92.快猿伝、俳優アックス大暴れ?!
「天地開闢」冒頭場面終了後、アックスはショーウェイへ。
人魔再戦の煽りで製作が止まっていたキリエリア・ボウ帝国合作の超大作「快猿伝」撮影開始のためだ。
女神に捧げる裸踊りの撮影が終わると、コーラン始めボウ帝国俳優陣もショーウェイに向かった。
少々可哀そうに思うのは、何せ人魔再戦が終わり、急遽ヨーホーが一億デナリの大予算、しかも北方各国にまさかのマギカ・テラ王国、更にボウ帝国を巻き込んで「天地開闢」の制作を発表したからだ。
話題性の面では二歩も三歩も後れを取った。
かといって両者に全く相似性も無ければヨーホーの方が組む相手国も遥かに多く、向こうからしてみれば言い掛かりの付けようもない。
「何とかヒットして欲しいなあ」
「本当、あなたは優しいのね」
「な、仲間だからね~アックスは。能天気なヤツだけど」
アイディー夫人、英雄仲間に容赦ない。
「俺に出来るのは特撮の援助だけだよ。
その為にも、次の未来戦争の企画、キッチリ練り上げないとね」
ショーウェイは宣伝のためにボウ帝国ロケ情報を新聞に取り上げた。
そこに載せられた色刷りの広告、ボウ帝国内の寺院や遺跡でのロケ風景は中々迫力がありそうだ。
かつて「白蛇姫 愛の伝説」でセットやミニチュアに再現した東国独特な建築様式が、「白蛇姫」とは比べ物にならない広大な空間を成している。
この情景を見に行くだけでも楽しめそうだ。
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とは言え、「天地開闢」のあの圧倒的な特撮スペクタクルによるラストに比べると、バケモノ軍団の親玉…を演じる俳優を倒して終り、旅は未だ続くよ、では盛り上がりに欠ける。
ショーウェイ上層部は頭を抱えた。
そして、助けを求めた先は、余程の事が無い限りノーとは言わないお人好し、トレート氏であった。
本来なら本作にノータッチの筈のトレート氏が社長以下役員に呼び出され、
「一つリック監督に協力を求めに行ってもらえないかな?」
と無茶を言われた。
しかしトレート氏は笑顔で応えた。
「はい。行ってきます。
手土産と言っては何ですが、最低限5百万デナリの予算枠を下さい。
それさえあればセシリア社長に正面から協力を求めに行きます」
最近、ショーウェイ社、余程の事が多すぎる。
役員たちは驚き、宥める様に言いつくろった。
「何もライバル社の社長を通さなくてもだなあ!」
「そこは仲の良さで…」
しかしトレート氏は笑顔のままで続けた。
「これはショーウェイだけの問題じゃありません。
ボウ帝国の名誉もかかっています。
タダでヨーホーの支援を物乞いに行ったら、ボウ帝国の面子も潰す事になりますが、それでいいのですね?」
真っ当な物言いに社長も役員も反論できなかった。
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そんなやり取りを経て、結局会社側は予算増額に取り組む事を約束した。
その約束を元に、トレート氏はヨーホー本社へ真正面から挑んだ。
「いいですよ」
リック青年、即答。
「で、トレートさん、案はありますか?」
「ええ。
魔人共が高僧一行を騙すため作った幻の天界が消え去る、と考えましたがどうでしょう?」
「それ、ミニチュアで大崩壊にしません?」
「え?!」
「いっそニセ天竺も本当はもっと禍々しい所で、火山が居並んで毒々しい煙を吐く世界。
いっそちょっと派手で大げさな位に」
そう言いつつピクトリアルスケッチ用に枠を印刷した用紙に、チャチャっと色鉛筆、これも学校用にリック青年が作った筆記具だ。
それで禍々しい魔境を描いて見せた。
「これが黄金の大伽藍が並ぶ姿に作り替えられ、敵の最期とともに崩れ果て、元の姿に、戻っちゃう。どう?」
「こっちは5百万デナリしかないんですよ?
それもまだ資金繰りしてる最中で…」
「おつりが出ます」
「お願いします!
ありがとうございますー!!」
こうなる事を予期していたリック青年は、いかに安く、派手な画面を仕上げられるか色々考えていたのだった。
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「最終決闘、これセットじゃなくて遺跡でやりませんか?」
何故か監督を交えての役員会議にリック青年が出席していた。
「お、おう」
「勿論遺跡は後世に記録を伝える貴重なものですから、保護は万全に。
火を使うシーンはセットで撮ったアップショットか二重露出で。
禍々しさと今までのセットでの場面との違和感をなくすために、正面は紫とか桃色とか毒々しい色を使ってはどうですか?」
何と神殿で色照明を使ったテストフィルムまで用意していた。
「主人公だけ、強めの普通の照明で」
「しかし遺跡にそんな照明を持ち込めますか?」
「ヨーホーの鉄道公社から発電機と魔道車を用意します」
「そんな予算は」
「足りますよ」
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「なんだか、悪ィなあリックさんよ」
「いや、ちゃんと筋を通したトレートさんに答えただけだよ」
鉄道で西へ向かう、小規模撮影隊。
「何でアンタ、ライバル社にこうまで手を貸すんだ?」
ショーウェイの若手監督、ザンキョ氏が不思議そうに言った。
「そりゃ、兄貴とトレートさんのためですよ」
「にしちゃあ、こんなロケにまで付き合うたあ、オカしいんじゃねえか?」
「俺が言い出した変更案だしね。
それより、元々の計画を変えてしまったのを受け入れてくれて、感謝します」
「こっちの方が金がかかんねえよ。
それに、セットより大殺陣廻り出来るしな!」
ザンキョ監督が笑って盃を差し出した。
「お前さん、ヘンな奴だな!」
「褒め言葉として受け取りましょう!」
そして乾杯した。
急遽、東西鉄道の途中にある、嘗て栄えた遺跡でロケを申請し、OK貰って最低人数でロケ敢行。
遺跡は何せ広大な空間で、何の神像か解らぬ、恐ろしい形相の巨像が聳える場。
「これ、古代に無常宗に帰依した王国の、拝火教の神殿なんですよ」
「「「ほえ~」」」
「絶対傷付けないで下さいよ!」
そう言いつつ照明を配して色フィルタをセットし、電源を入れると。
「はあー!アンタの言う通りだったなあ!」
そこは妖怪の巣窟に相応しい姿に変貌した!
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かつて「フォルティ・ステラ」でリック監督が助言した、素早いカット割のアクション、トランポリン等を駆使したアクロバティックな擬闘。
それは撮影済の乱闘シーンでも応用されていた。
今度はそれに天然色映画ならではの照明効果が加わる。
ザンキョ監督は敵役の有名な悪役俳優に殺陣を付けつつ、照明を巧みに操って、まるで特撮活劇の様にワンカット、ワンカットをこなして行った。
悪役俳優も大したもので、流石生身で旅して各地を沸かせてきたベテランだけある。
それに対峙するアックスは。
元々持った体躯と筋力を生かし、空中まで飛びあがって体を捻りまわす技、トランポリンで空中を2~3回転して敵の攻撃を躱す技等を見事に見せる!
しかも、そのイケメンスマイルを崩す事…時々不意打ちや冗談めかした攻撃には、ひょうきんに大げさに驚いたりしながら躱す。
「カーット!まあまあだな!」
しかしザンキョ監督は厳しい。
「へへへっ!厳しいや!」
笑って返すアックスは、正に伝説の快猿になりきっていた。
更にお供の妖怪二人、こっちはアクション俳優ではなく喜劇陣であるが、器用に敵妖怪役のアクションを裁く。
そしてついに討ち取られる親玉!
高僧役の、ボウ帝国きっての美男子が教えに帰依する様勧めるが、妖怪は人を喰って
ナンボだと悪態を尽き、悶絶する親玉。
カメラの土台を揺らし、カメラの手前に土砂を落とす助監督、そして遺跡を逃れる高僧一行。
こうしてロケは終わ…らなかった。
ヨーホー鉄道から借りた魔道車の1台は現像設備を備え、ラッシュ現像が行われた。
仮編集が行われ関係者一同で見た結果は。
「こりゃ、セットじゃ出来ない訳だ!」
そう。遺跡は天井が遥かに高い。それにセットの天井は鉄骨だ。
照らし出された快猿が半ば笑いながら、或いはおどけながら高々と宙を舞う姿が、仰角でバッチリ取れていたのだ。
「狙い通り、か?ヨーホーさん」
「俺はリックです。今はトレートさんの子分ですよ」
「ははっ!アイツも出世したなあ!
世界に轟く特撮陣の親分を子分にしたたぁ!」
後でこの話を聞いたトレート氏は、泣いてリック邸に詫びに飛んで行ったそうだ。
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そして帰国して、偽りの大伽藍の出現と、それが崩れるミニチュア撮影。
プールに作った粘土製の大型の部分ミニチュアが崩される。
全体像のミニチュアが崩れる場面はブルーバックで、その背後に禍々しい火山が毒々しい煙(水槽に流した絵の具)を吐くシーンが合成された。
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最後の場面。
カオリン嬢演じる、高僧一行の行く先々に現れていた謎の童女が、仏の使者である正体を現し、西方に巨大に輝く仏、演じるはコーラン嬢の元へ一行を導き、一行が光り輝く西方へ立ち上がるラストを特撮場面が〆た。
色々粗雑さが目立ったショーウェイの現場に悩んでいたコーラン嬢もカオリン嬢も、リック監督の立ち合う合成場面にはニコニコだったそうだ。
そして、再びリック邸に入り浸る様になった。
ミニチュアと合成にかかった費用、498万デナリ。
勿論リック青年のギャラは入っていない。
「リック監督は筋を通してくれました」
とすごんだトレート氏。
タイトルクレジットに「協力 ヨーホー映画公社特殊技術部」と入れる事に成功した。
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それからというもの、ショーウェイは高僧一行を模した宣伝を展開した。
中にはアックス本人を含んだものも交えての大宣伝だった。
その結果初日は大変賑わった。
特に子供層の人気は大変だった。
「フォルティ・ステラが猿になっちゃったー!」
「でも強いんだぞー!」「雲に乗って空飛ぶんだー!」
何より単純明快な活劇である。
しかも凛々しく英雄然としていたアックスが二枚目半に振舞って笑いを取る。
更にはグランテラには無い、赤と黄色を基調にしたカラフルな衣装と舞台に子供達は異国の世界へと引きずり込まれたのだ。
劇場内、アクロバティックなアクションを演じつつ、台詞と表情で笑わせに来るアックスと、それを受ける喜劇名優のリアクションで場内は爆笑の渦となった。
「きゃっきゃっきゃ!!」
赤ちゃんのブライちゃんでも面白がっている。
ラストの神殿大崩壊、金色の輝きに向かって一行が再び旅へ出る。
拍手喝采が鳴り響いた。
協力出来て良かった。そう安堵するリック監督だった。
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かくして製作費5千5百万デナリの、ショーウェイ最高規格の超大作「快猿伝」は大ヒットし、何と興行成績2億デナリ、加えてボウ帝国では1億デナリの快進撃となった。
この快挙に、手のひらを返した様にショーウェイ社長がセシリア社長を訪れ、リック監督に謝礼を託したという。




