97.陸上の大艦隊
特撮大プールの工事が終わりに近づき、3m大の敵国戦艦が6隻列を成して建造されていた。
大小の補助艦の模型も数十隻という数が特美倉庫で仕込まれている。
これは実際の船会社だけでなく、リック監督が興した玩具会社も動員して作られている。細かい艤装は玩具の範疇だ。
プールの工事が終わり、並行して背後の特美倉庫の壁に晴天の絵が書き込まれた。
その幅90m弱、世界最大のプールである。
この模型の鋼鉄艦、既に海軍関係者や貴族から撮影後の買い取り希望が寄せられている。
「気の早い話だなあ」と呆れつつ、特美倉庫で保管しきれない分は売った先で保管して頂こうと打算するリック監督であった。
港湾設備のクレーンや各種倉庫のミニチュアも建設が進む。
ゴドラン、プテロス、宇宙迎撃戦の時とはまた違ったパノラミックなミニチュア群だ。
プールの建設が終わり、水が張られて行く。
予め作られてた軍港のミニチュアが水の力を得て、本当の港になっていく。
半分固定され、雷撃で揺れる様に余裕を持たされている戦艦が浮かび上がっていく。
他の映画を撮影中のチームまでゾロゾロと見物に来る。
「「「ほお~~!!」」」
「すげえなあ」
「海に来たみたいだ」
「あれが未来の戦艦かあ!」
「また大したもの作ったもんだあ!」
ついに、未来の大軍港、未来の大艦隊が、クランの荒野にその姿を現したのだ。
プールの建設費だけで、百万デナリ。
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早速水柱のテスト、それもかつてアイディー夫人が操作した様な風魔法を使わない、機械式のものが用意され、撮影された。
晴天の下、軍艦のミニチュアより高く上がる水柱は水面にも激しい波を立て、本当に爆発しているかの様であった。
続いて、実際の海を背景にした機送艦ドラコ・ボランテムの実物?大セットの建設が始まった。
「ゴドランの逆襲」で撮影を誘致した大軍港のある領主直々の売り込みで、土地が無償で提供されたのだ。
本編の舞台の大半はこの陸の上の機送艦で撮影される。
浜辺に無数の柱が並び立ち、その上にハリボテの機送艦が艤装され、更に実物?大の飛行機の模型がズラリと並べられるのだ。
無論領主のデンガナ公爵はクラン撮影所の大プールのセットも飛んできて見学し、興奮して大絶賛していた。
「ただの映画マニアだよなああの公爵」
と半ば呆れつつ、猛烈なファンの心強い応援を喜んだリック監督だった。
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キャスティングは毎度の面々、とは言うものの、ヨーホー映画のトップスターたちとあって結構なギャラを要している。
スクさん、ゲオさん、そしてやたらビシっと軍服を着こなしているマイちゃん。
主人公の熱血愛国漢を演じるのは、現代の都会を舞台にした青春ドラマで人気急上昇のデッカー・ナンダー氏。
その相棒役に独特の悪人面、裏腹に豪放でコミカルな演技が人気のガトー・ガッハー氏。
本編の監督は…少々揉めた。
この世界に、リック監督が知る様な世界戦争は無い。
従って、
「学徒動員させられた僧侶出身の監督なんている訳ないよなあ」
しかし、従軍神官から演劇の世界に転身した人がいた。
「この台本には、神の導きがある」
と、オーショー監督は引き受けた。
ただ、一つ注文があった。
「監督は私です、一本の映画に監督は二人いてはいけません。
特撮でも監督は名乗らないでほしい」
「わかりました」
やはり監督の世界はキビシイ。それでもリック監督はそれを受け入れたのだが。
「ダメよ」
セシリア社長の待ったがかかった。
「俺はあの人に従いたい」
「ダメ。特撮映画に於いてはリック君は特撮の顔なのよ」
「どーしたもんだか」
悩むリック監督に社長は事も無げに言った。
「現場見せればいいのよ」
丁度パイロット版は離陸シーン。
さらに敵軍港空襲シーン。
その向こうには10mの巨大な機送艦のミニチュア、というより船そのもの。
更にリック監督はピクトリアルスケッチを見せながら今後の撮影場面を説明した。
撮影所を後にしたオーショー監督、オショさんは翌日宣言した。
「これはリッちゃんに任せるしかありません、頼みますよ監督」
「任されました、祭司さん。
でも、監督はあなたです。私はあなたに従いますよ」
「頼みます。戦争で死んだ魂への供養のためにも」
「そんな犠牲が繰り返されない、未来の為にも」
死者への追悼、平和への願い。
この線に於いて二人がブレる事はなかった。
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音楽は当初いつもの通りリック監督が原案、ナート師が採譜の線で考えていたのだが。
「私も異世界の音楽に触れてみるべきと考えたのですよ」
とエクリス師が名乗り出た。
「今回、元の曲の作曲者は今までとは異なりますが、それでよければ」
「まずは、どんな曲をお考えでしょう?」
先ず最初に編曲されたのが「海軍行進曲」であった。
続いて映画の主題曲「航空隊行進曲」。
「随分趣きが違いますね」
「前者はこの映画の時代より半世紀前の曲で、後者がこの映画のための曲です」
「楽器も随分進化しました。誰かさんのお陰で」
「ハハハ~」
「この調子で行きましょう。これはこれで面白い作業ですねえ」
「制作発表の時、演奏が必要になると思います」
「この2曲と、あともう1曲くらい書き上げますか」
こうして「御召艦行進曲」も書き上がった。
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大セットも出来、テスト撮影というかパイロットフィルムというかも手応えが出来て来た。
「制作発表を大プールで行います!各界に日程の調整を!」
こうして「グランテラ大海空戦 大西洋の嵐」の製作が公表された。
当日は三軍の卿が招待された。
各国からも案内は無いのかと催促があり、これに応じて招待客の規模が拡大された。
「各国との合作でもないのにねえ」
何故かリック監督相手に愚痴る社長。
「そういう相談は海外事業部長辺りにして欲しいんだけど…」
「何手か先読める相手なら、こんな事にはなってないわよ」
セシリア社長は深く溜息をつくのであった。
「ま、それだけ注目して頂けてるのは有難い事じゃないですか。
これからは各国の支社を通じて、先方が来たがっているか予め探らせた方がよさそうですね」
「そうするわ。いい話題とお客様は多いに越した事ありませんからね」
「海軍を通じて、『キリエリア沖海戦』に強い関心を示した他国軍がなかったか念のため声をかけ、場合によっては招待した方がよいかも知れませんね」
「海外事業部もそこまで頭が回ればねえ」
こんなちょっとした騒ぎがありつつ、本作の稼ぎ次第ではヨーホー中央劇場の改築を前倒しせねばと新たな問題を抱える社長であった。
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製作発表の場は、白亜の殿堂クラン撮影所の新築大プール。
その前に、招待客は特撮用0番スタジオへご案内。
今回もパイロットフィルム込みでの制作発表。
パノラマスコープ版ヨーホーマークから、あの「海軍行進曲」が鳴り響き、機送艦から離陸する飛行機群、そして水柱を上げる敵軍港、そして大写しされる「グランテラ大海空戦 大西洋の嵐」のタイトル!
「遠くない未来で起こるだろう戦争を、国軍の協力を得て想定した未来の予測!未来の私達はそこに何を学び、何を思うか!」
未来のシンプルな軍服に身を包んだ俳優陣がクレジットされる。
更には製造中の実物大の飛行機セットが所せましと並ぶ制作風景、ぱっと見映画のワンシーンの様である。
最後は操演テストでスタジオ内一杯に吊るされた飛行機隊のシーン。
「ヨーホー映画が良識と平和への願いを込めて贈る近未来戦記超大作!『グランテラ大海空戦 大西洋の嵐』にご期待下さい!!」
僅か2分の映像ながら、「宇宙迎撃戦」とは違った、より現実味のある未知の未来を垣間見た招待客は喝采を送った。
そして特美倉庫に居並ぶ飛行機や艦隊の大型模型。
これに軍関係者が食い付いた。
いや軍関係者ではなく、各国の使節、中にはマキウリア女王陛下なんかもいるのだが、皆が取りつかれたかの様に見入った。
それを何とか誘導すると、今度は大プール、そして軍港の広大なセット!
更に10m大の機送艦のミニチュア。
「「「おおおーーー!!!」」」
そこに号令がかかり、キャスト一同が多くの下士官役のエキストラとともに来客に敬礼を捧げた。
そして演奏される「海軍行進曲」。
楽団も黒い一種軍服を着用している。
製作発表会は、大プール、大セットの見学会と化した。
各ミニチュアについての説明板が置かれ、更には水面の表面にさざ波を起こす巨大扇風機、波を起こすために上下する波起こし機、ミニチュアやカメラを操演するための、鉄道の上に組まれた大型櫓の説明板も置かれている。
それぞれの説明版を必死にメモする者がいる。
「特撮百科事典でも作るつもりかなあ?嬉しい事だねえ」
その技術は殆ど知的財産登録をしてあるので、技術の盗用はないものと考えているリック監督である。
しかして数週間後、国内の出版社から特撮百科の出版の許可を求められることになったヨーホー映画社であった。




