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第2話『シュウルヘイム王国:聖女の為の後宮』


聖女は民の為にその力を振るわなければならない。


聖女はその神聖力を持って『魔』を払わなければならない。


聖女は強大な力を持っているのだから、国の為に尽くさなければならない。



それが、『聖女』という使命。

ゆえに、オルベル皇国は『聖女』である私を”死に生かす”ために様々な手段を講じた。



「ーー話してはいただけないでしょうか?どうしてこのような状態になられておられるのですか?」

「……」



まぁ、その手段も私は『国家機密』なのではないかと思った。

見ればわかってほしいと思いながら、というか立場上仕方がないと思いながら、私は目の前にいる高貴なお方を前に口を引き結んで耐えた。


聖女が一番高貴ではあるが、それでも前世平民だった記憶があるがために、不思議と貴族らしさというものを間近に見るとなんだか自分は関係ないと感じてしまう常日頃。


聖女であるのに、生き人形のような扱いをさせられていたせいか、人としての扱いをされていることに違和感を感じてしまう。


そう。コレはきっと違和感だ。

違和感であると――信じたかった。



「……。私がさらりとオスベル皇国の秘密を言うわけないと思うのですが……?」



今、ここは馬車の中だ。転移魔法には射程圏内が存在する。

1人転移させるだけでもそれ相応の莫大な魔力が消費させられるため、どうやってシュウルヘイム王国に帰還するのかと思いきや安全地帯は普通に馬車で、所々の危険地帯は転移魔法ですり抜けるという荒業を成し遂げていた。



(なに……。この人たち)



今。馬車の中では乗客がもう一人増えていた。

途中でアレクサンドリア公爵領の大きな町にいたお方を拾い、早10分。

軽い挨拶を先ほど済ませ、すぐになぜか私の病状を心配する始末。何だ、この人たち。本当にお人好しすぎないか?



「スルナ様」



何度も名前を呼ぶ目の前の男性。すらりとした上背のある魔法師団のローブを着た優しい顔立ちの男性は天女のような微笑みを浮かべながら私の包帯にまみれた手を握って尋ねてくる。

青紫色の長髪。宵色の瞳。見るからに『神の加護』持ちである彼は先ほどから何度も転移魔法でこの大勢の人達を最大転移距離まで転移させ、帰還をさせている元凶である。



「……何度言われても、理由をお伝えするわけにはいきません。リード・アルグレイト様」



アルヘイム王子の膝枕によって体が少し楽になった私は、いつもはすぐに咳がこみ上げてくる身体が思ったより快調で「絶対何かしたでしょ」という眼差しをアルヘイム王子に向けるものの、「ん?」と綺麗な顔で返されてしまった。



「ですが、スルナ様。これでは、恐らく王が怒ります」

「……はい?」



なんでそこで王が怒ることに繋がるの。



「我々が貴方に願うのは、貴方が我が国の救いの為にそのお力を振るうことです」

「知っています。ここと同じことをすればいいのでしょう?」

「……。この国がどのような扱いをしてきたのかは問いませんが、我々は貴方に今のような状況にいてほしくないと考えています」

「…………」



じゃあどうすれと。

生まれもった黒髪。聖女としては『鬼才』と恐れられるほどの適性がありながら、『天然の呪い』に罹り病弱にだってなった。

いいや。ウール曰く、赤子の頃から風邪に罹りやすかったのだと言う。

面白い話だ。ただの病だったら口だって動かせるか怪しいのに、これは『呪い』の病であるがために、口が動くよりも体が重くて気持ち悪くて、仕方がない。

それでも、聖女として『儀式』を行なうのには問題がない。



「……話を戻しましょう」



それで、いいだろうに。それ以上のことを求めて、何になると言うのか私は不思議でたまらない。



「私はまず、シュウルヘイム王国に着いたらどうすればいいのですか?」

「……そうですね。まず、お身体を療養していただくために、スルナ様には『後宮』に入ってもらいます」

「ーーコウキュウ……?」



なぜ、なんで、そんな場所に。ハイ……?

いや、国王の妻となる人、側室となる人がいるのは分かる。うん。それは知ってる。

でも、私、妻になるの?側室になるの?


あいどんとのー。



「ふふ。大丈夫だよ」



隣で、私の反応を愛しむように楽しんで眺めるアルヘイム王子は私の頭をポンポンと撫でながら、治癒魔法をかけてくれていた。

やめて、と言ったが「ヤダ」で返された。それを10回くらい繰り返したところで私の根気が負けた。



「後宮と言っても、そこは王にとって伴侶を作るための場所。今、ウル王は伴侶を作らない。ゆえに、後宮も誰も使わない宮になっていて、今、そこを神殿に改造中だ」

「……」



わーお。

つまり、私は伴侶にならなくていいと。

どうして後宮を神殿に変えているのかは知らないが……。突っ込むとまた脱線しそうだから聞くのはやめた。



「多分、我々が到着したら神殿はほぼ完成しているはずだと思う。この国ではね、聖女はその時代の国王の伴侶となるしきたりがあるんだ」

「やっぱり私、国王陛下の伴侶になるんですか……?」

「いや。それはウル王が拒否した」



私嫌われたの……?

「なりたかったの?」とアルヘイム王子が訊いてきたが、それもいやだから首を横に振った。



「他国の君に、そのしきたりを守らせるというのは違う話だろ? 言っちゃ悪いが、我々は君に無理やり祖国を離れさせた責任がある。家族も、従者も、思い出も。全部その場に置いていかせた責任が」

「別にそれは……」

「君が気にしないでと言っても、私達は気にする」

「……」



ぐぅのでも出ない。今の私の『天然の呪い』の処置状態について口を割らない我儘と大方同じと見える。



「つまり、だ。君は王都に到着したら後宮入りをしてもらう。これは、名目上は「しきたり」の上で陛下の伴侶となること、陛下の庇護下に入ることを意味する」

「……別に、そこまで守っていただかなくても」



凄い。寛大な処置だと、思った。

この国は『聖女』という存在を本当に大事にして、大切にしたいと考えているのだと。



「君は、もっと大切にされるべきだ」



ぼそりと。憎まれ口を叩くかの如く、アルヘイム王子はぼやいた。

思わず耳を疑ってしまうような発言に隣を向けば、アルヘイム王子は私の空いた片手を掬うようにとって、そのまま私の手に口づけをして、何か『呪文』のようなものを唱えた。


すると――、口づけをされたところを起点に、純白の光が私の腕を包み込んだ。



「ーー浄化!?」



しゅるるると黒いひび割れが包帯の上に浮き上がり、それを消し飛ばすかのように浄化の力が私の『呪い』を癒し殺す。

温かい、ぬるま湯のような魔力の輝き。



「ーーふ、ぁ……」



呪いに犯されている身体の拒絶反応か、座っていることができず、前のめりに倒れそうになるのをリード様が支えてくれた。



「ん。やっぱりか」

「どぉ……し、て……」



顔を真っ赤にし、びりびりの電流が走ったような感覚に合う私。

そう。『浄化』。これは、何度だって試みた。

でも、少しの『浄化』でも呪いが弾き飛ばし、私の身体を熱と倦怠感で覆わせた。



「浄化行為をするときは、いつもこの包帯があった?」



黒いひび割れが、すぐに指先にまで纏わり直される。浄化して、少しは楽になったものの、結局はプラスマイナスゼロということだ。



「どういう……」



くらくらする頭を動かしながら、リード様が私に治癒魔法をかけてくれるその手を振り払えずにいると、まさかの事実を伝えられる。



「この包帯。護符の代わりをしているようだけど、『回復魔法』と『呪詛魔法』がかけられているよ」

「…………は?」



いやいやいや。

そんなことはない。

『回復魔法』がかけられているのはしっている。それがなければ、今頃私は瘴気を発する身体になっていたはずだ。


生かす殺すために――そこまでしていたの……?



「……少し辛いだろうけど、後宮に着いたら、着替えて。全身、全部。侍女と臣下をつけるから」

「……わかり、ました」



やっぱり、つくづく誰も信じられない。




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