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83.北の神話、似てたり違ったり

 連合国北方諸国と、意外な事に新たに国交を得たマギカ・テラ王国に共通項が多い神話。その一部はグランテラ南部にも類似点があるという。


 再度の戦争が回避され、魔王領と恐れられていたマギカ・テラ王国との国交樹立を祝う映画について、リック監督が古代神話の映画化についてゼネシス教の神殿に相談を持ち掛けた。


******


「既に滅びた宗教の映画を撮る事に、何の意味があるのでしょうか?」

「古代神話など、神を名乗る浮気者が女神や人の娘をかどわかす下品な話ではないか」

「少なくとも神殿が認可する事は出来ない!」


 反応は、割と消極的に反対するものであった。

 ミゼレ祭司が最も懸念した、民間伝承が宗教として勢いづく、という部分に触れる意見は出なかった。


 落ち着きを取り戻したミゼレ祭司は悠然と答えた。


「仰る通りです。

 今となっては古代の神話など、宗教や神学の対象ではありません」

「では何故認可を求めるのであろうか?」

「ヨーホー映画なりの配慮であろう。

 問題ないかどうかの、根回しと考えるのが宜しいかと」


「律儀と言えば律儀だが…」

 てっきり古代神話の映画にお墨付きが欲しいと言って来るのかと勘違いしていた祭司たちは、だいぶ気楽になった。


「まぁ~、確かに北国にせよ魔族…いえマギカ・テラ王国の土地に住む者の心には、古代神話は生きているでしょう、昔話、おとぎ話として。


 それならそれで、いっそ映画の中でもおとぎ話とすればよい」


「何を言っておられるのかミゼレ殿?」

「もう少し具体的にだな」


 しめた!と彼は思った。


「リック監督の構想に、これは北方諸国に伝わる、大噴火で滅亡した王国の英雄の物語にするという案があります」


「古代神話の映画ではないのか?」

 ごもっともな問いに、彼はなるべく感情を表さない様に答えた。


「神話その物を本筋にした映画ではないと。


 北方諸国やマギカ・テラに共通点が多い、古代英雄伝と、英雄を裏切った王国が大噴火で破滅した歴史物語にしようと。

 そして、その古代の英雄が神話の物語、その中でも有名な逸話を愛し、神話のおおらかさに憧れ、武神に憧れ真直ぐに生きようとする物語にしよう。

 そういう案です」


「それであれば問題はないだろう」

「ただ、一つ懸念が…」

「何ですか?」


「あくまでゼネシス教の教えを否定する事がない様。

 古代神話にはおおらかすぎて、今の戒律からかけ離れた面がありますので、これも今の視点で修正する事。

 そのため、脚本や試写を確認します」


「「「あ」」」


 その時、誰もが思った。

 コイツ、公務で撮影所に入り浸るつもりだな、と。


「古今東西、いずれの王家も歴史は古いが、苦悩と悲劇を抱えたものです。

 古代史の英雄が語る神話、それは古代への憧れ、おおらかだった時代への回帰。


 描かれる神話の部分も、記録通りの卑猥や淫靡なものではなく、戒律を守る様導き、古代のおおらかな部分は今風に変えればよい。


 その英雄は王国の権利闘争で憤死している。

 しかし、その志は後世に伝わる。


 そんな『いい感じ』の話にしてしまえば、神殿があれこれ言う筋合いも無いのでは?」


 集まった祭司たちは

「ならば小職も検分に参加しようではないか」

「北国の神殿への注意喚起も必要であろう」

「魔族たちが妙な動きをせぬか見張る必要もあろう」


 乗って来た!とミゼレ祭司は内心小躍りした。

 だが最後のはダメだ。相手と対等であろうとするリック監督の志と相反する。


「神話からの血筋を訴える北方王家やマギカ・テラ王との調整は必要ですが、それは我らの仕事ではありません。

 但し、立ち合う程度なら兎に角、あまり高圧的に臨んだ挙句折角の友好ムードを壊してしまえば!

 再び、戦争も…」


 今まで黙して発言していなかった、パクス枢機卿が口を開いた。


「古代宗教の祈祷や祭礼の場面は、歴史資料の通りであれば不問に帰す。

 内容についてはあくまで一般的に公序良俗を乱さぬ事、戒律に反する描写は禁じる事。

 参考として脚本は提供して貰えればそれでよい。


 マギカ・テラへの視察は、この映画とは無関係に行う。

 あくまで視察であり、宗教対立を起こす事があってはならない。


 その内容であれば、総本山は映画には否定も肯定もしない旨回答しましょう」


「あの~…視察は?」

「気になるのであれば個人の裁量でお邪魔するがよかろう」

「畏まりました…」


 公務で入り浸りという野望は挫けたが、何とか安堵したミゼレ祭司であった。


******


「神殿がどうぞご勝手に、だってー!」

 色々しつこく言ってこないか心配だったリック監督は小躍りした。


「あの綺麗な女王陛下と一緒の仕事、そんなに嬉しいですかそうですか」

「ぶ~」

 アイラ、アイディー両夫人は不満げだった。


「あのね。俺の愛してるのは君達二人だけだよ?」

 即座にきっぱり断言するリック監督。

「「そーゆー所!」よ~!」

「ぶ~!」

 二人の妻に続いてブライちゃんが怒った。


「ふ、あはははは!」「あ~ブライちゃんかわい~」


 北国各国の伝承、マギカ・テラの伝承を各国の学士やキリエリア王立学院の研究員が持ち帰り、物語の調整、美術デザインが加速した。


「ぱっぱ、ねんねやー!」

 夜更かしが過ぎると、夜中に起きたブライちゃんと妻に怒られる日々であった。


「あ~。じゃ、北へ行く?」

「「え?」」「ひぇ?」


 リック一家は北へ向かう鉄道に乗った。

「久々の旅行ですねー!」

「あやや!ひやや!」

「ディー、落ち着いて、はい、カンパーイ!」

「「か、カンパーイ!」」「あんぱーい!」


 列車は一路、夏でも山頂に雪を頂く連峰を目指す。


******


 峻険な山をトンネルで最短距離で突破すれば、そこは北国。

 かつて多くの人を拒み、多くの時間を費やさせ、時には命も奪って来た鉄壁は、リック青年が穿ったトンネルによって物の数時間で通過できる様になってしまった。


「活断層や地下水脈避けるのタイヘンだったよー」

「「ほげー」」「ほえー」

 いつもの感じで各国を巡る。


 予約や事前通知すると面倒な事になりそうなので、一般客を装って(本当に一般客なのだが)各地を巡る。

 ヨーホーの劇場には連絡して、鉄道公社から魔道車は借りていた。

 最初の国は、アモルメ王国。かつて「ゴドランの逆襲」で撮影に協力してくれた来たの大国だ。


 農村地帯は豊かであった。

 森林地帯は人を拒むかの如く聳え、それでもくじけず挑んだ人々には森の恵みを齎した。


 雄大な山々、森、そして農地。

「見た事無い景色。でも、凄いわ…」

 アイディーは黙って手を合わせ、祈った。

「ぱっぱー、いたいいたい?」


 リック監督は、涙を流していた。


******


 海辺もまた、活気に満ちていた。

 早朝の港には魚の匂いが満ちていた。


「美味しそうですね!」「あっちで魚焼いてるよ~!」

 たまらず一家は焼き魚を買い求めた。

「小骨を取らなきゃねー」「はふーはふー!」

 リック監督の差し出す箸をブライちゃんが必死に食べた。


「うや~お客さん、箸上手さ使うびょん」

「「「びょん???」」」

 魚市場の人と話し込む。


「この辺はな。

 昔偉ぇ王子様ぁ魔物征伐の途中で難破すてここに来て、乗っちゃー英雄の恋人ぉ、悪霊に攫わぃで、帰ってこねがったんだ」


「英雄の航海伝説と同じですね」

「ほえ~、似た話って、あるんだねぇ~」


「そんでな、王子様ぁ泣いだんだよ、アモルメウス、アモルメウスってなあ」

「アモルメってそういう意味なんだ」

「悲しい話ですね…」


 リック監督は言わなかった。

 その恋人、伝承によっては美少年、英雄は同性愛にハマってた頃の話なんだー!とは。


「「きゃー!!」」

 その英雄と失われた少年の彫像があったので、秒でバレた。

 二人の妻は何か盛り上がっていたが、リック監督は無視した。


******


 それからも他国を巡り、神話を祭る遺跡を訪れたり、古い絵を求めて神殿を訪れた。

 時には墓参客や礼拝に巡り合い、キリエリアとの相違に驚かされた。


 そしてマギカ・テラ。


 やはりそこには見事な程に豊かな実りがあった。

 但し、実りの果てには、荒野。


「あの荒野から先は、ずっと人の住めない土地だそうだよ」

「この農地ってさ、なんとか開墾したのかなあ?」

「ここから先に水場が無いから、そうかも知れないね」


 道行くミノタウロスや人と変わらぬ住民達と挨拶を交わしつつ、遺跡を見学した。

 なお、ハーピーやラミアはほぼ裸身だった。

 リック監督が愛想を振りまくと二人の夫人は監督の頬や尻をつねった。


 遺跡は大抵木造で、巨大なものでは無かった。

 しかし、大規模な石の列が地面に碁盤目に並んでいた。


「これは礎石だね。かつてはこの石の上に柱が立っていたんだろう。

 結構巨大な建物だったみたいだね」


「見ただけで判るんですね?」

「異世界の記憶のお陰だよ」

 最後に女王を訪問し、王城の図書館を閲覧する。


「あー。この辺、報告になかったねー」

 どうも連合国の学者達は新たな魔術を求める余り、歴史文書の記録がおろそかになった様だね」

 そう言うと、リック監督は写真を撮る。試作品の高感度フィルム。

 屋内で強い照明が無くても鮮明に写真が撮れる、アイディー夫人の会社の優れものである。


「映画の役に立ちそうかの?」

「「「うわ!!!」」」「うやー!」

 後ろにマキウリア女王がいた。


「ここは妾の城ゆえ、何も驚く事はあるまい」

「いえ気配も何もなく現れられては」

「それ位察せよ」

 と、ご機嫌であった。


 ひとしきり書庫を調べた後、女王の食事に招かれた。

「どうであった?映画の取材は」

「不思議なもので、貴国と各地には類似点も多いのですが、全く分断している部分を多いのです。

 マギカ・テラの人達って、どこか遠い土地から移住してきたとか、そういう記録在りませんか?」


「ある。光の塔、じゃ」

 女王は意味深に語り始めた。

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