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72.映画、学問、そして夢

「宇宙迎撃戦」特撮班はロケット打ち上げシーンから撮影を開始した。

 同時に、テンさん率いる本編班も撮影を開始した。


 最初に敵円盤の攻撃で爆発する宇宙基地。円筒が円を描く様なデザインで、中心部から伸びた円筒に支えられ、回転している。その外周部は、なだらかな下り坂と上り坂。

「ここはこの円形に向かって回転しているので、重力が少し生まれています。

 しかしその力は弱いので、床面の絨毯と靴底はくっつきやすい素材で出来ています」


 リック監督が本編班に助言する。


 この谷底の様なセットに、無数の計器やモニターを備えた卓が並んでいる。

 頭上の天井から、宇宙基地の中心部と人が出入りしている。


 そんな場面から撮影が開始された。


 しかし、円盤襲撃の場面で基地隊員の俳優が走り出してしまう。

「カーット!そこ!走らないで!常に足が床についている様に、真ん中の手すりを持って!」


 リテイクである。


「まあ、これは人工重力知ってる人でも難しい演技だから」

 と、テンさんを労うリッちゃんであった。


******


 LSIS発射の宇宙管制所の場面でもテンさんは苦労した。

 広大なセット、その壁面の三つの大画面は青い布だ。

 後から打ち上げの特撮フィルムが合成される。

 小さいモニターには電球から写された文字や数値、ロケット内部の写真等が映し出された。


「これはオリジナルとは全く別物だなあ」

 リック監督によると、異世界の記憶では壁面には電球が無数明滅し、計器類が多数廃されていたそうだ。


 何ケ所かには魔導士協会にあったMIPAC1…のハリボテが置かれて、電球がチカチカ光って本物が動いているかの様に見える。


 そこに着席した俳優達は、本当に未来の世界にいるかの様な錯覚に襲われた。


 しかし。


「発射10秒前」

 ロケットの位置を正確に知るため、事前に計算した位置とのズレを測定しやすくすため、決められた時間に打ち上げる必要がある。

「8、7、6」

「点火!」

「4、3、2、1」

「撃てー!!」

「カーット!」


 緊張した他国の俳優が「係留解け!」を「撃て!」と言ってしまった。

「申し訳ない、つい大砲を打つつもりになってしまいました!」

「ははは。普段使わない言葉ですからね」


 最後の部分だけ撮り直しとなった。


******


 ロケット内部の描写も撮影される。

 主演一同は地面を背に、顔を上に向ける…と言いつつ普通に座席が並んでいるセットに苦労しつつ、発射場面や宇宙航行場面の撮影をこなした。


 月面着陸後は特撮と本編の融合が厳しく求められ、早い段階からラッシュ編集が行われ、地球の重力の1/6という描写は月面車乗り込みの場面にさりげなく取り入れるだけとなった。


「これは頭の良さを問われる撮影だねえ」

「あの『キリエリア沖海戦』の時リック監督は水兵役の端役にも当時の水兵用語や行動訓練を指導したそうですので、まあそれに比べれば」

 テンさん監督はやんわりといなした。


******


 頭の良さ、という点で苦労したのは。

 リック監督曰く、元の記憶にある映画で、地球上にある物体を空に浮かび上がらせてしまう、異星人の「冷線砲」という兵器には、学問上大きな問題があるとの事で大層悩んだそうだ。


 さしもの鬼才アイディー夫人ですら「これはあたしの頭じゃ何も言えないよぉ~」と嘆いたそうだ。


 リック監督は「エキゾチック物質」という考え方を持ち出した。

「宇宙には全く異なる二つの場所を繋げる、別次元につながる「虫食い穴」がある。これを使って光の速さで何万年もかかる距離を一瞬で移動できるけど、そこに方向性を与える、空間の歪みを作る物質なんだよ」

 自宅で紙に図示して説明するリック監督だが。


「わかんないよお~」

「ははは。安心して、俺もわかんないから。

 でもコイツを的に撃つと、重力、これも一つの歪みなんだけど、これを打ち消して地球の外側に飛んで行ってしまう。

 宇宙人はこれを武器にする…でいいかなあ」


 呆れ半分にアイディー夫人が答える。

「いいもなにも、この世の中にそれじゃダメって言える人いないよお」

 アイラ夫人も頷く。

「いないにょ~」

 ブライちゃんも頷く。


「本当は、宇宙の学問は数多くの観測結果から、規則性や例外的な現象から不変の放送を導き出す必要があるんだけど…」

「まるで学者さんですね?」

「俺は細かい計算とかはキライだよ?」

「嘘仰い!」

「うしょっしゃい!」


「ぷふふふ!ブライちゃんかわいい~よ~!」


 という遣り取りの中で脚本が練られ、今その難しい解説をユーちゃんが各国から集まった学者を前に説明する場面を撮影している。


「ご承知の通り、重力の起源は空間の歪みによるものであり、空中に浮かび上がった物体には重力に反する斥力としてエキゾチック物質が放射された形跡があります」


 と、スラスラと専門分野の様に説明するユーベンス博士に、周囲の一同も知ってますよみたいに頷く。

 役者ってすごいなあと感心するリック監督だった。


******


 半ばの見せ場、異星人が月面に築いた、巨大母船円盤を中心とした基地への攻撃。

 本編では宇宙服を纏った一行が熱線砲で攻撃し、主人公が月面車のロケット浮上で稜線の上からも援護射撃する場面。


 特撮班が仕上げた特撮場面を月面のセットの反対側に映写し、敵光線は照明用の電球を俳優陣へ向けて撮影。

 そのお陰で対象物が解って俳優陣も演技しやすかったという。


「撮影に余裕がないとこうはいかないねえ」

とリック監督。


 しかし。


「また見学ですか?」

 部外者の介入が多くなってきた。

 いや、出資もして貰っているので部外者とも言い切れないのが悩ましいのだが。


 スケジュールを調整し、迎撃ロケット打ち上げ場面を見学会にした。

 ボウ帝国から大地迎撃隊が発射する。4つ並んだ斜め式発射台から三機が発射。


 このセットは組み直され、次には垂直式打ち上げロケットが発射する。

 最後は床が外され、地下から発射。


 見学は最初の斜め式発射台のみ。だが、撮影用模型を見て

「これで二段式か?」

「翼の下にあるのが大気圏離脱用ロケットか!」

「これが切り離されるのだな」

「その場面を見たいものだ!」


 等々。

 結果2日程撮影が押した。


******


「大変ですなあ」

 と、王立学院の院長様。

 この日は王都内の孤児院学校の子供達を引率しての勉強会という事もあり、リック監督は撮影の手を止めての歓迎ぶりだった。


「あー、おもちゃだー!」

「宇宙船っておもちゃなの?」

「ホントに宇宙に行くんじゃないんだー!」

「何だつまんねえ」


 子供は正直だ。


「今、私達はすぐに宇宙へ行け、と言われてもとても難しいんです。

 だからもし強い力で宇宙に行けたら、宇宙に言ったら何をしなければいけないか。

 そういう勉強の成果を形にするために、おもちゃや特撮の力を借りて未来を一足先にのぞき見する。

 この映画は、そんな事を考えながら作っているんですよ」


「じゃあ俺達何年か後には星空に行けるのかよ?!」

「誰もが簡単に行くのは難しいでしょう。

 でも、星空に人が作った機械のお月様を飛ばす事は出来ると思います」


「ホントかよ?!」「ウソじゃねーの?!」

「あたし知ってる!『地球騎士団』の最後に出て来た、人工衛星っていうのよね!」


「じゃ、ホントの事なんだ!」

 気を取り直した子供達が、本編セットの見学に向かう。


******


「うわー!すげー!」

 LSIS号のセットは撮影が終わって解体されたが、本編スタジオの中央指令室のセットは細かな撮影が続いている。


 テンさんの要望で、正面の三つの画面には映写機が映像を映し出せる様改良されている。

 係員の卓上の画面には、固定ながら数値やグラフが写っている。

 ナンチャッテMIPAC1も動いて、ランプが光っている。


「これが未来のお仕事なんだー!」

「おれ、こんなところで働けるかなー?」

 さっきとは打って変わった子供達。


「やあ、いらっしゃい」

 ユーちゃん、主演のセンベリ氏が職員服に通信装置を頭に仕掛けて子供達に挨拶する。

「きゃー!センベリさまよー!」「「「キャー!!!」」」

 10歳前後の女の子が黄色い声を上げた。

「「「カッコイー…」」」

 気取っていた男子も、ホンモノの美男俳優を前に素直にならざるを得なかった。


******


「あー!ゴドランだー!」

「ゴレモルもいるよー!」

「プテロスだ!」「アルモザスもいるよー!」

 特美倉庫で子供達は凄く興奮していた。


「ゴドランは大昔に本当にいた、古代竜の生き残りなんだぜ!」


 最初は生意気な事言ってたヤツも子供達に怪獣博士っぷりを披露してゴキゲンだった。

「映画って、ホントかウソか解んないなー」

「ゴドランはホントにいたんだよ!!」

「「「え~???」」」

「宇宙だって行けてないじゃん」


 困り果てた怪獣博士がリック監督に助けを求める様にすがった。

「なあ、映画ってどこまでホントなんだよ?全部ウソなのかよ?」


 やや困った顔のリック監督。


「半分ウソ。でももしかしたら半分本当かも知れません」

「「「何それー???」」」


「ゴドランやアルモザスは、実際に発見された古代の、人間が良まれるより何億年も前の生き物をモデルにしています。

 しかし、映画としての見せ方をよくするため、大きさやデザインを変えているのです。


 半分本当で、半分が嘘なのです」

 子供達は、キョトンとしている。


「さっき、まだ宇宙に行けないって言いましたね?


 でも今、俺の愛する奥さんが、音を伝えるラジオを作った。

 今は、映画を遠くに伝える映像放送、ラジオビジョンを作っています。

 それが出来た時、遠くに映像を送ろうと思えば、映画に出ていた人工衛星が必要になります」


「えー!ホントー?!」

「でも、物凄くお金がかかります。

 作る事は出来ても、かけたお金よりもっと稼ぐことが出来ないと、作るのをやめてしまうかも知れませんね」

「「「え~???」」」


 子供達がガッカリする。


「遠くにいる人達の姿を見る事にお金を払えるか。

 遠い星の姿を知る事にお金を払えるか。

 それは、これから先の未来を生きる、君達が決める事です。


 俺が出来るのは、おもちゃを使った映画で未来に出来る事を一足先にお知らせする事だけですよ」


「「「ん~???」」」


「はっはっは!素晴らしい先生ですな」

 と、今まで全部リック監督に丸投げだった学院長サマ。


「みなさん。

 考えて下さい。憧れて、考えて、上手く行かないこともあるでしょう。

 それでも消えない憧れがあれば、いつかそれは現実になるでしょう。


 リックさんも、私も、そういう子を応援しますよ」


 子供達は、暫く考え、迷った。

 そして決心して答えた。

「「「はい!!!」」」



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