表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/302

56.怪獣決闘!思わぬ功罪

 リック監督曰く、成熟してある程度世間に知れ渡った安定した技術を「枯れた技術」と呼ぶらしい。

 身重のアイラ夫人を労わり、監督としての労働時間を縮める決意をした彼にとって、予算や撮影期限の厳しい「ゴドランの逆襲」は、その「枯れた技術」で制作された。


 しかし、世の中には面白いイタズラというものがあるものだ。


 ゴドランとアルモザス、港町の鉄道基地を破壊しながら取っ組み合う。

 その先には巨大な鉄道工場!

 その時、高速度撮影をしていたカメラの駆動音が低くなった。

「カーット!カメラ故障!アクション中止!中止ー!!」


 デシアス技師が両腕でバツを作る、周りもそれに習ってバツを作る。

 しかしアルモザスの中の人、デシアス技師の後輩の騎士は良く見えていなかった。

 デシアス演じるゴドランにジャンプして突っ込んだ!

 向うも中の人と合わせて100kg近い質量の塊だ。

 ゴドランとアルモザスは仲良く大きな工場を下敷きに倒れ込んだ。


「バカヤロー!何やってんだ!!」

 アルモザスに向かってブン殴りに行こうとしたデシアスの前にリックが立ちはだかった!

「まあ、現像してみようよ」


******


 デシアス技師は気が気じゃなかった。

 リック監督の負担を少なくし、アイラ夫人を労わる時間を作る。

 撮影に失敗したら台無しである。


 現像室から出て来たリックは、なんだかすごくニッコニコだった。

「こりゃ運命か?神様もよっぽど特撮が好きなんだねえ」

 デシアスは少し緊張を解いた。


 そして映し出される格闘場面。

 無数の線路と車両の向こうで戦う二匹。ロングのカメラに問題はない。

 デシアスが故障を訴えたカメラは、牽制しあう二匹、ぶつかり合った!

 そこから、動きがゲチャゲチャと激しくなった!

 頭突きを繰り返すアルモザス、そのだけ気を喰らうゴドラン!

 そして倒れ込んだ二匹は大工場に雪崩れ込んでペチャっと潰した。


 しかし大工場崩壊の瞬間を撮影していた他のカメラはちゃんと高速度撮影で崩壊する様を捕えていた。


「これ、溜める場面は高速度撮影で、いざ取っ組み合いの接近戦になったら若干低速度で撮って、緩急つけるの面白くない?

 ていうか、まんま俺の知ってるハプニングなんだよね、これ。はははッ!」


 凄く嬉しそうなリック監督を見て、この先どうなる事かと思っていた一同は脱力し、

「「「ははは…はははっ!!!」」」と笑い合った。


 それでもデシアスは納得いかなさそうだ。

「機材の故障は撮影班の、俺の失敗だ。リック、殴ってくれ」


「あのねえデシアス。どんなに整備してもカメラって難しい機械だから失敗はあるよ。

 どんなベテランだって上手く行かなかったり失敗はあるんだよ。


 安心して。

 撮り直しが効かない場面でももう一度撮れる様に予算は確保してある。

 だからね」


 ここでリック監督は凄く厳しい表情になった。

「二度と失敗した人を殴るな!」

「はっ!!」

 この瞬間、多くのスタッフはリック監督への忠誠心を固くした。


******


 安定期に入ったアイラ夫人のため、リック監督は妊婦のための食事を工夫した。

 子供の体を作るため母胎に必要な栄養を、異世界の知識を手繰り寄せて用意した。

 そして清潔にした温泉で体を休めさせ、固くなった筋肉をほぐすマッサージを行った。

 妊婦には禁忌となる部位もきっちり抑え、記録した。


 公衆浴場などは感染症のリスクもあるので、清潔な個人用温泉か風呂を推奨。

 胎児に影響がある部位へのマッサージは禁物。


 リック監督不在の日中に、食事やトイレ、移動の世話を甲斐甲斐しくしてくれているアイディー夫人にも入浴後のマッサージを欠かさない。


「はふうう~。リックきゅん、好きぃ~」

「うふふ。まるでディーちゃんが妊婦みたいね」

「そのうちそうなるよ。そうなったら二人でディーを守ろうね」

「はい!」


「ぬを!私が何かする必要もないみたいね」

 やって来た聖女セワーシャ。

「セワーシャ様、お気遣いありがとうございます」

「いいのよお!」

「それよりリックさん、今日は何かやっちゃいませんでした?」

「それがねえ、デシアスの奴がドジこいてさ!」

「何それ?珍しいわね!」


 クラン撮影所周辺の夜は賑やかだった。


******


「私、アイラさんのお見舞いに行きたいのですが」


 思わぬ社長の申し出にリック監督は驚いた。


「王女様をお迎えなんてできませんよ」

「今は社長と社員の関係ですよ。妊婦にもいいお茶でも頂ければ充分です!

 それに前のお祭り騒ぎの時は呼ばれなかったし!」

「アイラがひっくり返っちゃいますよ!」

「あらあ~、残念!」


「お断りするなんて失礼ですよ!」

 リック監督はアイラ夫人に怒られて、急遽セシリア社長を自宅にお迎えする事になった。


 もうウッキウキでやってきたセシリア社長。

「あなたが羨ましいわ!私の時は出産は使用人や係累の男達ばかりで寂しくて不安で」

「それは…いや…あ!私、責任重大かもしれませんねえ」

「あらゴメンなさい。あなたはリック君の用意した環境で、元気な子を産んで下さいね。

 出来れば元気になった後で、お産の話を教えてくだされば嬉しいわ!」

「はい!そのためには先ず、ちゃんとお産しなければいけません!」

「幸せそうね。二人、いえアイディーさんと。

 いいえ、アックス君とセワーシャさん。

 デシアス卿と婚約者…いるって聞いたような?

 あなた達はこの国の恩人よ。みんな幸せになってね。

 私も兄、国王陛下も。全力で貴方達に恩返ししなくちゃね」


 王妹の、慈母の如き言葉に、アイラ夫人は思わず涙した。

「私…みたいな…流民に…」


「あなたとリック君が王都に来るまでの道々で、村々で、みんなを助けてくれたから。

 私達が救済措置を取った時、思っていた以上に治安がよかったのよ。

 そこから復興が順調にいったわ。

 だから今、国中みんなの幸せがあるの。

 リック君とあなたはね、お兄様なんかよりよっぽど立派よ!」


「王女様!それはいささか言い過ぎかと!」

「あら、言いすぎちゃった?…ここだけの話よ」

 涙交じりに笑うしかないアイラ夫人だった。


 こういう時世間的な対応が苦手なアイディー夫人も、相手が王妹と会ってお茶を出した。

 その目は親しく接してくれる王妹殿下の優しさに涙があふれていた。


******


 アイラ夫人の安定期のさなかに「ゴドランの逆襲」が公開された。

 白黒、スタンダート、モノラル。

 そして、前作の様な強烈な極大魔法への怒りも、若き魔導士への追悼の慟哭も無かった。


 二匹目のゴドランが新怪獣とともに発見され、港町に上陸。

 ゴドランが新怪獣を屠る。

 北国の孤島で再度発見されたゴドラン、飛行機を駆る連合軍が孤島の氷壁を粉砕し、ゴドランを氷に閉じ込めて終わった。


 しかしこれは意外な結果を齎した。


 先ず、評論家が評価した。

「刺々しい印象が無い、今日的な日常描写」

「監督の主張ではなく、観客に楽しませる作風」

 等々。


「やっぱ評論家って聾か盲か気違いの集まりなんじゃね?」

 思わずリック監督が言い放った。


 それより何より意外だったのは、興行成績が2億デナリに上った事だった。


 初日はそれなりに行列が出来、例によって0番スタジオを空けての上映を行った。

 しかも、リック監督が妻を気遣う合間にステレオ録音した非公式の立体音響という唯一無二の興行だった。


 二大怪獣のヌイグルミも例によってヨーホー本社隣の大劇場へ、そして予備のヌイグルミ二頭が撮影所で観客を持て成した。


 さてこのヒットの原因とは何だったのか。

 今まで天然色、立体音響、そしてパノラマスコープという先端技術を開拓してきた彼等にとって意外だったのは。

 どこの劇場でも気軽に観られる、という一点に尽きた。


 フィルムは安価で売られ、トーキー装置も前作の頃に比べると普及した。

 むしろ音盤と一緒に買うのは個人の収集家くらいになって来た。


「地球騎士団」で興行上の不利になっていたアナモルフィックレンズも本作では不要だった。


 もう一つ。

 ゴドランと新怪獣の決闘、そして飛行機隊との戦いという話題性が子供達を中心に心を掴んだ。

 その結果、制作費1千5百万デナリに対し、興行収入2億デナリという中々の高利益率を上げたのであった。


 リック監督は早速アルモザスの異様にリアルな人形を生産させた。

 王国の多くの子供達が、ゴドランとゴレモル、そこにアルモザスを並べて、夢を広げていた。


 音盤は…微妙だった。

 新人作曲家が決闘場面に宛てた音楽は、音楽と言うより効果音だった。

 結局、明快な主題があるタイトル曲、飛行隊の主題、助演でコメディっぽい飛行士が殉職する衝撃的な場面、終曲、そして劇中、ダンスホールで歌われたムーディな挿入歌が収録された廉価音盤が発売された。

 しかし過去作程の売れ行きは無かった。


 むしろ。

「労働闘争の女達は怖かったぞ!」

「ありゃあ集団でゴドランになったみたいだ!」

「俺たちゃあせいぜいアルモザス程度なもんか?」


 等という風聞を題材にしたコミカルソングが吟遊詩人の夫婦の手で歌われた。

「男がどんだけ威張っても、オッヒョッヒョッヒョ子供産むのは誰なのかい?

 怖くないのよアルモザス!」

「聞いておくれよこのタンコブは、オッヒェッヒェッヒェ子守りさぼった思い出さ、

 ウチのゴドラン恐ろしい!」


 酒場で大うけだったこの歌をヨーホーに無断で音盤化した会社があった。

 早速リック監督が抗議…ではなく、ヨーホー音盤からの権利承認を打診し、公式認定を受けて両者ともに利益を享受したとか。


 そんな面白おかしい話にアイラ夫人が笑っている中でも、彼女のお腹の中の子供は大きくなっていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ