79.魔国もといマギカ・テラ王国との和解
魔王軍との戦争は秒で終わった。
とは言え、戦争というインパクトは小さいものでは無かった。
世情は少なからず傷ついた。
先の戦いが終わって僅か10年。
その程度しか平和は持たなかった。この事実に、人々はこれまでの繁栄は必ずしも永遠に続くものではない、そう思ってしまったのだ。
いつまた自分の家族が出征に駆り出されるのか。
追加徴税が来るのか。
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カンゲース王が悩む。
「戦争が終わった、だけでは皆納得せぬ。
みな、戦争の脅威を思い出してしまったのだ。
再びみなを鼓舞し、新たな未来に目を向かわせるために、出来る事なら新しい繁栄を約束せねば」
魔王の国、マギカ・テラで帰国後の事を悩んでいた。
そこに英雄リックが進言した。
「まずは真相を報道しましょう。
帝国は未だ事実を公表してない。
誰が悪くて、これからどうするのか。
もう戦争は起こさない、その気概を映像放送で公表しましょう」
「映像放送?」
聞きなれない言葉に魔王、いやマキウリア女王が興味を持った。
「人間界では音を遠く離れた場所に、世界中に伝える事はもう出来ています。
今度は映像を、景色や人の姿を、声と一緒に届ける準備をしているんですよ」
英雄リックの言葉に、魔導士アイディーがドヤァッ!て顔をする。
「みんなが恐れるのは、何が起きるか、それが目に見えないからです。
マキウリア陛下と連合国の将とが、文書を交わし握手する。
出来る事であれば、女王陛下のお言葉をきくことができれば!
それが目に見えるだけで、みんなの不安の半分以上が吹き飛ばせるんです」
リックの宣言に、マキウリア女王は目を丸くした。
「其方は、物事を良く考えているのう…
面白い!それならば、妾も腹を決めよう。
人間国、いや、連合国の代表となる国を直接訪問し通商条約を締結する。
我が武将を引きつれ、平和の誓いを奴らにも誓わせよう!
そして戦争の火種となったテラニエ帝国の処罰を正式に要求しよう。
その様子を、貴国らの各地に映像放送とやらをするがよい」
カンゲース王以下連合国の諸将は頷いた。
「この戦い、根は互いが知る事を恐れる故起きたもの。
魔族と人間の違いは何か?
麦、酒。似たものを喰って飲み、男と女で結ばれ、子を為す事に何の違いがある?
英雄リック殿の言う、相手を知らぬ故の恐れに、楔を打ってやろうではないか!」
これにカンゲース王が続いた。
「知り合う、か。
そもそも聖典にも魔族や魔王の事など一言も書いてない。
魔族、人と獣が融合した者から人と変わらぬ者まで多様だ。
向き合って脅威を取り去る、未知への恐れを吹き飛ばす。
これは大いなる賭けでもあるなあ」
「しかしカンゲース陛下!」
他国の将が進言する。
「民は知らしむべからず、寄らしむべし、とも申します!」
「もうそういう時代は終わる。
ラジオ、新聞、映画、それに学校だ。
我らの若き頃と今では、民の知り得る事が何倍にも増えている。
そこの、若き英雄殿のお陰でなあ」
どこからともなく苦笑が漏れる。
「王、国と民の向き合い方も変わるのが道理というものではあるまいか?」
「…ご慧眼、感服仕ります!」
将は意見を撤回した。
「あー」
と、間抜けな声を上げた英雄リック。
「魔族の伝承を知る事で、その謎を解き明かす糸口が見つかるかもしれませんね」
「我等の伝承、とな?」
「リック君は何かわかるのか?」
女王とカンゲース王が興味を持った。
「魔族の方々って、色々ですよね。
魔王様や謀反を企てた姪子さんは人間と変わらない気がします、魔力が強い以外は。
でもサキュバスやハーピー、ミノタウロスは人間と獣の遺伝子が融合…」
「誰かが、人と獣を組み合わせた、という事だよお~」
すかさずアイディーが説明を加える。
「何と!」
「はい。自然に進化して生まれた種族というより、人為的な力を感じます」
「我等魔族は、太古の伝承では神々によって生み出されたとはあるが、種族の違いについての伝承は無かった筈であるが…」
「失伝しているのか、そう遠くない時代に今の様になったのか、調べる必要がありそうですねえ。
女王陛下、色々研究させて頂いて宜しいでしょうか?」
「許す」
こうして魔族があまり顧みる事の無かった自国史に、学究の光が差す事になった。
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「あ、あたしは、もっとラジオビジョン、作るからねー」
「私もお手伝いします」
「頼むよ。ウチの金全部使ってもいいから」
「私は事の次第を各国、そして神殿に伝えます。
その上で、どこで式典を行うか。
神殿がどう係わるか、モノホーリーの連中にどう落とし前を付けさせるか。
それらが決まり次第準備を整えます」
魔導士アイディー、アイラ、聖女セワーシャは事の鎮静化に先鞭をつけるべく帰国を…
「あーちょっと待たれよ」「「「はい???」」」
「先ずは我らはマギカ・テラ軍とともにテラニエ帝国帝都を制圧し、帝国の降伏を世界に宣言させる。
あのアホ勇者を担ぎ上げたモノホーリーの連中にも連座して貰い、処罰は受けさようではないか。
通商条約の正式な締結は各国との調整の後行う。
まずは、帝国の歴史に終止符を打とうではないか」
「異議は無い」
こうして、国際ラジオビジョンの実用放送第一回目は、テラニエ帝国の最後の日をお届けする事となり、英雄チーム女性陣と各国の伝令は帰国した。
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残る国王、諸国の将達はその先、通商条約について打ち合わせた。
「諸国に安心できる触れを出すには、先ずは帝国の所業を暴き、帝国を解散させ共同統治とする。
そして通商条約。
出来れば、何と何を売買するか。
マギカ・テラは脅威ではない、恵みを齎す者である事を民に示す事までやりましょう」
実に具体的な、英雄リックらしい意見だが。
「我が国は国境地帯の魔鉱石以外は荒野だ。
そして各地に荒涼とした山脈が聳え、畑には適さぬ。
瘴気を生じる地もあるのだ」
そう聞くや英雄リックは
「ちょっとお邪魔させてもらっていいですか?」
「待て。我が紋章を託す」
と、マキウリア女王はペンダントを外して託した。
「あの~、これちょっと重過ぎじゃないですか?」
「我が手の者を秒殺した貴殿が何を言う?」
「いえ、物理的な重さじゃなくて~」
「あ”?我が手形を受け取れぬとでも?」
「行ってきまーす!!」
カンゲース王が呆れて言った。
「マキウリア殿。リック君をからかうのは、程々が宜しいぞ」
「程々であればよろしいのであろう?」
「いやダメだ」
「なんと寂しい」
「寂しくても、ダメ!!」
「ただいま~」
「うお!早!」
「素晴らしかったです!山岳地帯は宝の山ですよ!
開発には相当な技術が必要ですが俺なら出来ます!」
呆然とする女王、黙々と聞く連合国軍。
「国境線と違って金銀やミスリルみたいな魔鉱石は無かった、でも!
電池や半導体の原料となる鉱石、それに石油。
王都の近くには相当の落差がある川があって、発電も可能だよ!
女王陛下の国はまさに夢の資源地帯だ!」
飛行機にとって石油から精製されるガソリンは不可欠。
それが安定供給されるのは大変な僥倖である。
「無価値と思っていた臭い水や急な川が、その様な価値があるとはのう…」
「その分、各国の美味しい食材や娯楽に旅行を提供しますし、貴国に必要な技術、開拓のノウハウとかをお伝え出来ます」
「それは有難いが…
リック殿。つくづくお主は敵に回したくないな」
こうして両者は交易の条件を詰めていった。
この間もマギカ・テラ国境の駅と各国間の鉄道は運行され、連絡が取られて行った。
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ついに交渉がまとまり、第一段階が実行に移された。
凱旋軍、そしてマギカ・テラの親衛隊が鉄道で帝国付近まで移動。
更に各国の王も集結。
一大連合軍がテラニエ帝国の帝都を目指して進軍した。
途中、各地の領が使者を出し、連合軍へ中立を宣言したが
「愚かな皇帝を放置した罪は重い!
直ちに降伏し、領主は出頭せよ。但し領地は連合国が領主一族から選定する領主によって安堵を約束しよう」
と降伏勧告。
勝ち目はない事、そして家と領地が安堵される事から多くは降伏し、一部ゴネた領主は一族から捕縛されて出頭させられた。
この様子はラジオで放送され、既に王都を去った貴族達も降伏する者が続出した。
因みに行軍の間、カンゲース国王陛下は終始ゴキゲンであった。
降伏してきた領主の館を無視して野営した。
そして料理は英雄チーム男性陣と一緒に、英雄リックの料理を部下や他国の王、女王マキウリアにも振舞った。
「この付近は漁港との往来もありますので、魚料理を用意しました」
諸王は部下との会食に最初は戸惑ったが、行軍の間にすっかり慣れ、軍や地方統治の話題など打ち解け合って談笑する様になった。
「見事だぞリック君!相変わらず君の飯は美味い!!
それに風呂もありがたい!まさに10年前の旅路の様だ!」
「確かにこの味は」「奥行きがあり」「香ばしく」
野営とは言いつつ英雄リックの用意する寝台にトイレや風呂は下手な領主館より寛げた。
「これが、魚の味か…」
「氷魔法や魔道具で冷凍すればマギカ・テラにもお届けできますよ!」
女王マキウリアは日々料理に感動していた。
マギカ・テラも独自の食文化はあったが、食材や香辛料の豊富さ、何より英雄リックの持つ異世界のレシピの虜になっていた。
そして、この野営で他国の王や将兵と談笑する空気にも溶け込んでいた。
「我が国は変わる。よき方向に!」
「そのためにお手伝いします」
キリっと答えた英雄リックに、マキウリア女王陛下は微笑んだ。
「いっそ我が夫に…」
「それは駄目です、愛しい妻と子がいますので」
「10年前、そちを帰すべきではなかったのう」
「駄目であるよマキウリア殿。
リック君は我が国の、いやこの大陸の宝物である故な!
はっはっは!」
「無念!」
「それに、コイツは引き留めても戦場に戻ってみんなの手当をしただろうなあ。
そして、アイラちゃんと結ばれる。
運命の固い絆ってヤツかな」
「アックスにしては良い事を言うな!」
「なんと慈悲深い…ますます我が手に置きたくなったぞ!」
「「だからムリです!!」」
「その通りだ!はっはっは!」
こうして行軍は行軍とも思えぬ行楽気分で進撃を続けた。




