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65.プテロス対フォルティ・ステラ

「空の大怪獣プテロス」は、ただの怪獣娯楽映画ではなくなっていた。

 地方の有力者である辺境伯と王家の内政問題になっていたりする。


 ヨーホー大劇場では辺境伯家観劇と知って当地との貿易、特に石炭の取引を求める貴族達が集まって、ほぼ上位貴族貸し切り状態となってしまった。


 結果オーライ。

 王都での各劇場の入り、そして辺境伯領行きの観光特急列車、更にはヨーホー社を介した現地の高級旅館の予約が爆増している事に気を良くした辺境伯は、石炭の販売を積極的に推し進めた。


 この領主は武芸だけの人ではなかった。

 石炭産業がいずれリック監督が注力している石油産業に取って代わられる事を理解して、今の内に売れるだけ打っておこうと画策しつつ、他の一方で石炭ならではの生き残り策、石炭産業の生き残る道を模索しているのだった。


 それを理解しているリック監督は、王立学院での石炭のコークスへの加工、製鉄燃料としての高熱化について協議する場を設け、辺境伯に泣いて感謝されたとか。


「あんた…

 一つの行動に三つも四つも価値を付ける恐ろしい才能の持ち主ね…」

 聖女セワーシャが呆れつつ驚きつつ声を上げた。


「国や地方が栄えれば特撮映画のお客さんも増えるしねー」

「いやいや!そういう問題越えてんじゃん!あんたホントに財務卿の跡でも継ぐ気?」

「だから俺は特撮映画を撮って暮らすんだって!」


「はぁ~。あの武芸一本と言われた辺境伯が、こんな高度な売り込みをして、観光と石炭産業を延命させる土産持って帰ったなんてねえ。

 財務卿も諦めてないみたいだし、辺境伯からも養子の誘いか政略結婚の話が押し付けられたりしないか心配よ!」


「どっちもゴメンだよ!」


「うふふふ!あははは!」

「ちょっとアイラちゃん!あなたの事でもあるのよ?」

「あはは。大丈夫。そんな事で慌てたりしませんよ。

 よっぽど送られてくる女の子がステキな人でない限り、ねえ?」


 その時のアイラ夫人の眼差しは、プテロスの衝撃波の様な破壊力があったそうな。


「ハイ、アワテマセン」


******


「空の大怪獣プテロス」は製作費2千万デナリに対して興行収入は3億5千万デナリ。

 やはり天然色映画の集客力は大きい。

 パノラマスコープ、アナモルフィックレンズがまだ行き渡っていない頃なので、その本領が発揮できなかった「地球騎士団」より成績はよかった。

 しかしアイディーが不在がちにしながらも指揮している工房では続々とレンズが出来ている。

 スクリーンの幅を拡張した劇場も増えて来たし、人の集まる劇場の改装計画も最近の好収続きで進んできているという。


 それはさて置き、巨額を注ぎ込んだ特撮映画の大変な集客力。

 更にはセプタニマ監督の超大作。

 数年前の映画とは経済規模が何倍にも膨らんでいたのだ。


 特撮黄金期は、リック監督の目の前に来ていた。


******


 一方のショーウェイ。


 続いて公開された「星空の英雄 フォルティ・ステラ第二部」。

 こちらも前編以上に子供客が増えた。


 ショーウェイの大商会でのフォルティ・ステラの小公演は大好評のため各地で続き、そのため、第二部公開時には子供客が無茶苦茶増えた。


 何と興行収入5千万デナリ。

 前作以上に、父親に替わって母親が多かった模様。

 あと、若い女性。


 どうやら、「握手できる英雄」として、密かに女性達の間でアックス人気が沸き起こっているんだそうな。


「だから初期案の全身ショーツにすればよかったんだ」

 女性人気で下世話な方針を推した役員が苦言を呈すや否や

「大恩あるリック監督の助言を覆す事は私には出来ません」

 と、トレート氏は上司の言葉を一蹴した。


 穏やかながら決意の籠った言葉に、役員は黙った。

 世の中にはいつもは穏やかでにこやかで優しい人でも、一度意を決すると決して揺るがないという人がいるものだ。


「まあまあ。子供相手だからね。

 変な刺激を避けたいってリック監督の気持ちは有難く尊重しましょうね」

 ショーウェイの社長がやんわりと場を収めた。


 結局フィルティ・ステラの第三部・第四部の制作が決まった。

 予算は前作よりちょっと上がって二本で1千5百万デナリ。


 ヒット作に製作費を増やさない、釣った魚に餌をあげないショーウェイであった。


******


「利益率9倍のフォルティ、2倍弱のヨーホーに堂々快勝!」

「特撮の幻ついに終焉か?!」

「ヨーホー特撮、ショーウェイに惨敗!」


 評論家たちが躍った。

 今まで自らの見識が拙く、大ヒットを予測できなかった愚かな評論家がそれ見た事かとリック監督をこき下ろした。


 しかし翌週には、セプタニマ監督の「死ぬべきか」が製作費1億5千万デナリに対し、興行収入4億デナリ確実との報が上がって来た。


「この評論家とか気取ってやがるクソっ垂れどもに言ってやんなさい!

 セプタニマ監督、フォルティ・ステラに惨敗って必ず書けよ!って!

 書かなかったら事実無根の報道しやがった罪で解散命令出す様告訴してやるってね!!」

「し、社長、お言葉遣いが…」

「奴等は敵!これは戦争!気が狂った事言ってる奴らなんざとっととあの世へご退場願う!

 折角リック君やセプさんが開こうとしてる未来に、あの糞共なんざ要らないのよ!」

 役員を相手に酷い剣幕のセシリア社長。


「あんまり強権を発動して、批判を封じるとそれもよくないですよ?」

 と、リック家族3、いや4人。

「まあ!まあまあ!リックちゃん、アイラちゃん、アイディーさんに…」

 首が座った、アイラ夫人に抱かれた赤子。

「ブライちゃん?」

「あぱぱ」

 ニコっとするブライちゃん。


「まあ~!かわいい~っ!!」

 さっきまで鬼の様だったセシリア社長が慈母の微笑みを湛える。

「あぱっぱ、あやあや」

 何かを訴えてニコニコする乳児を前に


「私がばあばですよ?」

「え?社長?!」「ななな何て!」「畏れ多く存じます!」

 まともに返せたのはアイラ夫人だけだった。

「あぁあ?」

「そうですよ、ばあばがブライちゃんもパパもママも守りますからね?」

 そう微笑みかける社長に


「あぁあ!きゃっきゃ!」と笑うブライちゃん。

「かわいいわぁ~!ウチの子達も昔はこうだったのにみんな生意気になっちゃってもう!」

 この社長、デレッデレであった。


「は…そうだ!

 社長。愚かな評論に対しては、キチンと数字を並べて訂正要求を出しましょう」

「アイツらが応じる訳無いじゃない」

「ええ。応じなければ、掲載された新聞社に広告を載せている商会をヨーホーから排除すればいいんですよ、虚偽報道に連座した罪、って」


「ほ、ほうぅ?」

 リック青年とセシリア社長がニヤリと悪い笑顔を交わした。

「リックさん!ブライちゃんにヘンな笑顔を真似させないで!」


 アイラ夫人に抱かれたブライちゃんが

「ふぉ、ふぉお」

 と、中々に複雑な笑顔を浮かべていた。

「あらあら!いけませんわねえ、おほほほ」

「そうそう、こんな顔する大人になっちゃいけないよね~!」

 慌てて取り繕う二人であった。


 こうして顛末は穏便に…行かなかった。


******


「こんな恩知らずな事を書く様な野郎共はショーウェイ出入り禁止だー!!」

 ショーウェイではトレート氏がブチ切れていた。

「コイツらにどんだけリック監督が俺達を助けてくれたなんて少しも解っちゃいねえんだ!」

「いやいや、トレート君。彼らは知って書いてるんだよ?ウチを担ぐために」

 ショーウェイ社長が宥める。


「だったら…尚の事許せん!!ブチのめしてやる!」

 やっぱり怒ると怖い人だ。


「ちゃんと抗議入れとくから」

「こんな野郎共!資金を根絶やしにしてやりゃいいんです!!」

「わ、わかったから、わかったから!」


 まさか特撮をバカに出来ればいいと出汁にして担いだショーウェイから資金を断たれた新聞社が苦境に立たされ、急遽映画評論家たちを追放した。


 なぜこうなったか理解できないままショーウェイに詫びに来た新聞社の幹部は

「物を見る目をしっかり養って下さい!

 テメェのつまらないメンツなんかに捕らわれた物書きなんか、二度と雇わず、お客さんのためにこれは面白い、これは毒がある、好みが別れる、そう紹介して下さい!」


 社長判断で対応に当たる事になったトレート氏に檄を飛ばされた。


 こうして何とか事なきを得て、「フォルティ・ステラ」第三部・四部の製作が始まった。


******


「宇宙服装着!セット!」

 ぷー。

 ベルトのバックルを推すと音が鳴る。


「宇宙ヘルム!オン!」

 がちゃがちゃ。

 ビニール製のヘルムに、ゴーグルとマスクの部品を嵌めると、かちゃっとセットされてフォルティ・ステラのヘルムが出来上がる。


「宇宙から来た平和の使者、フォルティステラ見参!」

 住宅地の建設がすすむ王都郊外で、或いは地方の領都周辺で、建設用地の空き地に子供達が集まる。

 そこで子供達が始めるのは、フォルティ・ステラごっこだ。


 但し、第二部冒頭で「高い所から飛び降りたり、誰かを殴ったりけったりするのは絶対やめようね!」とフォルティ・ステラのメッセージが入って、無茶をする子供は少なかった。ゼロではなかったが。


 リック青年はゴドランのビニール人形を作る玩具会社で、ショーウェイと契約を結び、フォルティ・ステラの人形やヘルム、変身ベルトを安価で作成した。

 これも貴族から発注があり、魔石入りの発光・回転機能付きのもの、ゴーグル内蔵の物、さらに革製のスーツといった高級品も作られ、結構な商売になった。


 この年、ヨーホーとショーウェイ、プテロスとフォルティ・ステラどっちが勝者かと騒がれたが、何のことは無い、両方の玩具の販売を仕切ったリック青年の会社が勝者であった。

 それでも原価ギリギリの価格設定で極力安価に設定したのはゴドラン人形以来の伝統だ。

 まだまだ庶民の所得は低く、玩具など高嶺、いや高値の花だ。


 しかし、この時代の気分として、親は怪獣や宇宙に、はたまた生身で宇宙を飛ぶという破天荒な英雄に夢を見つつ、自分達が行った事がない学校に通って色々な話を家に持ち帰る子供達を見て、思った。


 いつか本当に星空へ行くんじゃないか?

 そうでなくても、飛行機に乗って他国に行くんじゃないか?

 鋼鉄船や鉄道で地球を一周するんじゃないか?


 そんな朧げな夢を見ると、農村では得ようもなかった高い給料の何割かを、自分の酒代だけじゃなく子供の夢の為払ってやるか、と思った。

 酒代我慢して長男ニコニコ、「サケガマチョーニコ」のキャッチフレーズが生まれた。


 その内、子供達には特撮映画のレコード、特撮映画の解説パンフレット、そして怪獣人形が「子供王国三つの宝」と大事にされる様になった。


 その幸せ度合いから言ったら、リック青年と子供達、これまたどっちが勝者か。


「売り手よし、買い手よし、世の中よし。

 三方良しが商売の秘訣ですよ」

 そう言って微笑んだリック少年。


 その言葉を知っている者は、怪獣人形や変身玩具で遊んで笑う子供達の姿を見ると、リック少年の笑顔を、ふと思い出した。


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― 新着の感想 ―
この国に赤提灯も◯川欽也も無いのでね、こうなりますよね。
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