幼馴染に毒を盛られたのでやり返す。
親友に裏切られた・・・
やり返してやる。
「シニア、ルイス様との結婚おめでとう。」
私たちの結婚パーティーで、長年の友人であるヘレンは祝いの言葉を言ってくれた。
パーティーにはこの国の関係者がたくさん出席している。
まあ、この国の次期宰相候補の結婚パーティーなのだから、それも当然だろう。
「あのシニアが結婚なんてな~。それも、あのルイス様と。」
ヘレンは少しだけ複雑な様子だった。きっと私に先を越されて思うことがあるんだろう。
「
まあね。でも、ルイスはみんなが思っている程完璧じゃないよ。
家だと仕事もしないで基本ダラダラしてるし、外に出ようって言っても断ってくるし・・・」
話している中で、自分の頬が緩んでいくのが分かった。どうしよう、気持ち悪いと思われないかな・・・
そう思ってヘレンの顔を見ると、案の定少しだけ引いていた。
「そ、そうなんだ…。シニアも大変だね。
これ以上パーティーの主役を独り占めするわけにもいかないから、もうそろそろ行くね。
シニア、結婚おめでとう。」
そういってヘレンは私に、きれいな布で覆われたものを渡してきた。布の端がリボンで結ばれている。
「ありがとう。これは何?」
「ハーブティーだよ。これから大変なことが多いだろうから、これを飲んで少しでも癒されてくれたらいいなと思って・・・」
私はヘレンの心遣いに感激した。私のこれからを考えたプレゼントをくれるなんて、なんていいやつなんだろう。
「ヘレン~。あなたが私の友達でよかった~。」
私が急にこんなことを言ってヘレンに抱き着いたからか、ヘレンは困惑していた。
「うん・・私もシニアの友達でよかったよ。」
そう言って、ヘレンは私のもとから離れていった。
「シニア、疲れていないか?」
私が家の机に突っ伏していると、ルイスが声をかけてきた。心なしかいつもより元気がない。
「あんなに長くなるなんて聞いてないわ」
私が文句を言うと、ルイスは苦笑した。
「まあ、長かったね・・・。今日来た人は僕のことを小さい時から知っているから、積もる話もあったんだよ。」
そういうと、その時のことを思い出したのかみるみる顔がやつれていった。
「そのわりには、あなたの方こそ疲れているように見えるけど?話が盛り上がったんじゃなかったのかしら。」
私がからかうように言うと、より一層元気がなくなってしまった。
「・・・仕方ないだろ。話は盛り上がったけど、大抵は僕の黒歴史を掘り返されて騒いでいただけだ。それに、会う人会う人に同じような話をされて・・・そんなの、疲れるにきまってるだろ。」
なにやら本当に大変なようだった。どうにか癒してあげたいが・・・
そこまで考えたところで、ヘレンにもらったハーブティーのことを思い出した。
私はプレゼントを机におき、それを包んでいる布を取り外そうとする。
「ん?なんだ、それは。」
ルイスもこれの存在に気づいたらしい。
「ハーブティーだって。今日のパーティーでヘレンにもらったの。」
「ヘレンって言うと・・・シニアの一番の友達だったっけか。
いい奴だな。」
「そうでしょー。いつも優しくて気が使えて、最高のともだちなの。」
布を取り除くと、中から白色に少し褐色の入った葉が出てきた。
乾燥されてはいるが、なにやらまがまがしい気配を放っている。
私はそっとルイスの方を見た。どうやらルイスもこんな色のハーブは見たことがないようだった。
「これって・・・ハーブだよね。こんな色のハーブ見たことない・・。」
私が恐る恐る口を開いてみるが、ルイスは何も言わない。二人の間に静寂が広がった。
なにやらルイスは、いいずらそうな様子でもじもじしている。
「ねえ、さっきからもじもじして、何かあるの?」
とうとう私はしびれを切らして、語気を強めて言った。
「シニア・・・。とても言いづらいことなんだが、この葉は、朝顔を乾燥させたものだ。
以前飾っていたものが、枯れた後にこんな感じの色になっていたから間違いないと思う。」
「へぇ~。そうなんだ。朝顔のハーブティーっておいしいのかな。」
そんなことを言うと、またルイスがもじもじしだした。
「なんなの、さっきから。言いたいことがあるのならはっきり言ってよ。」
「シニア、朝顔の葉は、人間には毒だ。」
「え・・・」
その時の私の顔はきっとひどく滑稽なものだったのだろう。ルイスは急に下を向いて肩を震わせていた。
「じゃあ、私はシニアに毒を盛られかけたってこと?」
ルイスは下を向いていたが、その状態でうなずいた。いまだに肩は震えたままだった。
「なんで、ヘレンがそんなこと・・・。ねえ、何かの手違いってことはない?」
私は藁にも縋る思いで尋ねた。ルイスは静かに顔をあげたが、笑いを抑えるのに必死で顔が痙攣していた。
「いや、わざわざ包装までして渡しているから、手違いってことはないと思う。そもそも朝顔の葉を乾燥させること自体が、手間のかかる作業だから、相当恨まれているとしか・・・」
言ってルイスはまた下を向いた。
「なんで、なんでこんなこと・・・」
「本人に聞いてみればいいんじゃないか?」
下から、笑いながらの声が聞こえてきた。
「まあ、お前を殺したいほど憎んでいるのなら、もっと他の植物を選んだだろう。
ちょっといたずら程度の気持ちだったんじゃないか?」
私の感情はヘレンに対する混乱から、怒りに変わっていった。
「どんな理由があろうとも、私に毒を盛るような奴をそのままにはしておけないわ。」
「どうする?騎士団に報告するか?多分捕まえることはできると思うけど・・・」
「いいえ。そんなことじゃあ私の気持ちは晴れないわ。」
「じゃあ、どうするつもりだ?」
ルイスが笑いながら聞いてきた。絶対に今の状況を面白がっている。
私はルイスの方を向きなおし、大胆不敵に笑った。
「やり返すのよ。それも、ヘレンが二度とこんなことをしないよう徹底的にね。」
結婚パーティーから四日ほどたったこの日に、私はヘレンを家に呼んだ。
私に毒を盛ろうとしたヘレンが、どんな様子で現れるのかが少し楽しみだった。
屋外にある庭園で待っていると、ヘレンがやってきた。
「シニア、四日ぶりくらいだね。新婚生活はどう?」
ヘレンは私に毒を盛ろうとしたくせに、いつもと変わらない様子だった。
「楽しいけど・・・それよりも大変が勝つかな。」
「そうなんだ。あのハーブティーは飲んだ?疲れも少しは休まると思うよ。」
ヘレンは自分からハーブティーの話題に触れてきた。それも表情は一切変えずに。
今まで気づかなかったけど、実はヘレンって、すごくやばい奴なんじゃ・・・
そりゃあ、親友の私に毒を盛ろうとしただけでやばいけど、毒を盛った相手に対してふつうこんなに平然と話せる?
一応私も疑われないように自然と会話をつなげる。
「実はまだ飲んでないんだよね。ヘレンにもらったって思うともったいなくて使えなくて・・・」
「そんなこと全然気にしないで。私はシニアを少しでも癒してあげようと思ってあげたんだから・・・使ってくれないと意味ないよ。」
普段なら嬉しくてヘレンに抱き着いているところだが、今回はそうもいかない。
何しろ今ヘレンが私に飲ませようとしているのは毒なのだ。決して私を癒してくれるようなものではない。
それなのに笑顔で勧めてくるヘレンが恐ろしかった。
「そうね。そんなに言ってくれるんだったら飲んでみようかな。」
ヘレンの表情がパアッと輝いた。
いつも癒されていたその表情も、今となっては恐怖を駆り立てるものでしかない。
どうやってでもこいつにやり返さないと・・・。いつもと変わらない様子のヘレンに腹が立ち、より一層シニアは使命感が強まった。
ヘレンのカップを見ると、空になっていた。
「ちょっと持ってね。お茶を入れてくるから。」
そう言って私は立ち上がり、台所の方へ向かう。そしてポットに熱湯を注ぎ入れ、ヘレンからもらったあの朝顔のハーブを入れた。
「ごめんね。ちょっと手間取っちゃった。」
私は戻りざまに謝った。
「ううん。全然大丈夫だよ。」
ヘレンは笑顔で迎えてくれた。
ここだけ見ればとてもいい友達なんだけどなぁ~。
私はヘレンの向かい合わせにある椅子に座り、机の上にティーポットを置く。
「シニア、これって・・・」
私の持ってきたティーポットに目が言った瞬間に、ヘレンの表情が変わった。
「うん。ヘレンにもらったハーブティーだよ。さっきヘレンに言われたから、入れてきたんだ。」
「そう…なんだ。」
ヘレンはあからさまに警戒していた。」
「どうしたの?そんなに緊張して。」
「いや、シニアって不器用でしょ。大丈夫かなって・・・」
「これをくれたのはヘレンでしょ。ちょっとは信頼してよ。」
「そうだけど・・・」
自分が飲むことになるとは思っていなかったのか、ヘレンはあからさまに動揺している。
でも、こんなもんじゃ私の怒りは収まらない。
「私はまだ飲み切ってないから、とりあえずヘレンにだけ入れるね。」
「待って・・・」
ヘレンが急に鋭い声をあげた。だがそのあとの言葉を紡ぐことはできなかったようだ。
「急に大きい声を出してどうしたの?」
一瞬会話に穴が開く。
ヘレンもやばいと思ったのか落ち着いた様子で答えなおした。
「せっかくだから、先にシニアが飲んでよ。私はいつでも飲めるからさ。」
言い終わるとヘレンは、逃げ切ったと思ったのかもういつも通りの表情に戻っていた。
「こっちは私が飲んであげるね。」
そういうとヘレンは私のカップに手を伸ばそうとする。
私はヘレンの取ろうとしているカップをスッと取り、そこに入れてあるお茶を飲んだふりをする。
「やっぱり私って既婚者だからさ、ルイス以外の人と間接キスする気はなくて・・・」
私は少しはにかみながら答えた。少し強引だが、まあ大丈夫だろう。
私はヘレンに追い打ちをかける。
「ハーブティーって心が落ち着くよね。ヘレンも一緒に飲もうよ。」
そう言ってヘレンに朝顔のハーブティーを飲むよう促す。
ヘレンはわざとらしくため息をつく。
「私はシニアが飲んでいるところが見たいの。」
「これが飲み終わったらいくらでも飲んであげるよ。」
私がすぐに返したからか、ヘレンは会話に詰まる。
私はさらに追い打ちをかける。
「さっきから全然飲んでないね。疲れてるの?」
「うん・・・ちょっとね。」
ヘレンはわざとらしく肩で息をし始める。
「大丈夫?やっぱりハーブティーを飲んだ方がいいんじゃない?
ヘレン言ってたよね。疲れた時に飲んだらいいって。」
そう言って私は、ヘレンの手前においてあるカップをさらにヘレンに近づける。
ヘレンが私をにらんでくるのが分かった。私はそれに笑顔で返す。
「どうしたの、早く飲んだ方がいいんじゃない?
それとも何か飲めない理由でもあるの?」
二人の間に流れる空気が冷気を帯びたものに変わっていく。
ヘレンはようやくコップに手を伸ばした。
よく見ると、その手が震えている。
「大丈夫?手が震えているわよ。そんなんじゃ零れちゃうわ。」
私はわざとらしくはやし立てる。またヘレンは私の方を見てにらむ。
私は気づかないふりをして、自分のカップに入っているお茶を優雅に飲み干す。
ヘレンはどうやら何かを決心したようだった。
毅然とした振る舞いでコップに入っているハーブティーを飲む。
「ほら、飲んだわよ。次はシニアの番ね。」
そう言ってヘレンは空になった私のコップにハーブティーを入れる。
今のヘレンの表情は、先ほどとは打って変わり、醜くゆがんでいた。
私は毅然とした態度でカップに手を伸ばし、ハーブティーを少し飲む。
ヘレンの表情はなにやら勝ち誇ったようなものだった。
嬉しさを抑えられなかったのか、喉の奥から漏れ出たような声が聞こえてきた。
「そういえばヘレン、私あなたに言っていなかったことがあるんだけど・・・」
「なあに、シニア。」
ヘレンは醜くゆがんだ顔で返答してきた。
「私の入れたハーブね、あなたからもらったものではなくて、もともとこの家にあったものなの。」
「え・・・」
ヘレンはポカンとして、ひどく滑稽な顔になっていた。
「ふふっ あははははっ」
私はその表情が面白くて、ただただ笑っていた。」
「ははっ はっ はぁ~ おもしろい。これで少しはうっぷんが晴らせたわ。」
そうして私はヘレンに近づき、耳元でささやく。
「ヘレン、今までありがとう。」
私は振り返って、二人でお茶をしていた机から離れていった。
庭から出ると、ルイスが立っていた。その隣には、剣を持った騎士団の姿もあった。
「もう、いいのか?」
私はその問いに、無言でうなずいた。
「そうか…」
そういうと、ルイスは騎士団の団員に指示を出す。
団員たちはヘレンのいる方向に歩き出した。
この後ヘレンは捕まる。私がそうしてくれとルイスに頼んだのだから。
庭の方から騒ぐような声が聞こえてくる。
「シニア、どうして?これまで仲良くしてきたのに、どうしてこんなことができるの?」
「ふざけるな。お前はシニアに毒を盛った。親友だと思っていたお前に盛られたんだ。
お前はシニアの体だけでなく、心も傷つけたんだ。それなのに、どうしてこんなことができるの?だと、お前こそどうしてこんなことができたんだ。」
ルイスがヘレンに対して怒鳴った。ルイスの怒りが空気を震わせたのを感じた。
私もこの際、ヘレンに聞きたかったことを聞く。
「ヘレン、どうしてこんなことしたの?
私はあなたと親友のつもりだった。それなのに、どうしてこんなこと…」
それを聞くと、ヘレンは高笑いをした。あたりに緊張が走る。
「どうしてですって?シニアって、本当にわかってないよね。
最初は私もあなたと親友だと思ってた。でも、ルイス様と仲良くなるにつれて
不純な感情が生まれていった。二人の話を聞くのがどんどん嫌になっていって、
それを嬉しそうに話してくるシニアがいやでいやで仕方なかった。
だから、ちょっとだけ嫌がらせをしようと思って。」
ヘレンは最後に私に陰を含んだ笑顔を向けてきた。その顔は、今まで見てきたどんな表情よりも美しかった。
自分の言いたいことをすべて言い終わったからか、ヘレンは自分の足で家を出て行った。
私とルイスの二人きりになる。
ドッと疲れが襲ってくる。足がふらつき倒れそうになったところを、ルイスが支えてくれる。
「お疲れ様。」
ルイスの穏やかな声が聞こえてくる。
「ええ、とても疲れたわ。」
そう言って私はルイスの腕に顔をうずめる。
「ねえ、ルイス。あの時、私のために怒ってくれてありがとう。」
「・・・当たり前だよ。」
ルイスの少し照れくさそうな声が聞こえてきた。
ちょっと最低なところはあるけど、やっぱりルイスはいい奴だ。
私の結婚した人が、この人とで良かった。
シニアは心の中でそっとそう思った。
見ていただきありがとうございます。