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74.王都宙を舞う!

 合成班の進捗を待つ間に、リック監督はLSIS号の一段目ロケット切り離し場面、迎撃ロケットの補助ロケット切り離し場面をブルーバックで撮影し、背景となる地球との合成を指示した。

 とは言え、前作「地球騎士団」以上に線画合成が多い本作。


 作画ありきの作業のため、作画が上がるまでは順番待ちの素材が増えただけだった。

「作画出来る人増やしたいけど、年1~2本の特撮映画のためだけに人を抱える訳にも行かないしなあ」


 とは言え、自ら進んでアニメ映画を作ろうとは決して考えなかったリック監督だった。

「ウッコさんとこのアニメ会社に色々助けて貰ってるし、アッチの独自企画が実現できなさそうなら、ウチやショーウェイで検討できないか頼み込んで見るかあ」


 等と考えつつ、細かなシーンの撮影をこなして行った。

 合成班の進捗を見て、最後の特撮シーン、敵の宇宙基地円盤による王都襲撃の場面の準備が始まった。


******


 宇宙人の反重力攻撃で王都の大商会や駅、魔道車や路面鉄道が空へ舞い上がる場面。

 火事で燃えあがり崩れる建物を見たものはいても、巨大な建物が空へ舞い上がる姿など見た人はこの世に居ない。


 しかし特撮ならそれが出来る。


 大きなミニチュアや魔道車、鉄道は極細鉄線で、破片や石畳、窓ガラス等は画面に映らない床の下から吹き上げられる風魔法で飛んでいく。


 しかし美術班は困惑していた。

 最後、王都を敵母船円盤が反重力攻撃する場面、王都の主だった建物が浮かび上がって破壊される場面。


「こりゃ中々に無理難題って奴だぜ」

 ポンさんが「出来ない」とまでは言わない、ギリギリの線で言って来た。

 確かに、失敗作の山が倉庫脇に積み上げられていた。


「結構スケジュール押すなあ…」

「最善は尽くす、2日くれないか?」

「わかった!あとは何とかする!」


 こうして美術班は軽くて壊れやすい王都のミニチュアに取り掛かった。


 結果、出来栄えに若干難があるものの、予定のミニチュアが仕上がった。

「これ以上の出来を求めると、塗装中に崩れちまう」

 若干塗装がカラフル目であり、重厚感に欠けるが。


「これで行こう。結構押しちゃったしね」

 リック監督は妥協した。


「呼ばれた気がしたよ~」

「ディ~!!」


 そこに来たのはかつて爆弾娘といわれ、怒ると猛烈な魔法をブっ放していた魔導士アイディーの出番だ。

 アイラ夫人と、首が座ったブライちゃんも見学に来ている。


 一同が心配したが。

「あれ使っていい?」

 特美倉庫の失敗作を助監督が運び込んで来た。


 幾度かテストを行い、力加減を調整した。

「扇風機より力加減が出来るな!」

 と、デシアス技師のお墨付きももらえた。


******


「じゃ、いくよ~!」

「ディー、テストの時くらい、だよ?」

「わかったよ~、じゃ、徐々に、ね?」

「ディーちゃんがんばってー!」

「あんぱえ~!!」


「頼むぞアイディー、操演も用意!カメラスタート、

 ハイヨーイ!スターッ!!」

 カチンコの音が鳴り響いた!


「ハイ照明!!」

 敵の反重力光線が放たれるイメージで街のミニチュアが明るく照らし出された!

「はぁ~…フン!!」


 アイディーが送風口に向かって風魔法を発動すると!

 石畳が舞い上がり、ミニチュアの窓がはじけ飛び宙に向かう!


「操演、ヨーイ!引けっ!」

 セット脇の操演班がワイヤーを引いた!

「ソイヤアッ!!」

 一瞬遅れてアイディーが力を込めた!


 ヨーホー中央劇場が、手前の魔道車や路面鉄道が宙を舞った!

 その様子を3台のカメラが追った。


「カーット!OK!!」

「ふぃ~。こういうの久々だったよぉ~!」

「お疲れディー!辛くなかった?」

「ひさびさスッキリー!!」

「「「はっはっは!!!」」」


 この後中央劇場の模型が空づけられ、王都駅、駅前の広告塔、商人街の模型が同様に宙を舞った。


 今まで炎に包まれたり、押し潰されたりというミニチュア破壊はあったが、見慣れた著名な建築が下から舞い上げられるという摩訶不思議な映像であった。


「カーット!OK!アイディー、上出来だ!」

 昔からの仲間だからか、デシアス技師の声も明るい。


「ディー!ありがとう!」

「えへへ、リックきゅん、褒めてぇ~」

 現場は微笑ましい空気に包まれた。


 アップで撮影したフィルムは警備兵が浮かび上がる様と合成される予定だ。


******


 さてその警備兵の場面。


 スタジオが一杯だったため他のスタジオの一角を借りブルーバックと照明を持ち込み、大きなクレーンで警備兵を釣り上げて撮影OK、まではよかったが。

 釣り上げられた兵を降ろす段でクレーンが意図せずあらぬ方向に回転してしまった。

 敷居板の向こうにそのまま降ろしてしまったところ。


「「「キャーッ!!!」」」

 と黄色い悲鳴。


 何事かと一同が敷居板の向こうを見ると、

「「「見ないでー!!!」」」

 何と他の映画の若い女優さん達がお着換え中。楽屋が一杯だったそうだ。

 警備兵役は逃げ出そうにも鉄線で繋がれていてあわれ袋叩きに。


 後日リック監督が手製の焼き菓子を持って女優さん達を詫びて回った。

 最初不満だった女優さんたち、このお菓子が大好評でなんとか機嫌を直してもらった。

 しかし「宇宙迎撃戦」の敵反重力光線はあろうことか「助平光線」という不名誉なあだ名を付けられてしまったのであった。


******


 例によって音楽場面。

 これよりずっと前、 ナート師は楽譜興しに頭を抱えた。

「これ、『地球騎士団』以上に殺人的ですね?」

「えー、はい」

「最後のこの迎撃戦の曲、5分近く物凄い全力疾走ですよね?」

「えー、はい」

「金管全力疾走じゃないですか」

「えー、はい」

「オマケにほぼ全編音楽鳴りっぱなしですよね?」

「えー、はい」

「…録音に何日か下さい」

「えー、はい」


 そして仕上がったフィルムを元に録音が始まった。

「なんだかすごくうれしそうですね?」

 とのナート師の指摘に

「え?いつも通りですよ?」

 と返すリック監督。


 一瞬そう言われて見ればそうか?と思いつつ。

「いや、違う。これ絶対マーチとアレグロ目当てだ」

 そう納得するナート師だった。


 おどろおどろしい、危機感を煽る演奏と共に始まるヨーホーマーク。

 一転して星空、地球を背景に回転する宇宙基地にかかる静かな宇宙を表す音楽。

 異星人の円盤の光線が命中、幾多の色が宇宙基地を包み、爆発!

 同一編成、同一主題の曲が録音されていく。


 続いて演奏されたのは、冒頭で爆発四散した宇宙基地の破片が地球上空を流れていく背景に「宇宙迎撃戦」のタイトル字幕!

 演奏は悲惨な状況の真逆をいくかの様な、抗戦の勇壮な主題!

 星空を飛ぶ敵異星人の円盤にクレジットが続き、勇壮な行進曲は途中異星人の主題の変奏を含みつつガンガンと演奏される。


 同一の主題がまとめて演奏される。

 抗戦の主題に続いて、異星人の主題、宇宙空間の主題が演奏された。


 中でもロケットLSIS号打ち上げの場面は、演奏に気合が相当入っていた。


 翌日、肝心の迎撃戦のアレグロが演奏される。

「これ、色んな主題を並べた、作曲技法としてはどうかってカンジですよね」

「それがいいんですよ、メドレーっぽくて」

「確かに迫力はありますが、主題の展開とかないですね」

「まあ、お願いします」


 月の裏側の、敵の移動式宇宙基地、巨大円盤へ熱線砲で攻撃する場面。

「地球騎士団」以上に、光線と光線が交錯する戦い。

 迎撃戦の3節目がマーチのテンポで演奏される。


 昨日にもまして気合が入る演奏者たち。


 月面車が敵円盤の攻撃を躱しつつ反撃する場面も同様じ旋律とテンポだ。


 迎撃ロケット発射場面は一段テンポの速い、第一主題と第二主題接続部のファンファーレ。

 録音ブースで物凄く嬉しそうな顔しているリック監督をナート師は見逃さなかった。


 休憩を挟んで、肝心の迎撃戦、殺人アレグロ。

 一旦練習。

 楽師たちが背後の画面を眺めつつ、困難と思われる部分の音だしをしている。


 リック監督は密かにそれも録音してたりする。


「Mの32」との録音技師の声に続いて、指揮者の向い、演奏者の背後に映像が「用意」と映る。

 ユーさんが発射ボタンを押す、そして始まる演奏!

 画面では次々と迎撃ロケットが点火し、リフトが外れ、ロケットが飛び立つ!

 他国の基地からも地下サイロから撃ちあがるロケット!

 地球を背に地球離脱補助ロケットを切り離すロケット群!


 地上基地と交信しつつ、敵と光線を交えるロケット、第四主題では円盤群とロケット群が交差しつつ光線を放つ壮絶な合成場面が何度も続く!

 間奏部ではチェンバロを拡大し改造した「ピアノ」が打楽器の様に激しく叩かれる!


 そして地球接近をMIPAC1が計算する場面を挟み、敵円盤が地球へ侵入、敵後方から迎撃ロケット群が追尾する。

 そして再び1~4主題を繰り返し、演奏は3度目の第一主題で指揮者がタクトを降ろした。


「「「ハぁ~!!!」」」溜息と、拍手が起きた。

 ナート師がチラと録音席を見ると、リック監督まで拍手していた、喜色満面で。


 一休み入れて、最後、地上の巨大熱線砲が敵円盤と巨大基地円盤を迎撃する場面。

 第四主題を極限まで高速に演奏し、ピアノを叩きつける演奏!二条の光線に挟撃され爆発四散する円盤!


 リック監督が録音室で踊ってる姿が見え、ナート師は口から魂が抜けそうになった。


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