69.宇宙映画、注文色々
晴れて結婚した英雄アックスと聖女セワーシャ。
リック夫婦に倣って新婚旅行を楽しんでいた。
しかし途中経過する駅では
「始まりの男女だ!」
「フォルティ・ステラのおじさんだー!」
と注目を集める始末。
「オジサンはないよなあ」
「子供から見たら大人の男はみんなおじさんよ!ふふっ!」
しかし宿はヨーホー公社が極上の部屋を予約してくれていた。
時折行った先の領主貴族から招待を受け、あまり負担にならない程度の表敬訪問と、観光案内までして貰えた。
この二週間、二人はぞんぶんに贅沢を楽しみ、適度に顔を広げ、夜は二人の時間を過ごせた。
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「今頃二人で仲良くしてるだろうなあ~」
と、ぼんやりしているリック監督は、企画会議の最中。
「我が社も、予算を抑えつつ、空想英雄活劇を取るべきかという問題ですが!」
重役の声に我に返る。
「私は反対ね」と社長。
「あの映画は妥協の産物よ。
書割の向こうが透けて見えそうな映画は、私達は作らない。
ヨーホーはある程度しっかりと予算を組んで、皆さんに安心して見て頂ける作品をお届けする会社です」
静かに言い放つ社長。
「なんか丸々商売敵を稼がせてやっただけでしたなあ」
投げやりに言う役員に、社長は鋭い目線を送った。
「それは違いますよ?
むしろ宇宙からやって来た英雄と言う荒唐無稽な存在が、空想未来映画の市場を広げるのに一役買ってくれたと思うべきでしょう。
ねえ?リック監督?」
「あ~はいはい。
向うさん、次は宇宙基地や宇宙船を出してくるそうですんで、こっちはホンモノっぽいものを目指さなくちゃなあ、って」
「と言いますと?」
「どうやったら月へ行けるか。
それを真剣に検討して、月の大地で、そして地球の外、宇宙空間で侵略者を撃退する話を描こうかなあと」
「月…我々の大地と月はどのくらい離れているのですか?」
「大体40万km。地球の子午線を1万kmとしてますので、その40倍。
月と地球の間に地球を挟めば、30個は入る遠さです。
今のところ一番早い飛行機が時速300km。
1300時間、飛び続けて2ケ月ですか~」
リック監督の答えに一同は呆然とするしかなかった。
「2ケ月…
早いと見るか、遅いと見るか…」
「鉄道が出来る前は帝国に行くにもそれくらい日が掛かりましたからなあ」
ぼんやりと自分の経験に当てはめて、途方もないのかそうでもないのか、懐かしさ混じりに語る役員に、リック監督は更に言葉を浴びせた。
「以前王立学院の方に話しましたが、地球から宇宙に出るには時速4万kmを出す必要があります」
「よ…」
「4万km…1時間で、地球1周…」
「その速さなら10時間で、え?半日?」
最早その場にいる人々の郷愁も、想像力も越える規模の話となった。
「月とはどのくらいの大きさなのです?」
「大体地球の1/4です」
「大きいのか小さいのか…」
「こういった数値を元に、じゃあどうすれば宇宙へ、月へ行けるか、って話を難しくなり過ぎない様にサラっと流し、一大宇宙ショー、そして未知の敵との攻防を描こうと思います。
まあ、肩ひじ張らず宇宙冒険をお楽しみ頂く感じですよ」
そして特美班が検討用模型を、ピクトリアルスケッチを運び込んだ。
題して、「宇宙迎撃戦」。
更に王立学院に新たに設立された交通航空部と王立魔導士協会の面々が説明ボードを担ぎこんだ。
「王立学院と魔導士協会って、ヒマなのかしら?」
とセシリア社長は思ってしまったが口には出さない。流石王女である。
「「「おおう!」」」「「「これは!!!」」」
今まで色々意見していた役員たちも慣れたもので、ピクトリアルスケッチと検討用模型を見れば大体頭の中に映画のイメージが湧く様にまで鍛えられてしまい、目の前の情報の洪水に進んで飲まれて行った。
こうして怪獣映画二本を挟んでの天然色パノラマスコープ4チャンネル立体音響、未来空想映画第二段、特撮大作としては八作目になる「宇宙迎撃戦」の製作が決まった。
新しい上映装置は無いものの、パノラマスコープと4チャンネル音響が相当数行き渡り、キリエリア王国の王都、領都には設置済みとなった。
二番館でも2チャンネル立体音響が普及し、スクリーンは若干小さいがパノラマスコープは楽しめる様になり、「地球騎士団」を上回る興行収入が期待された。
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「宇宙に行くと何かいい事あるかしら、って。前にも聞いたわね」
「はい。あの時はおぼろげな答えしかしませんでしたが、もうちょっと言いますと」
そこから先は、セシリア社長にとってチンプンカンプンであった。
ポカーンとした社長の背後には、それこそ果てしない宇宙や銀河が広がっていた事であろう。
なんとなく解ったのは、大地を遠く離れた場所から映像ラジオ?で送られる雲の動き、天気の予測。
正確な地図を作り、交通や開発を考える上で必要となる森林、荒野、山岳、川の把握。
セシリア社長は占星術に懐疑的だったのか、星の姿や動きが世界に及ぼす影響には無関心だった。
リック監督もまた「これは宇宙に遍在する法則を知るためのものです」と理解不能な事を言っていた。
「宇宙に行くなら、その、人工衛星?それを送り出すとか、そういう場面があれば荒唐無稽な話じゃなくて、実利に結び付くかも、って思わせる…
現実味?そういう感じが出来ないかしら?」
「はいはい」
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王立学院の一団がクラン撮影所を訪れ
「いかにして大地から宇宙へ飛び立つ姿を、現実的に描くべきか」
とか考えを延べ始めた。
「この1年近い研究で、恐るべき爆発力を持つ水素、この世界で最も単純な元素が液体化出来る事が期待されて来た!
この液体水素を…今はまあ無理だが、将来出来る事としてだな。
ロケットを宇宙へ飛ばす!」
まあ、それは既に「地球騎士団」で熱線砲輸送ロケットが登場している。
「ただ、燃料の重さ、機体の重さを考えるとですな。
宇宙に出たら、地球出発用のロケットを切り離して、月へ行くロケットは身軽になって行く方がよいのではないか、と」
「うわあ」
リック監督は思わず声を上げた。
「何か小生の学説に過ちが?」
「正しいから残念なんです」
「はい?」
「やっぱ多段式ロケットですよね~」
「そうですよ?」
「あああ~」
リック監督は主役ロケットのデザインを変更する作業に取り組んだ。
「そのままって訳にいかないよねー。カッコいいのになー」
「リックさん、辛そうですね?」
アイラ夫人が慰める。
「いやね?俺の記憶にある宇宙映画って、古いんだよ」
悔しそうにリック監督が言う。
「だから俺の記憶にある最新の学説から見ると、銀色で円錐で翼があるロケットって、有り得ないんだよ。
真っ白で三段に分かれて、下から切り離されて消えていくロケットが正しいんだ。
でもそれじゃカッコよくないんだよ~!!」
「はいはい。全くわかりません」
すごくテキトーにいなすアイラ夫人であった。
「じゃあ、中を取って二段式。デザインもそれらしくして、いいとこどり。
リックさんなら出来ませんか?」
「ん~。やってみるよ」
「あー!あたしも、色々計算するよー!」
「うるよー!」
ブライちゃんをあやしていたアイディー夫人も来た。
こうして「宇宙迎撃戦」のデザイン案は諸々変更となった。
特に主役の月ロケット「衛星間警備艇ロキュス・セクリタス・インテル・サテリテ=LSIS」はリック監督の初期構想にあったシンプルなロケットとは違って来た。
最後に登場する迎撃機も大気圏離脱用の補助ロケットが追加された。
「なるほどねえ。そういう理屈でこうなってんだ」
特美のポンさん、キューちゃんが図面を眺めて頷く。
「最後は随分ちっちゃくなっちゃうねえ」
「月から帰る時は地球を飛び立つより力が要らないからね」
こうして当初一段式往還ロケットだったLSIS号は結局三段式ロケットとなった。
そうなると四方に生えている大きな翼も要らないのだが、
「これはゆずれない!地球に変える時使う事にする!」
とのリック監督の熱弁を前に、残る事になった。
最終的に、初期案、円錐の上下左右4つの羽根が生えたデザイン、初期構想とほぼ同じ物の下に、別の大きなロケットが着き、月面を脱出する際にも下1/3が切り離され、最終的に底部となる羽が切り捨てられ飛行機の様に着陸する形になった。
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宇宙での戦いと聞いて軍もやって来た。
「宇宙基地を作って敵を制圧する事は可能か?」
「可能ですけど、普通に飛行機で敵地に爆弾落とせばいいのでは?」
「宇宙を征する事で軍事的に利益は?」
「敵地を把握出来ます。撮影して持ち帰れば作戦立案の精度を高められます。
でもそれも普通に飛行機で撮影すればいいのでは?」
「天気予報が出来るとか」
「はい。それは軍事でも、民間でも活用できる情報です」
立て板に水を流す様にリック監督は士官たちの質問に答えつつ「宇宙を戦争に利用する利点はないですよ」とあしらっていた。
「しかしだね。敵より上を征する意義はあるのでは…」
「では、どうやって宇宙へ送り出した軍を地上に戻すのでしょうか?」
「それは、宇宙ロケットで」
「できるよ~」
と、やってきたのはアイディー夫人。
「ロケットに兵隊のっけて宇宙へ飛ばすの、カンタン」
「「「おおー!!!」」」
「全員死ぬけど」
「「「え???」」」
「今度の映画でも描く予定ですが、広大な宇宙空間から数万小さい地球の、特定の数kmの基地に戻るのはとても大変なのです。
宇宙から地球の大気に入ると、電波で追いかけるのも難しく、どこに着陸するのかの誘導もままなりません」
「基地じゃなきゃカンタンだよ?
岩に突っ込ませる、砂漠に突っ込ませる。
でも大爆発。頑丈な宇宙船なら壊れないけど、中の兵隊は、シチューみたいになってるよ。
それでもよければ作るよ」
「ぬ…」
「死を前提に兵に命じるのは、『統帥の外道』でしたか?」
「ぐぬぬ」
「まあ。先ずは飛行機が必ず飛んで帰って来られる様に性能と練度を上げましょうよ」
「そ、そうだな。欲をかき過ぎた、二人共、許せ」
リック監督がアイディー夫人に抱き着いた。
「イヤな話、リックきゅんにさせたくなかったのよお」
「アイディー、ありがとうね。俺、嬉しいよ!」
「映画、がんばろねえ~」「ああ!」
こんな様々な思惑が交錯しつつ、ミニチュア製作、台本の準備が進められた。




