80.人魔再戦の終結
連合軍はついに帝都に到着した。
全く反応を示さない都市の外郭を前に軍は布陣した。
包囲軍の中には、檻に閉じ込められた、見世物の様な愚かな勇者ツヨイダ、皇女、その他諸々が輸送された。
「やっほ~、できたよ~」
緊張感の無い声でアイディー夫人が到着した。
「ぱっぱ~!ぱっぱ~」
「ブライちゃーん!!」
親馬鹿である。
「お疲れ様です!連合各国王都、マギカ・テラへの受像機と中継点の設置は完了しました」
「「「感謝する」」」
諸国の王が、一介の魔導士であるアイラ夫人に礼を捧げ、アイラ夫人は気を失いかけた。
連合各国は未だラジオ放送局を設立した程度であり、映像放送、ラジオビジョン放送局も中継点も持っていない。
いずれ情勢が安定したらキリエリアへ発注する予定だったが前倒しでこの日に合わせたのだ。
帝都包囲が終わり、放送の準備も終わった。
本陣を帝都正面に当たる南に構え、そして正午。
新たに編成された軍楽隊がファンファーレを轟かせ、ドラムを打ち鳴らした。
これも英雄リックの入れ知恵である。
そして連合軍を代表しカンゲース王がラジオ、そして実用が始まったばかりの映像放送、ラジオビジョンに向かって宣言した。
「この度、グランテラ諸国に再び暗雲を齎した魔国の再侵攻は!
テラニエ帝国の皇女アラウネ・ドームズデイ・テラニエが召喚した!
偽りの勇者ツヨイダ・カッタが!
魔王軍の一部の過激派をそそのかした結果と判明した!
我等グランテラ連合軍は魔王の国、いや!
マギカ・テラ王国の麗しき女王、マキウリア陛下と和睦した!
そして逆賊、愚かな勇者を捕え、過激派を鎮圧した。
もはや争いは終わった事を宣言する!」
これに諸国の王も続き、
「これは偽りなき事実である」
「我々は重要な証人と共に居る」
と、戦争終結に同意した。
この宣言は帝都に向けて風魔法で大音量で伝えられた。
宮殿の中でも聞こえる様に。
そして各国の王宮、王都駅にはラジオビジョンで伝えられ、ラジオ放送は大陸各所で聴取された。
「そして大陸の安定を踏みにじり、今尚何らの声明も出さぬ愚かなるテラニエ帝国に対し、連合国及び魔王の国、マギカ・テラは降伏を要求する!
皇帝及びその前後三代は本陣前に出頭し、皇位の廃止、帝国の連合国への主権譲渡、諸国への賠償を受け入れよ!
さもなくば全軍を以て帝都を灰燼に帰す!」
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暫くの後、本陣の反対北門から逃げ出す群衆に紛れ、平民を装った皇帝一族が捕縛され、カメラが待ち構える本陣へと槍で小突かれて引きずられて来た。
「私はただの町民です!どうかお慈悲を!」
「だそうだが?」
カンゲース王の問いに、
「…父です」
檻の中の皇女アラウネが顔を背けて言い放った。
「な、何を!私は皇女様などお会いした事は」
「いつ誰がこの女を皇女だと言った?」
「あ…」
間抜けな一幕は、諸国の民の知る所となった。
それを見た諸国の王は
「ああは決してなるまい」
と心に誓った。
その他の皇帝の親族も同様に捉えられ、降伏文書に署名させられた。
遅れて到着したゲネシス教の神官が皇帝一族の権威を
「最早損なわれ、この世に存在せぬ。
諸侯に謀反をけしかけたモノホーリー派に対し、異端審問を問う。
帝国の神殿は全て封鎖し、祭司共は禁固する!」
と断言した。
かつてリック監督が映画化した「キリエリア沖海戦」で敗北し滅んだゴルゴード王国に続き、100年の後この地に興ったテラニエ帝国も、何とも情けない姿を世界に晒して滅亡した。
降伏した貴族領は連合諸国により分割され、交通の便の良い国に併合された。
帝国中央から南の沿岸部はキリエリアに、東部国境地帯はマギカ・テラに併合となった。
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各国との協議の結果、凱旋行事はキリエリアで、と決まった。
諸国とも敢えて遠隔地である自国で行うのも不自然だし、何より事をほぼ収めた英雄リックが属するキリエリアを置いて出しゃばる程、空気を読めない王はいなかった。
連合国、そしてマギカ・テラ王国は鉄道で王都レイソン駅へ凱旋。
一足先に帰った英雄チームは凱旋パレードを指揮した。
「それ、おかしくないか?
君が凱旋を祝われるべきであろう?何で君が苦労して指揮せねばならぬのだ?」
「世間の人々を安心させるためですよ」
「う~む。それでも腑に落ちぬが?」
「各国にラジオビジョンで放送されるんです。
見ただけで、ああ、戦争は終わった、これからの心配はなくなるんだ。
そう思える凱旋式典を、視聴者に届けるのが俺の務めです!」
そう笑顔で言い放つ英雄リック。
カンゲース王は感極まってリックの手を取った。
「すまない!我が手にその力があれば!
君こそこの戦いの真の英雄として祝すことが出来たものを!!」
「ははは。そこは役割として割り切って行きましょ」
「あ~。リックはリックだな~」
「それゆえ、我が主なのだ」
英雄アックスと剣聖デシアスが頷いた。
「でもちょっとはブライちゃんのためにもイイトコ見せなきゃダメよ?」
神殿周り、特にモノホーリー派対策の工作を終えたセワーシャが釘をさす。
「そうかな~?」
「いいえ、リックさんは舞台裏でみんなのために走り回る、そんな人です。
ブライに見せたいのは、そんな父の姿です。ね?ブライちゃん?」
「あひりままゆ~」
一同に笑顔が広がった。
「うむ。賢き子じゃ。
はあ。我が夫に出来なかった事、返す返す惜しいのう」
「女王陛下。私の夫ですので」「あたしもですよ~」
「わかっておるわかっておる!良き母故の賢き子であるとな」
そう聞いて、リック青年が愛する二人の妻は安心した。
「さあ!放送準備だ!」
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ラジオビジョンの放送は列車の到着から始まった。
既に兵は下車し駅前に整列。
王妃を中心に待つキリエリア一同。
ファンファーレに続き、国王が下車。そして続いて盛装の女性。
マキウリア女王である。カンゲース王が手を差し出してエスコートする。
軍楽隊は行進曲を演奏し、連合諸国の王の下車と、駅前の演壇への移動を見守る。
行進曲はリック監督が提案し、エクリス師が作曲した。
そして一同が揃う。しかし
「あの美女誰だ?」「どこかの王妃か?」「まさか国王陛下が遠征先で側妃を?」
中にはけしからん事を言う奴もいたが、楽団が演奏を終えると、カンゲース国王が宣言した。
「グランテラ大陸に住む者に宣言する。
我々は無益な争いに勝利し、騒動の原因であるテラニエ帝国を征服し、国と民を捨てて逃げんとした愚かなる皇帝グロリアス以下皇族を捕縛した。
魔王の領域と呼ばれていたマギカ・テラ王国に戦争を持ちかけた愚かな勇者ツヨイダ・カッタも、奴を異世界から召喚した皇女アラウネも捕縛した!
皆に告ぐ。戦いは終わった!」
再度ファンファーレが鳴り響き、駅前に集まった群衆は歓声を上げた。
カンゲース王は一度これを鎮め、言葉を続けた。
「この無益に思える争いは、我らに新たな時代を迎える切っ掛けとなった。
我らはマギカ・テラ王国の女王マキウリア陛下との友誼を結び、多くの品目に亘る通商条約を結ぶ約を交わしたのだ!」
ここで先程の美女がカンゲース王の隣に出た。
「「「おおおー!!!」」」
「あの別嬪さん、女王陛下だったのか!」「道理で凄い気品を感じたぜ」「でも魔王だぞ?」
群衆の声は、どちからというと戸惑いが多かった。
しかしその空気を打ちのめすかの様に、女王陛下は声を上げた。
「キリエリアの、そしてラジオとラジオビジョンでこの場を見ている者に、妾、マギカ・テラ王国女王マキウリアは宣言する。
我が国の不届きな謀反人共は帝国の賊とともに捕えた。
戦はもう終わった。
これからは商いの日々が始まるのだ!
我等の国マギカ・テラは連合国各国と、鉱物資源等の通商に合意した。
我が国から算出する鉱山資源はグランテラ大陸に豊かな暮らしを齎し、連合諸国から齎せる食材や文化、娯楽は我が国の暮らしに新たな幸福を与えるであろう。
両者の幸福と発展を、妾は強く願う物である!」
諸国の王も前に進み出て、握手を交わした。
群衆は歓声を上げ、目の前の信じられない光景をひとまず喜んだ。
楽団は勇壮な行進曲を演奏し、一行は王城へ向かった。
放送機材を満載した魔道車の前で、アナウンサーが興奮を抑えつつマイクに語った。
「この映像をご覧の皆さん、我々は今、未知と恐れの対象であった魔族、いやマギカ・テラ王国の権威であるマキウリア女王陛下を迎え、新たな交流の時代を迎えたのであります!」
その周辺の報道席ではラジオ局のアナウンサーもこの光景を讃えていた。
更に王城の上空には、飛行機隊が大きな虹を描いて一行の凱旋を祝ったのであった。
「やっぱ放送もカラーにしないとねえ」
「この三倍、じゃない四倍の高度な処理がいるよ~!」
「よっぽど今の機械を小型化しないといけませんね」
「しぇんね~」
「ああ。そうだ、そうだ、よぉ~。はあ」
凱旋式典の放送を終えたリック監督は疲れ果てて二人の妻にもたれかかっていたのだ。
そんな父親の頭をブライちゃんがなでなでしていた。
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既にマギカ・テラにて通商条約の打ち合わせが行われていたため、いやそれ以前から魔国行きの穀物食料等の支援が行われていたため、通商条約は晩餐会等の行事を含め、4日で終了した。
それからはゲネシス教のパクス枢機卿との会談、飛行場や国内最大の港街の見学等を行い、1週間後にマキウリア女王は帰国し、連合国もいったん解散となった。
その行程はラジオとラジオビジョンで放送され、勿論それはマギカ・テラ王城や王都の広場、国境駅でも受信された。
連合国にとって初めて接する魔族が麗しき女王マキウリア陛下であり、マギカ・テラの多くの人にとって初めて接する外国が、このラジオビジョンの向こうのキリエリア王国であった。




