって立ち上がる。だけど模擬魔獣がすぐ目の前まで迫っていて――やばい!
「ティア、下がれ!」
咄嗟に僕は彼女を庇うように前に出た。
魔獣の腕が振り下ろされ、目の前に迫る。
――あ、死ぬかも。
その瞬間だった。
バキィン! という音が響き、獣の腕が砕け散った。
「……え?」
何が起きたのか理解できない。
(やるじゃねぇか、相棒)
腰のネメシスが愉快そうに囁いた。
「い、今の……僕が?」
魔獣は明らかに“魔法の防御”を纏っていた。普通なら庶民どころか上位の魔導士でさえ破れないはずの壁。
なのに――僕の一振りで、霧散した。
「魔力ゼロなのに……?」
「何だ今の……!」
観客席の生徒たちがざわめく。
「馬鹿な、あれは……」
フランの顔がひきつっている。
ユリウスは真剣な目でこちらを見据えた。
「……面白い」
ガルドは大笑いした。
「ははっ! やるじゃねぇかルカ! 黒でもやれると証明したな!」
ヴォルフ教官も、わずかに口角を上げた。
「……虚無の片鱗。まさか本当に目にするとはな」
◇
僕はといえば、ただ茫然と立ち尽くしていた。
「僕は……何をしたんだ……?」
(決まってんだろ、相棒。ようやく“力”を使い始めたんだよ)
ネメシスの声が頭に響く。
それが何を意味するのか――まだ、この時の僕には分からなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は黒クラスが挑んだ初めての実技訓練で、ルカが“虚無の片鱗”を発現させる回でした。
魔力ゼロと言われた彼が、仲間を庇う瞬間に見せた謎の力――。
本人はもちろん、周囲もまだその正体を理解できていません。
けれど、ここから少しずつルカとネメシスの物語は動き出していきます。
次回は訓練の余波として「虚無」への注目が一気に高まり、仲間やライバルとの関係も揺れ動くことに。
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それでは、また次回。




