64.フォルティ・ステラ、大商店で大奮闘
衝撃的な印象は無かったものの、ゴドランの名を世に定着させた「ゴドランの逆襲」に続き、騎士道活劇や古典活劇を得意とする新興映画会社、ショーウェイ社が子供向けに特化したかの様な、未来風騎士道活劇?未来空想映画?「星空の英雄 フォルティ・ステラ」を公開した。
従来の剣豪活劇との抱き合わせ二本立て、各1時間弱というなかなかの荒業である。
ショーウェイはヨーホーの様な海運、鉄道という巨大な後ろ盾を持ってはいない。
しかし魔道軍討伐終了後の復興の中で勃興した商社が、旅芸人や芝居小屋等と協力して興した、元気な会社だ。元気過ぎるかも知れないが。
元気過ぎて低予算・短納期で深みより勢いを、味わいより快感を重んじる、ヨーホーとは正反対の文化を持つ会社だ。
良くも悪くも旅芸人や芝居小屋の様な気軽さが色濃く残っている。
実は王都の二番館、多くがこのショーウェイの劇場で、自社の封切りの隣で他社の旧作を上映したり、中々カオスな事になっている。
そこに、「星空の英雄 フォルティ・ステラ」が封切りとなった。
果たせるかな、制作費1千万デナリに対して、4千万デナリ以上回収した。
しかもその結末は極大魔法で世界制覇を狙う悪党の、巨大な極大魔法装置が明らかになって、その破壊をフォルティ・ステラが決意して終わるという「次週にご期待!」というものだった。
但し製作費は前編と合わせて1千2百万デナリ、ほぼ前編から引き続き撮影する感じとなった。
しかしこの成績はショーウェイにとっては意外なものだった様だ。
後編に追加予算が認められた…
「もうそろそろ撮り終わるんですがね」
ペトロス監督のつぶやきにトレート氏が答えた。
「じゃあ、第二作目やりましょう!!」
後編、と言いつつ公開は1ケ月後。
「こうしちゃいられない!アックス様を呼べー!!」
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「また製作発表で飛び跳ねますか?
子供達が待っているのでしたら、私はどこでも行きましょう!」
英雄アックスは心の中までフォルティ・ステラになり切っていた。
すっかりゴキゲンになったトレート氏は
「制作発表の前に、ショーウェイ商会の大商店で子供達に挨拶をして欲しいと思うんですが」
「え?」
アックスは現実に引き戻された。
「俺、空飛べませんよ?
製作発表会みたいに操演がついていて、背中の釣り糸が見えたら子供達がっかりしませんかね?」
即座に子供目線で意見したアックスに、トレート氏も現実に戻った。
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「って事があってねえ」
授乳中のアイラがいるリック邸は、聖女セワーシャとアイディー夫人が交代でアイラを助けている。
男達はメイドや家人がいるデシアス邸で飲むようになった。
「あ、あんまりリックきゅんを頼りにして欲しくないよお~」
リック監督は「空の大怪獣プテロス」を撮影しつつ、妻子をよく助けた。
それでもアイディー夫人にとって他社に首を突っ込んだ事はあまり覚えがよろしくないらしい。
「空を飛ぶ必要はないよ。
舞台の袖から出て来る感じでいいとおもうよ」
「リックきゅんもほいほいって乗っかっちゃイヤ!」
ご意見番の聖女セワーシャがアイラ夫人の面倒を見ている分、ここは締めなければ。
そう思うアイディー夫人、結構厳しい。
「いつかは誰かが考える道だよ。
だったら危険が無い道を教えたい」
「無理のない範囲で、な?」
「ああ。こっちは最後の編集に入ってるんだからな、プテロス様よ!」
デシアスも嫌味なツッコミを入れる。
「まあ、舞台によっちゃあ、空も飛べるか…」
「「ダメだ!」よお~!」
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リック監督の助言は最低限なものとなった。
最初に司会の女性、騎士道活劇等で子供にも人気の女優…に似た感じの若手俳優が前振りで子供に挨拶。
皆でフォルティ・ステラを呼ぶと、舞台が暗転して悪の軍団登場!
悪の将軍が身勝手で色々矛盾だらけの口上を述べる。
ひるまずツッ込む司会者、矛盾に矛盾を重ねる将軍!
「こうなったらお前を妾にしてガキどもを我が軍団員にしてやる!」
「キャー!みんな!フォルティ・ステラを呼びましょう!せーの!」
「「「フォルティー!!!ステラー!!!」」」
主題曲が流れて颯爽と舞台袖から現れるフォルティ・ステラ!
映画終盤の戦闘はマスクに覆われ目元しか見えないが、ここではバッチリホンモノのアックスだと解る。
軍団員をやっつけて、司会の女優を救う。
司会が子供達と遊んで欲しいと頼むと、子供達とクイズ大会。
宇宙の知識や鉄道、飛行機といった子供の話題、それも簡単な物を出す。
勝ち残った5人の子供に、リック監督謹製のフォルティ・ステラ人形をプレゼント。
最後に子供全員達と握手。
そういう予定だった。
「フォルティ・ステラ、当商店に来たる!!」
そう宣伝されたこのイベント、無茶苦茶大好評で、親子連れの行列にショーウェイ大商店はパンク寸前となった。
1回だけの舞台の予定を急遽3回に増やした。
心配になって見に来たリック監督が責任者のトレート氏に意見した。
「こんだけの人数3回捌いたらアックスでも倒れます!
そちらの若手で背格好似た人3人、いや出来るだけ!
予備のスーツと顔が見えないマスクを3つ用意して下さい!」
「しかし殺陣の練習なんて出来て…」
「初回の殺陣は俺がやる、若手は待機させて、俺が教える!」
「しかしあなたじゃ背丈が…」
「身体強化魔法!憤怒ッ!!」
リック監督は魔力で背丈や肉付けを増強した!!
「ほ、ほあああ~!!」
「持って数日です!早く呼んできて!」
「おいリックお前!!」
「ああ、アックス。最初は映画みたいに貴族っぽい衣装で出て来てくれ。
照明消したら光魔法でバシバシ点滅させながらフォルティ・ステラのスーツを着た俺が替わる。
殺陣が終わったら顔出しヘルムでまた交代だ」
「ちょっと待て、俺の出番が…」
「子供達は映画の中のフォルティ・ステラと握手を楽しみにしてるんだ。
その夢を叶える事を第一に考えてくれ!」
「お前って奴は…」
アックスは役者魂より、集まってくれた子供達に応える事を優先し、リック監督の提案に応じた。
「その割り切りも、役者魂だよ」
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こうしてこの日のフォルティ・ステラ握手会は無事捌き切り、子供達は憧れの銀幕の超人と握手して大喜びで家に帰った。
呼び集めた若手俳優はトランポリンでの空中回転やバック転が出来ず、結局三幕ともリック監督が身体強化魔法で乗り切った。
結局アクションはリック監督、クイズ大会と握手はアックスで分業する形となった。
「はあ、り、リックの言う通りだった。子供、スゲェ…」
クイズで登壇して最後の質問に答えようとはしゃぐ子供を抑えつつ。
握手の時に興奮する子供を宥めつつ。
「あんだけの人数の、元気の爆弾と一人ずつご対面だ。お疲れな、兄貴!」
「お、おれは、カン違いしてたよ…」
リック監督の想いと、英雄アックスの想いにはズレがあった。
「みんな、すげえんだよ!
俺が、人間じゃない、本当に宇宙から来たフォルティステラだって…
俺、子供達に嘘ついてるんじゃないのか?」
英雄アックスの震えにリック監督はやっと気が付いた。
「俺が酒場で誰か殴っちまったら、子供達の夢をブチ壊しちまう。
俺、セワーシャと結婚したら、子供達の夢を壊しちまわないかな?」
アックスは半ば正気を失っているかの様だった。
「いい経験したじゃないか兄貴!」
「冗談じゃねえ!俺はただの男だ!
意地も汚いし亜役セワーシャとも結婚したい!
でも、あの子達の夢はな!
…すげぇ純粋なんだよ!」
アックスは泣いていた。子供達が自分に向けた眼差しの力を受け止めて、必死に伸ばした手を受け止めて、いや受け止め切れずにいたのだろうか。
「あのな兄貴、英雄だって同じだろ?生き死にがかかわってる分英雄やってた方が偉いって!」
「でもなあ、あんな多くの子供達の夢中な眼差し、初めてだ!」
「いや。ゴドランの時も同じだよ。視角限られてたからわかんなかっただろうけど、子供達はこの世の物とは思えない物を見て、興奮したり怖がったり、大変だったぜ?
何を今更!怪獣から空想の英雄に現実の英雄まで何でもござれ!
それが俺の兄貴、アックスだぜ!!」
気付けば、リック監督も泣きながらアックスの背中を叩いていた。
急ぎ呼び出された俳優達は、向こうでトレート氏に怒鳴り倒された。
「聞いたかお前達!!
お前達が下手物って言ってたものの本当の姿が解ったか!!
未熟者!青二才!!
子供達の夢、舐めんなー!!」
いつもの穏やかさとは全く別のトレート氏の本気だった。
しかし、その目は二人の話を聞いていた所為か、涙を流したままだった。
「俺、本当の英雄になれたかな?」
「会った時から兄貴は本物の英雄だ!
子供達と、あの人の期待に応えられる様にならなきゃなあ」
トレート氏、今度は大慌てでリック、謝礼と言ってショーウェイ商店の商品券をなんだか束にして持って来た。十万デナリ以上あって仰天し、全部二人の夫人に渡したという。
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後日、「空の大怪獣プテロス」が封切りとなった。
で、リック監督は辺境伯領にいた。
何と初回上映の前に辺境伯自らが挨拶を行い、領都大劇場の大ロビーには駅大商店とプテロスのヌイグルミが展示されていたのだ。
地元民にとっても一度は行って見たくても中々足を運べない風光明媚な景色がロケと特撮で再現されている。
その雄大な風景の中から現れる巨大な鳥の様なプテロス!
金管楽器が鳥の叫び声の様な主題を奏でる中、プテロスが飛び立つ、地上を走る魔道車はその衝撃で回転して付近の巨岩に激突!
経験を積んで熟達した操演の技術ならではの場面だ!
皆が憧れる未来の象徴の様な飛行機が雲の上で超高速でプテロスを追い、戦う!
今まで怪奇調だった音楽が一転して軽快なアレグロに替わり、未だ実用化されていないプロペラの無い最新戦闘機隊の追撃を音楽で表現する。
完成間もない大鉄橋がプテロスが飛び去る衝撃で真ン中から引っ張られる様にへし折られて海に没する!
飛行機隊の攻撃でついにプテロスは領都に降りた。辺境伯宮殿も衝撃波で半壊!
今まさにこの映画を上映している大商店を舞台に戦車隊がプテロスを攻撃、周囲の商人街が炎上!
リック監督が原譜を書き、ナート師が完成させた異世界の激しい音楽が激しい攻防を盛り上げる!
最後、この地方の象徴でもある大火山がロケット攻撃で大噴火!
溢れる溶岩、映像を見ているだけで伝わる熱と光!その中で力尽きたプテロスが倒れ、焼き殺されて行く。
「各隊は直ちに撤収」
またも軍司令役に出てくれたスクさんの号令を冷静に復唱する部下。
巨大な怪獣とはいえ、非業の末路に泣くヒロインのシンちゃん。
ゴドランの時とは違う、優しさに満ちた葬送の、プテロスの主題を変奏したとは思えないエンディング曲。最後まで火薬の噴火と溶鉄の溶岩を流しつつ、映画は終わった。
大喝采が沸き起こった!
ここはこの映画の、まさに地元である。
地元民ならではの感慨があるのであろう。
王都での反応や如何に?
辺境伯は来賓リック達とともに、延伸間もない鉄道で王都へ向かった。




