91.神楽景気
完成試写、第一部が終わって休憩。
暫しの小休止で色々挨拶を交わす国賓待遇の方々、取り分け、国家元首の方々。
そして第二部、映画は終わった。
「「「おおー!!!」」」
拍手だけでなく、喝采が起きた。
北国と、マギカ・テラの来賓から。
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壇上で挨拶する主要スタッフ、キャスト。
浴びせられる喝采、拍手。
しかし、一同は微妙な違和感を感じていた。
ヨーホー映画公社を始め、何かもどかしさを感じていた。
ぶっちゃけ、これ悲劇じゃね?
英雄無駄死にアンド故郷滅亡じゃね?
そういう悲劇もまた好まれる物ではあるが。
北国の人達、マギカ・テラの人達、感動しすぎじゃね?
そんな違和感は、この後のホールでの懇親会で判った様な、解らない様な。
「カンゲース陛下、素晴らしい映画を有難う!
この映画一本が、我が国の芸術の明日を拓くであろう!」
「唯一残念なのは、この手ではなく戦友の手で!
我が祖先に込められた心の扉を開かれた事である!」
「ヒゲカン監督には今後とも我が国に伝わる物語を撮って欲しい。
無論、トリック監督と一緒にだ!」
連合国の国王陛下達がカンゲース陛下と巨匠に迫る。
「どうも我々が思っている以上に、北の人達は悲劇に弱いんですなあ」
「狙って受けた訳じゃないですが、事前調査が必要でしたわね」
巨匠と社長は期せずして寄せられた好評に安堵しつつ、反省点に思いを巡らせていた。
その一方で立役者のリック監督はといえば…
「わたくし、ついに女神を演じる事に!」
「うふふ!私も神話の女になってしまいましたわ!」
大地の女神と、その出奔を留める娘を演じたボウ帝国の美女、コーラン嬢、カオリン嬢。
「古代の無念を今に蘇らせる。
心優しくも、同時に強さをも語り掛ける物語を築き上げた英雄リック殿!
是非我が国にも映画の指南を!」
マギカ・テラ女王マキウリア陛下がリック監督に密着…
それらをス~っと引き離すアイラ、アイディー両夫人。
「ぱぱー、うあき、ダメー!!」
幼いブライちゃんに怒られた。
「してないよー!!」
「ぷっ!」
女王陛下が噴き出した。
「うふふふ!あはははは!!」
リック監督を中心に、美女軍団から笑いの花が咲いた。
「あー。
あちらの方にも、神話になりそうなおおらかな笑いの花が咲きましたなあ。
くれぐれも、泥沼にならぬ様に祈ります」
巨匠が釘を刺した。
「なんだよリッちゃん、モテモテじゃねえか!」
名優マイトが絡む。
「勘弁してよ!」
そこに巨体が迫る。
「お前は、その価値がある!」
ミノタウロス役のクルト将軍だ!
「我等は、こんな景色を見たことが無い。
俺は、新しい世界を知った。
英雄マイト…」
「この映画会社の中では、マイちゃんだぜ!」
「ぬ~。マイ、ちゃん。そして」
「リッちゃんでお願いします」
「恐るべき力を持ちながら。はあ。リッちゃん」
将軍は巨大な手を差し出した。
「我が魔王陛下と、共に在ってくれ」
「「おう!!」」
マイちゃんとリッちゃんが答えた。
その時拍手が鳴った。
人間から見たら恐怖の代名詞の様だった巨大なミノタウロスと、強豪を演じたとはいえ普通の人間のマイト、成人はしたのだが見た感じ少年のままのリックの握手は、種族や強弱の垣根を越えた友情を示し、それ自体この映画の成果となったのだ。
彼らは笑いながら盃を交わし、「ウワーッハッハ!ワンモア!」と次を頼んだのであった。
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なお、神殿からミゼレ祭司の出席は無く、変わりの祭司が出席したが
「神殿として何か意見すべき事も無い。面白かったけど」
と、ミゼレ司祭が聞いたら胃壁が秒で健康になりそうな報告が挙げられた。
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こうしている間も、各国ではパノラマスコープ、多元磁気立体音響への改修が進んだ。
特にマギカ・テラでは新劇場の建設が進んだ。
これは領都や炭鉱への鉄道延伸とセットで、駅、大商店と並んで建設されていったのだ。
今まで移動劇場か、粗末な演劇小屋での上映しかなかったマギカ・テラで何とか配給網が整備された。
そしていよいよ歴史に残る封切り日を迎えた。
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初日の朝。
やはり王城をはみ出す大行列。
魔国と恐れられたマギカ・テラとの合作とあって話題性は抜群である。
なお、王都郊外の街道筋。ゴドランを撮影所で上映していた時とはずいぶんと変わった。
撮影所以外何もなかった道の左右に建物が並んでいる。
平和になり往来が増えた旅人、馬車を迎える宿や商店が立ち並び、道はヨーホー映画と撮影所を路面鉄道が結ぶため石畳に舗装された。
リック達の家の周りも広大な空き地だったのが徐々に家が建ち始めた。
多くが映画関係者、監督や美術、音楽の班長格の豪邸である。
毎年億のヒットを飛ばし、ついに「皇帝」とまで呼ばれる様になったセプタニマ監督も、世界の名優となったマイト氏も、このクランの荒れ地に豪邸を建てた。
白亜の殿堂も撮影本数が増え、スタジオを増設し、更には映画用の街=オープンセットを建てるまでになった。
そこはヨーホー王都とあだ名され、撮影となると王都の目抜き通りの賑わいが引っ越して来たかのような騒ぎになる。
そのあおりで封切り日の週末でも撮影が行われる様になり、かつての様に特撮スタジオだけ開放して仮設映画館に、とはいかなくなってしまった。
その代わり王都のヨーホー中央劇場の拡大新築計画が巻き起こった。
本社のある屋敷と、隣接する劇場を解体して一体化し、低層部を大劇場に、高層部に本社機能やイベントホールを設置する計画である。
何しろセプタニマ、トリック両監督に加え多くの新映画がヒットを続けているヨーホー、資金は潤沢である。
とは言え計画に数年を要する。
城門へ向かう街道筋に劇場が建った。
初日は特別に中央劇場とクラン劇場に特撮の大道具小道具が搬入され、これは撮影所上映から受け継がれる、観客への特別サービスとなった。
その城門外の劇場すら長蛇の列。
行列の原因の一つに、嘗ての映画なら二本分に相当する長い上映時間というのもあるが、やはり話題性が違った。
名優マイト以下大俳優陣、東国の美姫コーラン、マギカ・テラの巨人、各国からも音に聞こえた名優が集まる。
今まで以上に進化した特殊撮影、特に誰でも知っているヒドラ退治には期待が集まった。
そこに知っている様な、違う様な神話の逸話が美しい色彩で蘇る。
今まで知られる事がなかったマギカ・テラと共通する神話があると聞いて驚く者は多かった。
壮大な立体音響と未知の音楽。
多くの観客が感動して席を起ち、ホールのミニチュアたちをしげしげと眺め、満足げに劇場を、この時間旅行を後にしたのだった。
中央劇場で舞台挨拶に立った社長も、巨匠も、世界各国に散らばる神話を再構築して物語に当てはめるという未知の仕事が、やっと完了した、しかも大好評の内に、と安堵したのだった。
クラン劇場で挨拶をするリック監督はそういう緊張も何もなく、ひたすら満員の観客を相手に、神々を演じた喜劇陣とともにウケを取っていたのだった。
そして好評は好評を呼び、満員が続き、二週目を待たずにロングラン公開が決定した。
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各国でも同様であった。
とりわけ王都マギカ・テラ・カステルムでは一種の興奮状態となっていた。
何しろ今まで映画と言えば倉庫の様な建物に普通の椅子を並べただけの場所で、大柄な者も小柄な者も犇めき合って見ていたのだ。
そこに豪華な宮殿の様な劇場が出来た。観客はその外観にも驚いたが、上等な椅子に身をゆだねて、快適に映画を鑑賞する体験に酔い痴れた。
なお、大柄な人種は専用の席が用意されており彼等も快適だった。
そして肝心の内容。
あまり歴史という物が顧みられることの無い脳筋の地に、言い知れない郷愁の念が広がった。
「外の世界にも、失われた故郷に繋がる道があるのかも知れない」
「遥かな歴史の向こうを垣間見た気がする」
「ヒト族とは戦うばかりが能じゃないのだろうか」
古の英雄の悲劇もまた彼らの心を掴んだ。
一方脳筋の亜人種も
「将軍が友と認めた者が演じているではないか!」
「あら外の男もたくましいのねえ」
「俺もヒト族、いや他国に修行に出るぞ!」
と大賑わい。
あわてて女王陛下が
「他国で武者修行はするな、相手は死ぬ!」
とラジオで訴える事態となった。
武者修行は別として、映画の幕間に流れる観光案内、旅館の宣伝もまたマギカ・テラの人々を魅了し、高位の貴族達の間で他国への旅行が一大ブームとなった。
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人魔再戦の不安は、和平、帝国の解体、そして再度の復興景気によって吹き飛んだ。
ラジオが、テレビジョンが、そして人々の往来が不安を吹き飛ばした。
既にカンゲース王やリック監督が懸念した、情勢不安は薄れつつあった。
後にこの好景気、不安が消え幸福感に満ちた数年を、この映画の印象的な場面に因み
「神楽景気」
と呼ぶようになった。
本作の好評に加え、特にヨーホーバーサタイルの成功にリック監督はご機嫌であった。
次回作の構想中に、入浴時に神話の望郷歌を歌っている。
「都~は~~、国の~真良場あ~~、山並~み~~に~~、籠~り~、
甍~を~~~成~す~~が、様~~、都や~麗~~し~」
「みやこ~~や~~、うるわ~い~~」
「まあ、ずいぶん難しい歌をうたうのねえ」
戦争を収め、人心も経済も安定させた超人的な偉業よりも、映画を、一つのオプチカルプリンターを成功させた事の方がうれしそうなリック監督に、皆が呆れ、微笑んだ。




