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67.閑話:勇者トンズラ皇女フルボッコ

「あっれぇ~?最近皇女サマ見かけねえなあ?」

 相変わらず帝国宮殿内で好き放題の勇者ツヨイダ・カッタである。


 帝国を傾かせたこのクソッタレ勇者は殺そうにも殺せない。皇女が加護=超回復魔法を掛けてしまったからだ。


 呼び出した張本人の皇女は正気を失って修道院送り。

 帝国民は国を見限って逃げるばかり。

 強大な軍事力を恐れて帝国に従属していた各貴族領も帝都から逃げて、帝国は既に帝国の態を成していなかった。


 キリエリアを中心に鉄道、東西貿易、ラジオ放送に加え平民教育で発展を遂げている周辺諸国に比べると、テラニエ帝国だけがその発展に背を向けるかのように凋落の一途をたどっていた。


「こらやっぱもっぺん戦争やんべ?」

 アホな貴族が権威抑揚のためアホな事を思いついた。

「ンでも誰担ぐ?」「皇帝チキンじゃん?」「皇太子もチキンじゃん?」

 その通り、この帝国一度頂点に上ったものの、調子に乗って魔王領に手出ししてズッコケてからというもの、守りに入ってしまった。


「勇者担ぐべ?」

「ウェーイ!」「げ」


 この勇者の厄介さ、知っている者は知っている。

 普通の情報収集力と判断力を持っていた、帝都に残った数少ない貴族もダッシュで自領に戻った。

 残っているのは物事を自分の都合の良い様にしか見られないウェーイな貴族達であった。


 勇者派貴族は勇者を担ぎ上げる為

「キリエリア王国は小癪にも我がテラニエ帝国を征服する為魔王軍と共同戦線を画策している模様」

「是非勇者様のお力をもってキリエリアを粉砕願いたく」

「どうもあのリックとかいう小僧がその首謀者」

等々、無い事無い事吹き込んだ。


「チっ!あのクソガキかぁ!俺も気に入らねえって思ってたんだ」

「おお!」「では!」

「ああ!俺様がブっ殺してやんよ!」

「「「おおー!!!」」」

「んじゃまず、呪いの石をありったけ用意しろ!

 俺の極大魔法でキリエリアも魔王軍も消し去ってやらあ!」


「え?」

「え?」

「もうないっスよ呪いの石」

「え?」


「探しやがれー!!」「「「はいいー!!!」」」

「国民全員こき使い倒してでも探しやがれー!!」

「そ!それは!」「ァんだァ?」

「今は種まきの季節で!国民にとって一番忙しい季節で…」

「んなの関係ねー!キリエリア征服すりゃあ畑も麦もブン盗り放題だろがー!!」

「「「はいいー!!!」」」


 この無茶苦茶な命令、帝都を去った貴族達が従う訳もなく。

「NOMORE帝国」と諸貴族は正式に帝国からの独立を宣言した。

 本来ならここで帝国は反逆者として諸侯を率いて懲罰戦を行うのだが…


 今の帝国にそんな体力あるはずなかった。


「ふざけんなー!エクスプロージョン!!」

 勇者の癇癪で宮殿のシンボルであった尖塔が爆発し、倒壊した。

「もうおわりだよこのくに!!」

 皇族は後宮にひきこもり、勇者派を名乗った貴族もあっさり逃げ出し、帝都民も更に逃げ出した。


 一連の騒動は周辺諸国に衝撃を与えた。


******


「たった一人のドあほうのため、帝国がガッタガタになっちゃったわねえ」

 セワーシャが呆れて言い放った。


「国境では難民が溢れている。各国が協力して対処している。これも極大魔法難民の時にリックが対応策を固めてくれたお陰だ」

「それで今回リックさんは出向かなかったのねえ」

 デシアスの解説に、ブライちゃんをあやしつつアイラが相槌を打つ。


「俺はショーウェイの炊き出しに出るつもりだが、リック、お前はどうする?」


 ヨーホー公社はじめ国内の名だたる商会は難民支援に乗り出している。


「俺には俺にしかできない事があるさ」

 そう言ったリックの顔は、歪んでいた。


「帝国の不始末だ。皇族にケツを拭かせるさ」

 そう言ってブライちゃんの頭を撫で、

「ゴメンな、パパちょっと出かけて来るからな?」

 そう言うと、アイラとアイディーの二人の夫人の頬にキスをし、空に消えた。


******


「とり、とり、どこ?おーい、出して下さいよ~」

 すっかり向こう側の住民になってしまった皇女。


 そこに降り立ったリック青年。

「初めてお目にかかります、私…」

 男子禁制だろうが城塞の様な修道院だろうが、チートなリック青年は空から飛んでお邪魔した。


「ちょうちょ、ちょうちょ」


 皇女は正気を失って一人幸福な世界に閉じこもっていた。


「これは話が進みませんねえ。そこで電撃チェースッ!!」

「あびゃばばやびらぶれおあ!!!」


 リック青年は幸せな皇女に容赦なく電撃チェースッを浴びせた。


「お気づきになられましたか、皇女殿下。

 どうかこの様なところで御戯れにならず、あなたの国の危機をお救い下さいませ」


 意訳するとこうである。

「うっだらぁ!この全ての元凶があ!!こんなところで勝手に気ィ狂ってんじゃねえ!!」

 その秘めたる(秘めてない)殺気が皇女を串刺しにした。


「ヒイイ!たすけてー!たすけべれぼろ!!」

 更に10トン魔道貨車の様な殺気が放たれ、皇女に直撃!


「皇女様が異世界より召喚された勇者殿、少々度が過ぎていらっしゃる模様。

 お呼び下さった皇女様におかせられましては、是非お返し願いたく、参りました」


 意訳するとこうである。

「とっとと帝都に戻ってあのクソバカタレを元の日本に熨斗付けて送り返しやがれー!!」


「かえ!かえ!」「カエル?」

「カエセナイノヨー!!

 異世界から呼び出す魔法はあっても戻す魔法なんてナイノヨー!!」

 あまりの恐怖に失禁して正気を取り戻した皇女であった。


「それでは責任を囮になられ、いっそ皇配に迎え尻にでもお敷きになられれば宜しいかと」

「イヤー!あんなクソガキとなんて死んでもイヤー!」

「何とも無責任な。

 されど、尊き血は責務から逃れられぬ物と、御覚悟を」


 リック青年は皇女の首根っこをひっ捕まえて空に消えた。

「ギョアエエ~~~!!」

 カエルをすり潰した様な皇女の雄叫びは、あまりの速さのため聞えなかった。


******


 何か飛んで来た。その報せに宮殿は右往左往であった。

「勇者殿はおられるか?

 魔王軍からイの一番に逃げ出された、腰抜け間抜けの勇者、ツヨイダ・カッター殿のヘナチョコな御尊顔を拝しにリック・トリックが参上しましたよ~!」


 高速飛行のため凍り付いた皇女を掴んだままリック青年は玉座へと進んだ。

 と、そこに三人の少女。ツヨイダと同郷、日本人の様だ。


「勝太君は逃げました!」

 外道勇者、自分に向けられる殺意察知と逃げ足だけは一流だった。


「お願いです!私達は無理矢理戦いに巻き込まれただけです!日本に帰して!」


 泣きながら訴える美少女に、リック青年は微笑んで答えた。

「巻き込まれた?嘘を言いなさるな。

 この世界に原爆の原理で極大魔法、核分裂引き起こした、大量殺戮者、世界からの報復の対象ですよ?

 何百人被曝して放射線障害を発症していたかご存知ないと仰いますか?」


「それも勝太君に言われて!」

「黙っていれば宜しかったのですよ。知らないってね。

 ある意味、あの最悪勇者以上の外道、殺戮者かと」


「ううっ…」泣き出す聖女っぽい少女。

「罪人が被害者ヅラして泣きだすとは、加害者あるあるですねえ。

 皇女様?この大量殺戮鬼共も日本へ送還下さるのでしょうねえ?」

 笑顔でリック青年は皇女に迫った。殺意と共に。


「だから~、もどせないんだってば~」

 氷が溶けてズブ濡れの皇女がうめく。


「だそうですよ?虐殺者様」


「あンダッテー!!テメエーこのクソアマ!!騙しやがったわね!!」

 今までオヨオヨ泣いていた少女がブチ切れた。

「うっせえホイホイ騙されやがって!

 その上あの糞ガキに色目使ってた割に相手にされなくって!全く使えねえわね!!」

「ムキキキキー!!」

「ウガガガガー!」

 皇女は少女と取っ組み合った女の戦いは醜い。


「あ~そこのお二人!

 奴の行き先に心当たりは?」


「「ありましぇん!!」」

「本ッ当使えねえ!!」

 醜い争いを繰り広げる二人の首根っこをフン掴んで今度は皇帝の間へ。


「おお!よくぞ参られた王国のえいゆ…」

「フォルティーステラきーっく!」「ぶべらぼあ!!」

 リック青年が本気で怒れば皇帝だろうがお構いなしの顔面ヤクザキックだ。

 流石に皇帝相手なので、すぐ脇の、豪華な玉座を粉砕するにとどまったが。


「皇帝陛下にあらせられましてはご機嫌麗しゅう?」

 敬意などこれっぽっちも無い、小馬鹿にした様な侮蔑の表情でリックは挨拶した。

 これを咎めたり防いだりする衛兵などとっくに宮殿から逃げ去っていた。

 この瞬間、帝国の命運はリック青年1人が握ったも同然であった。


「悪逆非道なるツヨイダ・カッタが野に放たれた今、帝国はとっとと全国にあらゆる事実を公表し、あのクソガキを指名手配になされるのが肝要かとご指示申し上げます」

 最早丁寧語と命令がグッチャグチャになりつつあるリック青年であった。


「皇帝陛下以下、帝国のやらかしも!

 魔王軍に先に侵略なされた出した事も!

 異世界から外道な勇者どもを無理くり拉致した事も!


 ツヨイダの糞が真っ先に逃げたのも極大魔法やらかしたのも!

 今奴が魔王軍に取り入ろうと逃げ出してる事も全部!


 洗いざらい全部公表しろ!でございます」


「そ!そんな事をしたら我が国がうごげ!!」

 またも飛ぶリックの殺意!


「貴国は既に国の態を成してはおりませぬ。

 何とか国を再興したくお思いでしたら、洗いざらいゲロって周辺諸国全てに土下座し残った資産で賠償するのが唯一の道かと命令申し上げます」


「め、命令ではないかうげろごえ」

 強烈な殺意が皇帝の顔面に叩きつけられた!

 魔王軍より恐ろしいリック青年の殺意に、さっき迄醜く争っていた皇女と日本の少女が抱き合って失禁していた。


「こういう時、過酷な現実と向き合えるかどうか。

 それが失敗した物の明日を決めるのですよ?」


 そう言い残すと、リック青年は再度皇女の首根っこを掴んで空へ消えた。

「ぎょげえええ~~!!!」

 カエルが馬車に引き潰されたみたいな酷い鳴き声を残して皇女は消えた。


******


 キリエリア王宮。

 殺意をたぎらせたリック青年が海の方、その先にはテラニエ帝都へ消えるように飛んで行ったと英雄チームの報を受け、彼等と王国の重鎮が集まっていた。


 案の定リック青年が飛んで来た。何かを掴んで引き摺って。

 それを投げ出すと、何か凍った物体?が死にそうな顔。


「リック君、この、人?は?」

「ちょっと前の次期皇帝候補、アラウネ・ドームズデイ・テラニエ殿下です」

 その人物は美女、才媛、策術に長けたと評された…様には見えないボロ雑巾の様だった。


 リック青年は事の顛末を全て国王カンゲース5世に告げた。

 王は、いや居並ぶ一同は頭を抱え、決してリック青年を敵に回してはいけないと覚悟を新たにした。


「もうちょっと穏便に出来なかったのか?」

「穏便にしてきたツケが今回の騒動、そして次の戦争ですよ」


「次の戦争?まだ何かあるのか?」

 国王は気が気ではなかった。


「このクソ女が異世界から攫って来たクソ勇者がクソ帝国から逃げ出しました」

「後ろ盾を失った、と言う事か」

「そして新たな後ろ盾を得ようと無駄に足掻くでしょう」

「周辺諸国は団結しているが、一攫千金の賭博にでる国が無いとも言えない」

「その博打に乗りそうなのが…」


「まさか魔王国?!」

 全員、そんな馬鹿なと思いつつ、もしかしたら、とも思った。


「魔王との談判の場をご存じの国王陛下ならお判りでしょう。

 魔王陛下は立派なお方でした。


 しかし反面、戦い足りない、負けた訳じゃない、もっと暴れたい。

 そんな考えの脳筋どもが多数いた事と」


「そんな事をしてあの逃げ足勇者に何の得があるというのだ?」

「とりあえず威張り散らして満足できればいいんですよ、あのクソは」


 普段笑顔で困った人のために必死になってきたリック青年の、余りの口の悪さと歪んだ顔つきに、誰もが困惑した。


「あのクソはテメェのためなら人間全部を魔王軍の不満分子に売り払う。

 自分が人間の軍を蹴散らす。後は好きにしろ、その代わり俺を魔王軍の将軍にしろ、なんて売り込んでるでしょう」

 吐き捨てる様に、忌々し気に言うリック青年。


「しかしそれが通るだろうか?」

「まずはボッコボコにされるでしょうね」

「何と!」

「でも奴はこのクソ女が付与した恐るべき回復力があります。

 身も心もズタボロにされつつ、逆に媚を打って取り入って、最後には魔王軍の鉄砲玉にされるでしょう。

 万一ウラニウムやそれを上回る威力の放射性物質を与えられたら、大陸は破滅です」


 ウラニウム。

 悪魔の言葉に一同は肝を冷やした。


「君はどうするつもりだ?」

「まず、このクソ女に説得させます。ダメならこいつ諸共…」

「だめです!リックさん!あなたは人を殺しちゃダメ!」


 彼を止めたのは、アイラ夫人、彼女が抱えたブライちゃん、そしてアイラ夫人にしがみついているアイディー夫人。


「奴が極大魔法を放てば数十万人という人が殺される。

 それに俺の親父も母さんもコイツらのせいで惨めに死んだんだ。

 君だってひどい目に遭わされた!


 躊躇する理由はない筈だよ」

 怒りに燃えるリック青年の目を、アイラ夫人は真直ぐ捉えていた。


「あなたがおかしくなります!

 あなたの心が、そんなつまらない人のために傷つくのはイヤです!」


 アイディー夫人も抱き着いた。

「い、今のリック君。呪いに取り付かれた顔してるよぉ。

 いつものリック君に、もどってよぉ~」

 二人共泣いていた。


 ブライちゃんが、「ぱあぱ?いやいいやい?」アイラ夫人の腕に抱かれて、手を伸ばしている。


 リック青年は俯いて悩んだ。

「ヤツラを元の世界、日本に叩き返そう。この元凶と一緒に。

 俺は、俺の世界も、俺の心も守らなきゃ。

 君達と一緒に暮らす、俺達の家も!」


 リック青年から殺気が消えるのを、国王は感じ、安堵した。

 良い伴侶を得たことを、リック青年にとっても、我が国にとっても有難い事だと、二人の妻に感謝した。


「してリック君、いつ事を起こす?」

「1年後くらいかと」

「随分長く待つなあ」

 国王の問いに、いつもの穏やかさに戻ったリック青年が答えた。


「ヤツが魔王領に辿り着いて、脳筋軍団にボッコボコにされて、なんとか魔王陛下に会えて更にボッコボコにされて、そこまでで1年。

 脳筋軍団をそそのかすのはその後かと」

「そこまで奴をボッコボコにさせておくつもりか?」

「はい!」


 屈託のないリック青年の笑顔に、やっぱり彼と敵対してはいけないと肝に銘じる一同であった。

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