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6.追加撮影、大見学会

「やったよアイラ!企画が通ったよ!」

「おめでとうリックさん!でもこれから大変ですね!」

「ああ!夢の第一歩だ!頑張るよ!」

 少年は5つ上のと婚約者と抱き合うが、それは夫婦(予定)というより姉弟の様だった。


「やったなリック!俺達も手伝うぜ!」

「アイラ、コイツら無茶しすぎないようにシッカリ見張りましょうね!」

「こ、こんどは立体音響?て、天然色?」

「アイディーも無茶言わないの!」

「全くだ。漸く夜間攻撃シーンを綺麗に撮影する事が出来たばかりだというのに!

 感度低いフィルムで高速カメラ廻す身にもなってくれ!」


 アックス、セワーシャ、アイディー、そして男爵令息のデシアスまで当然の如くリックの家にいた。

 彼らは撮影所付近に建設中の家の完成を待たず、撮影所の宿舎に転がり込んでリックの映画の手伝いをしていた。

 6人の大所帯をアイラとセワーシャが切り盛りし、アイディーは撮影プランの具体化を、アイラは彼らの面倒と撮影にGOがかかった時に備えて関係各所への協力要請を行っていた。


「よし、先ずはえ~、何だったっけ?」

「決起集会だ!今日は飲んで夢を語ろう!」


 こうして恒例の宴会が始まった。

「やっぱ怪獣が街を壊してスーパーメカニックが空飛んでクラッシュして!

 大洪水がズバーっと来て巨大建築がガシャーって崩れてあちこちでバシバシってスパークして!」

 非常に物騒な事をリック少年は楽しそうに言う。


「俺はお前が言う、そのスーパーヒーローにシュバババーって変身して空中一回転で敵のバケモノ蹴り倒してだな!」

 アックスは役者になりたかった、というか暴れたかった。

 実は「敵艦隊殲滅」でも画面の隅で怪我人を担いで運ぶエキストラとか敵に砲撃する水兵なんかで出演していたりする。


「あははは!アンタたち、さっきからガシャーっとかシュバババーって何よ!子供みたい!」

 会話に擬音や擬態語が増えるのがこの宴会ならではだ。


「さ、サウンドトラックをね、左右二本にしてね、そんで右と左に音を分けて拡声器に音を流すんだけどね」

「単純に再生する機構を二つに増やすか、一つの機構で左右の音を分けるか。

 先ずは前者で立体音響の魅力を広めて、左右分派機構の開発研究費を募るのが無難でしょうか?」

 天才アイディーと、平凡ながら温和で努力家のアイラも仲良く映画の新機構について話の花を咲かせる。

 アイディーの発想を実現するため、アイラは的確な指摘を考え、リックと共に実現してきた。


「あ、アイラちゃん流石。お金の事苦手なの」

「実際に難しい機構を考えてるのはアイディーさんよ。私はお手伝いしてるだけ」

「あ、アイラちゃん、好きー」「うふふ!」

 アイラもアイディーが好きだった。


 素晴らしい才能を持った姉の様な、手のかかる妹の様な、何よりリックと一緒にあれこれ問題を考え、解決していく時間が好きだった。


「お前達本当仲がいいなあ…」

「そういうデシアスは故郷に帰らなくてもいいのかよ?てか帰られたら困るけどよ!」

「帰らんよ」

「どうしてよ、実家からしたら救国の英雄、剣聖なんて家格爆上げの主役なんじゃない?」

 デシアスは貴族ながら、色々複雑だった。


「嫡子は兄だ。俺は剣聖としては国王陛下に殉じる。それ以外は好きにするさ」

「そっか、ゴメン…」

「何を言うか!俺はリックの夢をかなえる従者だ!

 俺達はこうもカンタンに平和と繁栄をこの国に齎したリックの手足になると誓ったんだー!」


 堅物であり魔王討伐で敵も味方も震え上がらせた剣聖も、酔えばゴキゲンである。

「敵の魔物を次々切り倒す!知性ある将と見るや目にも止まらぬ剣戟で打ち倒し、その心の内を聞き出す手際!10歳にして英雄と呼ばれるに相応しい!」

「その話百回以上聞いたぞー」

「何度でも言ってやる!俺はリックの子分だー!」

「じゃあ助監さん達ビビらすのヤメテよー」

「ぐはあっ!!」

 リックを師と崇める余り、動きの鈍いスタッフを叱り飛ばし、時には騎士団仕込みのビンタをかまそうとするので、あわててリックに止められる事すらあったりする。


「わ、解りました!」

「これ絶対わかってないわよねー!キャハハ!」

 気遣いの人、聖女セワーシャも酒が入れば笑い上戸。


 眼鏡の似合う美少女アイラに、長髪がモジャモジャしていながら素顔は美人のアイディー。そして絶世の美女と呼ばれたセワーシャ。

 筋肉イケメンアックスにクールでダンディなデシアス、そして愛嬌ある少年リックとあって、復興中の街中で彼等が酒盛りすると色々な人が寄って来て大盛り上がりだった。


 ケッ!


******


 翌日、彼らは事前に用意していた撮影計画を実行した。

 そして、撮影以上に面倒な、海軍士官向けの見学会の準備も計画した。

 海軍からの見学、それは海軍が出資を決める前に参謀部で決まった。


 その時、海軍内ではパイロットフィルム「敵軍港撃砕」が繰り返し上映され、多くの士官がそれを見ては感激していた。

 

 しかしそれを良しと思わなかったのが、真っ先に支援を決意した筈の海軍卿だった。


 少ない海軍予算を支援に回すかを問う会議の席で、多くの海将が

「海軍の威を示すべき」

「魔王討伐で株を上げた陸軍に対抗すべきだ!」

 等と怪気炎を上げていた。


 それを前に海軍卿の表情がみるみる曇っていく、というか眉間に皺が深く刻まれて行った。

 そして。


「貴様らが描いた地図は間違いばかりであった!

 正しい測量が成され、正しい地図であれば!魔王討伐戦で海軍も陸軍を援護できたはずだ!」


 魔王討伐戦で、海軍は無力だとされていた。内陸の戦いだと思われていたからだ。

 だが実際は軍艦が大河を遡上していれば、もし大河から砲撃を行い、敵の一部でも牽制しておけば戦いは有利に進んだ筈だった。


 その不手際もリック少年の活躍で追及される事も無かったが、海軍卿も大将として現地に居た国王陛下も、その不手際をどうしたものかと悩んでいたのだ。


 そして国王陛下曰く

「リック君の映画が描く海軍の方が立派だ。

 いっそ模型の艦隊に鍛え直してもらえ!」

という、面目丸つぶれな一言だった。


 激怒する海軍卿を前に、一同は凍り付いた。

「士官は全員!撮影所に行って敵軍港の精巧な模型を作った特殊技術の知恵に学べ!

 物を作る時、何かを考える時、何が必要で何をすべきか!

 軍人でも士官でもなく、人として当たり前のことを学び直して来い!!

 有意義な研究を報告出来ない愚か者は水兵から叩き直してやる!」


…というウソみたいな一幕があっての事だった。

 これを後に聞いたリック少年は

「どこかの宮様かよ」

 と意味不明な事を言って苦笑したそうだ。


 しかしこの海軍卿の判断は正しかった。

 可能な限り情報を集め、その限られた情報から類推して、数学的・測量的に検証した結果作られた敵軍港の地図、そして模型。

 これを目の当たりにして、これだけの情報収集、分析能力があれば海軍の失態は免れた、そう後悔した士官たちは激しく落ち込んたのだった。


******


 海軍士官たちが見学したのは、屋外のプールに面して再度作られた敵軍港と、詳細に再現された、敵の陸将が艦隊司令をやらされた旗艦の10m模型だった。


 特に敵軍港を当時の絵図と不正確な地図、今のやや正確ながら細部を隠した地図を繋ぎ合わせて、映画用に遠近法を付けて再現された大規模な模型は、その設計プロセスを記録した印刷物を配布されて詳細に説明された。


「特撮はとどのつまり、嘘です。

 なのでバレます」


 見も蓋も無い、一同はそう思った。


「だから、すこしでもバレない様、必死に事実を調べます。

 そして現実を再現すべきか、映画としての見栄えを考えるべきか検討します」

 正直だなあと思いつつ一同は聞く。


「後は、決断です。

 例えば史実では転覆して水没、水中で爆発した船がありました。

 映画はそれを再現すればそれでいいのか?

 いっそ洋上で華々しく爆発させた方がよいのか。


 敵艦の最期をこれから追加で撮影しますが、史実では浸水して前につんのめって沈没したみたいです。

 それでは敵将の無念は語れません。俺は嘘の映像を撮るつもりです。

 その決断の責任は監督である俺が負います」


 正直すぎるなあ、と一同は感心した。


 多くの士官が「映画の嘘と史実」について報告して「そりゃ映画会社の論文だろうが!」と海軍卿に怒られた。

「伝承と実態の相克」程度に絞って報告した者は観戦武官に推薦され、肝心の「戦略の基礎たるべき情報の整理」について報告した者は優秀として評価された。


 更に「湾岸部測量手順・伝記、絵図に見る補足情報の意義」と題した、リック達の模型=ミニチュア作成技法を敵地測量に応用した論文を書いたものは今後の将軍候補として厚遇された。


******


 肝心のリック少年と英雄チームは、連日の士官たちの応対に、撮影以上に疲弊してしまい、後日海軍卿から多大な見返りを贈られたそうだ。

「毎度あり~」

 勿論リック少年はそれを次回作の予算と、愛するアイラ嬢への贈り物に回したのだった。


 もしお楽しみ頂けたら星を増やしていただけるとヤル気が満ちます。


 またご感想を頂けると鼻血出る程嬉しく思います。

 なおご感想は本作に関係した物をお寄せいただければ幸いです。

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