76.宇宙映画の先にあるのは、映像放送
「宇宙迎撃戦」の公開の半月後に「フォルティ・ステラ 第五部 宇宙船発射の危機」は公開された。
白黒スタンダートとあって、「宇宙迎撃戦」の迫力には二歩も三歩も及ばないものの、やはり子供達の熱意は凄かった。
親子連れの行列がショーウェイの劇場を取り囲む騒ぎとなった。
「こーゆーのは、いーよねー。うんうん」
ライバルの健闘にリック青年は満足げであった。
「ほるしー!しゅえらー!」
「まあ!ブライちゃんもフォルティ・ステラが大好きなのね?」
「あいー!」
「でもぉ、考証はゆるゆるよねえ~」
「ディー、あちらさん下手したら宇宙基地のセットなんて、布に絵を描いてオシマイ、だよ?」
「な~さ~け~な~い~!」
家族4人で封切り、アックスの舞台挨拶ありの公開にお出かけであった。
アイディー夫人はショーウェイ映画の安普請っぷりに納得いかない模様であった。
それは兎に角、映画と舞台挨拶を楽しんで、ショーウェイ大商店の食堂で御馳走を楽しんだ一家であった。
鉄道に乗って王都や領都へ行って、映画を見て、外で食事をする。
大商店の上層階の食堂で街を見下ろして食事。
もうちょっと裕福なら、音盤や玩具を買って貰える。
今やそういう贅沢が年に数回できるまでに、キリエリア王国や周辺諸国の暮らしは豊かになって行った。
周りもそういう家族が多かった。
そんな周囲の笑顔も含めて、リック青年は嬉しく思っていたのだった。
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更に翌月、「フォルティ・ステラ 第六部 宇宙基地とロケットの激突」が公開された。
前作で生死不明ながら、子供達の必死の通信に答えたフォルティ・ステラ。
学者は
「あれは実験用の無人ロケットだ。
フォルティ・ステラにも見捨てていいと言ったのだが、それでは敵を欺けないと断られた。
彼はあの程度の爆発には耐えられるのだ」
と種を明かす。
一方、本物のロケットは実験用ロケットの燃料漏れなどの技術的問題を解消し、発射された。
フォルティ・ステラは敵の攻撃用ロケットを追跡し、孤島にある敵の城に捕らわれた学者達を救出、敵の首領を追い詰める。
首領は謎の学者に何とかしろと命じる。
しかし謎の学者は首領をあっさり光線銃で抹殺。
その正体は地球の支配を狙う宇宙人であった!
首領は部下を引き連れ宇宙基地へ飛び立つ。
フォルティ・ステラはその後を追う!
一方、本物の偵察ロケットは実験用ロケットの燃料漏れなどの技術的問題を解消し、発射された。
ここの特撮場面も、ちょっとリック監督が手助けした。
偵察ロケットの接近に狼狽える宇宙基地。
更に基地に飛び込むフォルティ・ステラ!
そこは割と広いセットで敵の男女の兵が機械を操作していた。
敵の首領が立ちはだかり、「勝負だ!」
変身し黒い甲冑を纏う敵!ちょっと不気味さと恰好よさが混ざっている。
これもリック監督のアドバイスの産物だ。
そしてセット全面を縦横無尽に大活劇が始まる!
素早いカット割り、跳躍台を使った空中回転アクション、前回のリック監督のアドバイスが生かされて小刻みにカットが換わる!
更に敵兵が放つ光線が追加される。
前作がヒットした賜物だ。
しかし地球の偵察ロケットが小型艇を宇宙基地に激突させる。
宇宙基地建設のため捕えていた技師達も偵察ロケットに救出された。
不利を悟った異星人は脱出を企み、我先と逃げようとする部下達を光線銃で抹殺する。
しかし敵であっても女性だけはフォルティ・ステラは守る。
「あなた達は罪を償い、人生をやりなおしなさい!」
アックスの笑顔がニクい。
異星人の退治より敵兵の脱出を促すフォルティ・ステラは脱出ロケットを発信させる。
逃げる敵首領とフォルティ・ステラの一騎打ち!
しかし敵首領が背中に背負ったロケットに、フォルティ・ステラのベルトから放たれた光線が命中、爆発!
恨み口上を吐きつつ敵首領は地球に向かって落ちて行き、燃えつきた。
偵察ロケットが放つ小型艇が宇宙基地の中心部を突き破り、ついに宇宙基地は大爆発!偵察といいつつ攻撃していた!
最後、偵察と言いつつ攻撃しまくっていたロケットの乗員は、窓の外のフォルティ、ステラに手を振る。
フォルティ・ステラも答え、手を振る。
戻って来たロケットを子供達が迎える。
平和が戻った地球を見届け、フォルティ・ステラは宇宙へ去っていた。
ある意味「宇宙迎撃戦」より軽妙で単純なお話しで子供にはちょうどいい。
最後、子供達は大喜びだった。
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最初、宇宙基地はミニチュアではなくガラスに描いた絵で処理する予定だった。
しかし、
「そりゃあんまりでしょ」
と、最後の爆発シーンだけはリック監督が1m大のミニチュアを自力で作り上げ、カメラの真上に吊るして爆破した。
カメラは真上から落ちて来る破片や炎を捕え、迫力あるラストを捕え切った。
他にも、ロケットの煙が上に昇って行かない様に見せる為、噴射口を上向きに撮る技術等を伝えた。
こういった助言や協力はクレジットされる事は無かったが、アックスとトレート氏は感謝した。
ただ、ペトロス監督やスタッフ一同は困惑した。
「何でライバル会社にこんな肩入れすんだろか」と。
「あの人はね、ああいう人なんですよ」
例によってトレート氏は、泣いて感謝していた。
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「宇宙迎撃戦」製作費5千万デナリ。興行収入4億デナリ。
「フォルティ・ステラ」第三部・四部合わせて製作費1千5百万デナリ。興行成績何と1億2千万デナリ。
利益率は同じになったが、何しろ額が違う。
しかし相変わらず映画評論界隈は冷淡であった。
むしろ
「今注目すべきは映像通信!」
「音だけでなく絵も遠くへ送れる映像通信とは!」
等と、どうあっても特撮映画を無視する風潮がこびりついて離れない様である。
中には
「映画は過去の産物か?」
と、ヨーホー、ショーウェイのみならず各国の映画会社全て、何より映画を楽しみにしている大衆を敵に回す様な馬鹿なことを書いたアホがいた。
「よくもそーゆーヤツに筆を執らせ続けるよね」
「潰れてしまえばいいのです」
「そーだー!つぶれろー!」
「ちゅぷえよー!!」
「しょ~よね~、ブライちゅあ~ん」
リック一家の願いも虚しく、そういう言論人は独自のコネがあってしぶとく生き残るものであった。
「ヤツラにゃ絶対!映像放送の利益はびた一文くれてやんないからね!!」
珍しく活舌はっきりとアイディー夫人が怒りの啖呵を切った。
例によって珍しく、注目すべき論もあった。
「低予算の活劇であるフォルティ・ステラにも、目を見張るべき、敬意を表する部分がある。
何より低予算短納期で子供達に娯楽を提供するという、ショーウェイ根性の賜物であるが。
注目すべきは空想物語に王立学院の様な理論を導入しつつ、活劇としてのカメラワークと、主人公の向こうを張る敵役を作り上げ、更には特殊技術で強力を惜しまなかった、リック・トリック特技監督の存在である。
監督の協力する費用的効果は、5百万デナリに相当する物と思われる。
巷説では、制作担当のキュリオス・トレート氏の熱意に共感しての協力と聞く。
拙筆は斯様な、会社の枠を超え、幼い観客の為最善を尽くす努力を惜しまぬ姿こそが明日の映画界を豊かなものにすると信ず」
無論、この評論家の意見が主流を占める事は無かったが、それでもリック青年はこの評論家に感謝した。
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リック監督が次回作の構想を練っている。
海軍卿から依頼された、鋼鉄艦と飛行機の時代の戦争映画である。
勿論、異世界の記憶があるので完成形は頭の中にあった。
問題は、全く異なる歴史や宗教を持つこのキリエリア始めグランテラ大陸の観客に、どう訴求するか。
色々考えつつ、家族と仲良く過ごしつつ、更には映像放送に取り組むアイディー夫人を手伝い、労わり、愛しつつ、構想を練った。
先ずは愛妻の成果、映像放送の実用化である。
アイディー夫人が完成させた映像放送装置は、無数の魔法陣と電気装置を組み合わせたものだが、それを簡略化しないと実用化は難しい。
そこを魔導士協会や王立学院の英俊がリック邸に出入りして少しづつ改善した。
リック邸のアイディー工房にはいつのまにか鉄塔が建ち、魔導士協会との放送実験を待つばかりとなった。
「そういう事はもっと早く言いなさい!」
またセシリア社長に怒られた、と思いきや抱きしめられた。
「世の中が変わるわよー!リック君に協力するわよー!!」
今までリック青年の自費…それでも1億デナリ以上注ぎ込まれていたが、ヨーホー映画公社が「王国の情報交換事業の未来への投資」と銘打って2億デナリを追加した。
これに王立学院も魔導士協会も狂喜した。
両者とも数千万デナリを投資していたが、限界に達していたからだ。
「王家も出資する」
カンゲース陛下が更に2億デナリ追加。
「こここ!これしゅごいよー!」
膨大な研究資金にアイディー夫人が怯えた。
「ははは。君の研究にはそれだけの価値があるんだ。
流石俺の大事な奥さんだよ!」
そう言って、余り身長が変わらない小柄な夫人を抱きしめた。
「うふふう~、しあわしぇ~」
そして実験装置の製造は加速した。
「がんばるからにぇ~!!」
「ちょっとディー!頑張りすぎないでー!!」
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「宇宙迎撃戦」公開前に完成した映像の電気信号・魔道具化。
公開後数か月でその信号を放送するまでになった。
その実験の日。
王都、クラン撮影所の特撮用0番スタジオに、電気信号化カメラ、送信設備が運び込まれた。
セシリア社長も、夫である財務卿ザナク公爵も臨席している。
無論、リック青年も、英雄アックスにセワーシャ夫人も万一に備え待機している。
カメラを構えるのはデシアス技師だ。
アイラ夫人とブライちゃんは自宅のアイディー夫人の工房で放送を待っている。
ヨーホー中央劇場。
「ゴドランの逆襲」の舞台となった港町の侯爵領。
「空の大怪獣プテロス」の舞台となったなった辺境伯領。
その鉄道駅に受信設備が運び込まれた。
「じゃ~いくよ~」
緊張感が抜けるアイディー夫人の声と共に、カメラが動いた。
その先には、「アレフ」の一文字。
「こちらデンガナ、受信、アレフを確認」
「こちらダッチャー、受信、アレフらしき字を目視」
「流石に王国全土に送るのは、もっと高い塔が必要だねぇ~」
と、やや残念そうに言うアイディー夫人。
「動体の通信、用意、スタート!」
セシリア社長にカメラが向かう。
「皆様。私は…いえ、どうでもよろしいですわね。
アイラさん、ブライちゃん、いらっしゃい」
「え!!!」
突然セシリア社長に呼ばれた二人。
「どうぞ、行ってらっしゃい」
とリック青年に押されてセシリア社長の横に座るアイラ夫人。
「遠くに暮らしている皆様に、声が送れる時代になりました。
今度は、遠くにいる私達の姿を送れる時代が来ようとしています。
ブライちゃん。
あなたと同じ年の子が大人になる時、世の中はもっと幸せで、暮らしに困る人のいない時代になって欲しい。
私、ヨーホー映画公社社長、セシリア・ザナクは神様に祈ります」
「いよいやふ~!」
「ちょっとブライちゃん!」
「いいんですよ、ほほほ!!」
「お、ほ、ほお~?」
「まあ!ほほほ!」「おほほー!」
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その数秒後。
港町と、辺境伯領で笑いが起きた。
こうして、この世界で初めての映像放送実験は成功したのだった。




