67.英雄アックスの決意
その夜、リック青年は起きていた。
ブライちゃんの夜泣きをあやし、中々寝つけなくなっていたので、いつも賑やかな集会場から月を眺めていた。
日中アイラ夫人とアイディー夫人にブライちゃんのお世話を頼んでいるので、夜は「アイラもアイディーも夜はしっかり休んで!」とリック青年の当番としたのだ。
人間、どんな魔力があろうとしっかり寝て休まないとおかしくなる。
そこをリック青年は頑張って、授乳の後の世話を買ってこうなった。
親の苦労子知らず。寝る子は育つ。
夜泣きの頻度も減り、お腹の持ちも長くなり、ついには親子4人仲良く寝る様になり、食事も離乳食へ、家族と一緒に食べる様になった。
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こうしてリック監督が家庭を守っている間にも、ショーウェイ社はフォルティ・ステラシリーズ第三作「怪奇異星人の魔城」を公開した。
今度の敵は宇宙から来た怪人だ。
映画の冒頭に、英雄アックス演じるフォルティ・ステラが第二部に続き、
「私の真似をすると危険だ。
高い所から飛び降りたり、友達を殴ったりけったりするのは絶対にやめようね。
私との約束を守って、私を応援して欲しい!」
と語りが入る。
前作がヒットし、やはり真似をする子供が多かったので注意喚起のため「今後は絶対に入れてくれ!」とアックスが社長に掛け合って入れて貰ったそうだ。
前作では普通の人間の軍隊が相手だったが、今回はフォルティ・ステラの向こうを張る様な強力な宇宙怪人が光線を放って攻撃してくる。更に敵は巨大円盤に乗って地球に来る、という「地球騎士団」的な要素も入っている。
勿論予算が少ないので作りは雑だが、見せ方や殺陣裁きは中々だ。
リック青年の助言で「主題曲に歌を付けたらどうだろう?」と軽妙なマーチに児童合唱による歌が付いた。この主題曲をアレンジした緊迫感ある曲が宇宙怪人との決闘場面でも流れ、子供達はなおの事夢中になり、この音盤も売れた。
他にもリック青年は
「孤児院の少年達がフォルティ・ステラを呼ぶラジオ通信機、あれをもっと強化して、魔石を入れて音が鳴ったり、画面にフォルティ・ステラの絵が写ったりしたら」とお値段そこそこの玩具を作ったり。
更にショーウェイも戦闘シーンでのアックスの顔出しを増やし、最後の決闘だけはゴーグルとマスクを着用する様にして女性客を呼び込んだ。
相変わらずショーウェイの大商店の寸劇も大人気だ。
子供達だけでなく、その母親や、若い女性達もフォルティ・ステラ、いやアックスとの握手を求めた。
なお、地方の商店だと本人でないためか、子供ばかりになったという。
「ホント、敵の応援ばっかりしてどうすんのかしら」
そう自宅を訪れたセシリア社長に怒られたりもした。
「まあまあ。
こっちは次は宇宙へ行きますからね、月で戦います」
「月で?
はあ…そんなのどうやって映画にするのかわかならいけど、出来ちゃうんでしょうねえ」
得意げに言うリック青年の背後には、例によって検討用の模型が並んでいた。
「来年には、世の中がまた動くのよね?
今の内に、好きな映画を存分に撮って、楽しんで。
そしてちゃんとヒットさせるのよ?!」
最後の一言を忘れない社長だった。
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フォルティ・ステラシリーズ第三作「怪奇異星人の魔城」も大好評で、間もなく第四作、三作と前後編に当たるのだが、「地球の破滅か怪星人殲滅か」も公開寸前だ。
相変わらず物凄い早さの製作体制だ。
休日。例によってリック青年はブライちゃんをだっこし、検討用模型を使ってあやしつつ次回作の特撮プランを考えていた。
「月面ロケット発射10秒前!9、8、イグニッション!5、4、3、2、1、リフトオフ!どぶぉあ~!!」「おぷぁ~!うきゃっきゃ!」
「やっぱり1段ロケットなんて撮ったら後々王立学院に怒られるよねえ」
主役となる月ロケットは多段式にしなければと決意したリック青年であった。
「映画の構想を練りつつ、子供のお世話も見る…いい旦那なのかこれも仕事なのか」
「私は大助かりですよ?」
聖女セワーシャもいつものように遊びに来ていた。
メイドたちを引きつれてデシアスも来ている。
お陰でアイラ夫人も聖女セワーシャも寛げている。
アイディー夫人は部屋に閉じこもって冷房装置の大量生産計画に打ち込んでいる。
「…あの子も大概よね」
「でも楽しそうです。夕食までは思う存分打ち込んでもらっています」
「後はアックスのアホだが」
「ショーウェイはヨーホーと何もかも違うからね。
ヒットのためなら日曜もお構いなしだよ。
先週労働局に厳重指導をお願いしたけど、職員が怖がって中々言ってくれなくてね」
「ショーウェイの盗賊映画って、ホンモノの盗賊より怖いっていうわよね」
「今度の敵宇宙人の親分も中々の名演技だったよ?」
等とのんびり話していたら、馬車がやって来た。
「リック!セワーシャ!」
馬車にはアックス。
「およー!」「うわ!ブライちゃん?」
「ちょっとアンタね!ブライちゃんがお昼寝中だったら起きて大変だったわよ?!」
「ああ!すまないアイラ!」
彼と一緒に来たのはトレート氏。
「今お茶をお出ししますね」
「いや、ウチの者にやらせよう。アイラは寛いでほしい」
こういう時頼れる貴族様のデシアスであった。
「私はお構いなく、皆様にはワインを用意しました」
と、セプタニマ監督程ではないけど良いワインを差し出すトレート氏。
「みんな、フォルティ・ステラの第5、6作目が決まった!」
「そうか!おめでとう兄貴!!」
「ははは。増々ヨーホーから遠のくなあ」
「これも皆様のご理解と協力、特にリックさんの先進的な意見があっての成果です!
本当にありがとうございます!」
喜色満面で体を二つに折って深々と礼を述べるトレート氏。
「それで…」
「アイディーさん呼んできますね!」
アックスが何かを言おうとした時、アイラが向かいの工房へ向かった。
「リック、魔道車借りるぞ」
デシアスも飛び立った。
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それからリックはトレート氏に次回作の構想を聞いたが…
「宇宙で戦う」「敵は宇宙の巨大人工衛星から地球征服を狙う軍団」「最後は人工衛星での大活劇」
との事なのだが、引き続きモノクロスタンダートとの事。
「プテロスと同額の2千万デナリあれば、せめて天然色には…」
「天然色だと合成できないんですよ」「ああ…」
ショーウェイは既に天然色で幾多の活劇をヒットさせているが、特撮はと言えば、精々天然色化のハードルが無いスクリーンプロセス、しかもリック監督の助言で採用された鮮明なフロントプロジェクションが活躍している。
「宇宙基地の模型は?」「絵で何とかします」「うわあ…」
前作の第二部で極大魔法発生装置、最初は書割、絵で処理する予定だった。
これはヒドいと、リック監督の頼みで手の空いた特美班が安価で請け負って、アチコチに点滅する仕掛けや巨大なパイプが繋がってなんとか未来的な装置に仕立て、爆破シーンの撮影にこぎつけたものだった。
「音盤や玩具収入分を模型やフィルム代に回せないものですかねえ」
「担当部署が違うんで」「何ともはや…」
そこはよそ様の台所事情なので何も言えない。
等と話している間、リック青年は英雄アックスの方をチラチラ見る。
どうも聖女セワーシャとの間に重い沈黙がのしかかっている様だ。
その空気に耐えられなかったのか、一度出て来たアイディー夫人はまた工房へ引き返してしまった。
そして30分もしない内に、
「お邪魔しますわ!」とセシリア社長。慌てて平伏するトレート氏。
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なんとなく重たい空気。
「セシリア社長、トレートさん、そしてリック」
沈黙を破ってアックスが話し始めた。
「この度、ショーウェイでフォルティ・ステラシリーズの5作目、6作目が決まりました。
それだけでなく、ボウ帝国との合作で、向こうで人気の演目、「快猿伝」の主役も決まりました!」
「何と!」
「おお!」
「あれ?トレートさん知りませんでした?」
「今聞きました!」
どうやら製作担当部署が違うためトレート氏には知らされていなかったらしい。
「兄貴が猿極意を演じるのか!」
「知っているのかリック!」
東の大国で愛され続けた冒険活劇「怪猿伝」とは。
太古の修行者が国を救うありがたい教えを学ぶため、猿、豚、魚人を従えて怪物を退治しながら西にあるという聖地を目指す、荒唐無稽かつ痛快無比、しかし東国の宗教的な教訓を随所に含めた物語。
その主人公の猿が、天帝大将を名乗る暴れん坊の快男児、猿極意。
はっちゃけてお道化た三枚目と、悪党を叩きのめし正義を貫く二枚目の演技が必要とされる。
「まずは、おめでとう、アックスさん。
ヨーホーに話が来なかったのが残念ですけどね」
「何でも白蛇姫とフォルティ・ステラの制作費を比べてこうなったのだとか」
「それは。何ともはや…」
それ以上は言わない社長であった。
「それよりも、これから俺は、役者としてやっていける自信がついた。
家を持ち、誰かの人生を抱えて行ける自信がついたんだ。
だから、俺は、覚悟を決めた」
いやいや!お前救国の英雄の一人だろ?一生俸給貰えるだろ?
もう家だってあるじゃん?
周囲一同そう言いたかったのだが、皆が言葉をムリヤリ飲み込んだ。
「俺は、セワーシャと結婚する!」
「「「「「おせーよ!!」」」わよ!!!」」
「うわっ!!」
「テメ」「兄貴」「も~!」「アックスさん!」「やっとですか!」…
そこまで一同が言いかけて、セワーシャを見ると。
「バカ!」
真っ赤になって、笑顔で涙を流していた。
途中まで言いかけていた一同はワインの盃を取り。
「「「オメデトー!!!」」」
セシリア社長とメイドたちは拍手を贈り、トレート氏は泣いていた。
「おめめおー!」
母の腕の中でブライちゃんも拍手の真似をしていた。
こうして休日のリック邸は宴会に突入した。
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「救国の英雄の結婚である。王城にて執り行う!」
「「えええ~!!」」
国王陛下に呼ばれた一同は大騒動の第二段にいやおうなく巻き込まれたのだった。
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。




