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58.アックス引き抜き?事件

「え~。すぐに取り掛かれる訳でも、その辺境伯にご挨拶に行ける訳でもないのですが」


 翼竜プテロスの飛び人形、ヌイグルミの写真、各種デザイン画にピクトリアルスケッチを前に、リック監督はセシリア社長にプレゼンしていた。


「上出来よ…上出来過ぎて。

 アイラさんほっぽらかしてないか心配になるわね」

「彼女のすぐ隣、リビングで書き物してるだけですから」


「くれぐれも、奥様に支障がない様にね。

 先方へのプレゼンは私がやるけど、質問を纏めてお家へ届けさせるわ」


 こうして飛行怪獣プテロスの企画会議もセシリア社長にブン投げたリック監督。


「ただいま~」とウキウキで家に帰った。

「ちょっとリック、いい?」


 玄関で待っていたのは、聖女セワーシャ。

 どうやらただならぬ様子。


「アイラちゃんには聞かせたくないのよ」

「ああ。アックスの事?」

「何でわかるの?」

「セワーシャがそんな顔するのにアックス以外何があるって…」

「うるさいわね!!」


 一旦家に戻って、食事を済ませて「ちょっとアックスに会って来るよ~」と出発。


******


「で、何があったんだよ兄貴」

「セワーシャ!何で…まあ黙ってる訳にはいかないよな」

「リック、ごめんなさい。大事な時に」

「早めに解決した方がいいでしょ?」


「ありがとうね…。実はね」

 セワーシャの話を割って、アックスが告白した。

「俺に、役者にならないかって誘いがあったんだ」


「そりゃいいじゃん!!」

「「え??」」

 リックの嬉しそうな笑顔に、二人は唖然とした。


「だって『聖典』で始めの男を演じたし、イケメンで筋肉隆々だし!

 凄く器用だから役者になれば当たるよ!」

「いや待てリック!そう言って来たのはショーウェイ!

 ヨーホーのライバル会社なんだよ!」

「いいじゃないか!ヨーホーは兄貴を主演になんて言ってこなかっただろ?

 こういうのは早い者勝ちだよ!」

 凄くはしゃぐリック監督を前に、アックスは困った。


「リックお前…俺がいなくなってもいいのかよ?!」

「え?いなくならないでしょ?」

「「え??」」


 二人の葛藤は、今までリックのため、或いは王家に連なるセシリア社長のためヨーホー作品に関わっていたところをライバル会社で主演張った日には、それは裏切りだろう?!という一点にかかっていた。


「兄貴がゴドランや次のプテロスをやりたくない、顔出しで主役やりたい、って言うならその夢を叶えて欲しいよ。

 もしゴドランやプテロスやりたい、その後でショーウェイで主役やりたい、って言うならその通りにすればいいじゃない?」


「あのなあ、そう簡単に…」

「元々俺達はヨーホーに身銭切って企画を持ちかけて、利益を齎した身なんだよ。

 きっちり説明して、筋を通せばいいだけの話だよ!」


「筋を通す…」


「勿論、ショーウェイにも筋を通してもらうよ。

 一緒に話を聞きたい。どんな役を演じるのか、どんな作品を考えているのか」

「それはだな…」

「あの人に直接話してもらいましょうよ!

 もしあなたがその気なら直接セシリア社長に話に行くって言ってたじゃない?」


 随分馬鹿正直な引き抜きもあったものだなあ、とリック監督は感心したそうだ。

「じゃ、俺はアイラとアイディーのところに戻るよ」

 二人は、帰っていくリックに深く頭を下げた。


******


「リックさんの言う通り、アックスさんの夢が一番大事ですね」

 翌朝、リック監督は段々歩くのも大変になって来たアイラ夫人に顛末を語った。

「話してくれてありがとう、リックさん」


 しかしアイディーは不満そうだった。

「アックスのやつぅ、リックきゅんのライバルになるつもりかなあ?」

「そうなりゃ全力でぶつかればいいさ。

 その方が面白い映画が出来て、楽しむ人が多くなる」

 相変わらずリック監督は、映画界全体の未来を見ていた。


「はぁ…やっぱりリックきゅんはリックきゅんねえ~。好き」

「そうよ。リックさんはアックスさんと正面勝負すれば、とっても面白い物を世の中に作ってくれますよ!」


******


「俺は許さん!」

 アックス邸で怒鳴るのは剣聖デシアス技師。

「てめえ!リックの恩を仇で返すのか?!」

「いや、全力で恩を返す!」

「何だと?」

 襟首をつかみ上げるデシアスから視線をそらさずにアックスは答えた。


「俺に特撮や空想の映画の面白さを教えてくれたリックに!

 俺はヨーホーでも、別の場所でも、出来る事をやりたいんだ!!

 もっと多くの人達にリックの夢を解って欲しいんだよ!」


 その真剣なまなざしに、デシアスも力を緩めるしかなかった。


「兄貴。って事は、ショーウェイも特撮作品を作るのかな?」

「ああ。俺に会いに来たトレートさんってショーウェイの製作担当は、もっと空想映画、星空の映画を作りたいそうだ」


「いい加減な映画だったら許さんぞ!」

「まあ、それはその人に会って話を聞こうよ」

 リックはカタブツのデシアスを宥めるが。


「アックス。俺にはな。

 ヨーホーでゴドランやって、ショーウェイで主演俳優やって、その上生活の色々なんて器用な真似、絶対無理だって思ってる」

「「そうだ」よ」ねえ~」」

「ヒデェ!!」

 リックもセワーシャもその点はデシアス同様心配した。


「もしお前がそんな八面六臂の活動したいって言うなら、友人として言わせてもらうぞ?」

 デシアスは真剣だ。

「よし!聞くぞ?!」

 アックスも真剣に答えた。


「お前ら結婚しろ!」

「「え」」

「そう来たか」


 固まったアックス、セワーシャご両人を前にリックは納得していた。


「セワーシャ、お前だってコイツの夢を応援したいんだろ?

 だからアイラちゃんを抱えてるリックに相談したんだろ?」

「え、ええ」

「もう気持ちを固めて、このアホがどこまで行けるか守っててくれないか?」

「デモデモダッテ」

「んな事言ってるとこいつモテモテになって誰かのいい子になっちゃうぞ?!」

「それはイヤー!!」


「セワーシャ。

 アニキを頼むよ」

「何で私が決意を迫られてるの?!」

「そこでボケーってしてるアホの面倒見てやれんのはお前だけだからだよ!」

「アニキをよろしくね?!」

「うひー!」


「ね、ね、みんな。あっち行こ!」

 アイディー夫人がリック邸に一同を招いた。


******


 企画会議室になっていた広間はきれいに掃除され、ゆったりとしたソファにアイラが待っていた。

「アイラ!」

「ああ…心配かけちまってごめんな」

 二人は申し訳なさそうにした。


「いいえ。ずっと同じような毎日でしたから、おめでたい事があって、久々にうれしくなっちゃいました!」

「「はあ~」」

 既に母の様な包容力を身にまとっているアイラに癒される一同であった。


 そこに普段女性らしい事などする事もなかったアイディー夫人が、酒やつまみをワゴンに載せて持って来た。

「ちょっとアイディー!」

「アイラちゃんは、リックきゅん特製ドリンクだよ~」

「そ、そうよね…」

 妊婦に酒を飲ませる外道はいない。


「凄いぞ、アイディーがまるで気遣いできる女性の様だ…」

 デシアスが随分失礼なことを言うが、まあそれも彼女の素行を知った仲間ならお察しなのだが。


「えっへん!アイラちゃんのご指導をうけたのだぁ~!」

「ホント、ディーには助けて貰ってるんだよ?」

「はうう!リックきゅん、好きぃ~」

「な!…アイディー、変わったな…」

「えっへん!リックきゅんとアイラちゃんに色々教わったんだよぉ~」

「はは!すごいなアイディー!」

 何と言うか、幸せな空気が広がっていった。


「兄貴、覚悟は出来たか?」

「ああ!俺は主役を張るぜ!」

「「そっちじゃねえよ!」」

 リックとデシアスが揃って突っ込んだ!


「え?」

「それはショーウェイの話を詳しく聞いた後だよ!」

「お前は先ず、身を固めろって!」

「そ!そうだ!」

「ふう~」「だめだねえアックスはぁ」

「色恋沙汰でアイディーから駄目出し喰らった!」


 気を取り直してアックスはセワーシャに向き合った。

「こ、こんな二人っきりでもない場所ですまない」

「い、いいわよ。そうでもないとアンタそんな事言わないでしょ?」

「「「うんうん」」」

「うるせえ!」

 中々にコントの様だった。


「で、だな。

 セワーシャ。俺と結婚してくれ。

 二人で幸せになろう。

 俺は自分の夢も、リックの手伝いも、お前の幸せも、

 全部叶える!!

 一緒になってくれ!!」


「はい!私はあなたの手伝いをするわ!

 ちゃんと、みんなで幸せになりましょうね?!」


「「「うおー!!!」」」

「良く言えた!」

「決まってるぜ兄貴!」

「お二人ともおめでとう!」

「よかったよお~!よかったよお~!」


 幸せな空気に包まれた6人。

「あら?」

 その時、アイラ夫人のお腹が震えた。

「あらあら!この子ったら!うふふ?」

「どうしたのアイラ?」

「ブライちゃんも二人の結婚を嬉しいって言ってるわ?」


「え?」「解るのか?」

「もちろんよ。パパがいなくて寂しいよ、って。

 ディーちゃんも一緒で楽しいね、って。

 お腹の中で踊ってるみたいなのよ!」


「はわわぁ~」

「あ、赤ちゃんって、すごいな」

「ああ。だから生まれる前から幸せな家でいなくちゃいけなんだ。

 子供は全部知ってるんだ。

 俺達は責任重大だよ!」


「ブライちゃんって、男の子?」「ええ」「解るの?」

「パパがそう言うんだもの、間違いないわ」「ああ~」

 リック監督は人体の中を見通して最高の治療を施す魔力を持っている。

 そんな彼が言う事に疑問を持つ仲間はいなかった。


「次はお前の番だぞ、アックス」

「あ、ああ!」


 この夜ばかりは、久々にリック一家が集まって祝杯を挙げた。

 無論、深酒する事なく宴は終わった。

 次は、馬鹿正直に引き抜きに来た、ショーウェイ社の製作担当、トレート氏の話をきく段だ。


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