52.予告編は迷惑だ??
続々仕上がるフィルム。
「よくもまあこんなものを思いつくものねえ…」
セシリア社長の声は、感動ではなく、呆れであった。
「「「ほおおっ!!!」」」
役員たちは歓声を上げていた。
「やっぱりこれは男の世界なのかしらねえ?」
やはりセシリア社長は呆れていた。
封切り予定が近づく。フィルムも上がってきている。
しかしスクリーンの拡大工事、4チャンネル化工事はギリギリなんとか封切りに間に合う感じだ。
「出来た劇場から予告かけて行こうかしら?
リック君。予告編出来るかしら?」
「もう出来てます!」
「…はあ。準備の宜しい事」
早速、王都や領都の主要劇場で3分の予告編がかけられた。
アナモルフィックレンズを交換する必要上、毎日の初回上映を繰り上げて上映された。
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朝一番なので客入りも少ない。主要館に来るのは、映画好きの貴族か、その子弟だ。
しかし。
イキナリパノラマ画面にヨーホーの天然色の虹色、そして円形の社章の左右に「パノラマスコープ」の文字!
地面に沈む村、山からなだれ落ちる大洪水!
妖しい光を放ち空を飛ぶ円盤、金銀に輝く鋼鉄の怪獣が目から光線を放ち戦車を焼く!
前後左右から迫る音!
そして「天然色パノラマスコープ 4チャンネル立体音響 地球騎士団 予告編」のタイトル!
「「「おおお~~~!!!」」」
少ない観客のテンションがハネ上がった!
「数万年前、極大魔法で住む星を失った異星人ミステリー人、突如地球に侵入!
全人類に危機迫る!」
ナレーションと共に、戦う戦車に飛行機、敵円盤、ドーム要塞の放つ光線で撃破される。
「魔導士として確信の無い事を…」
「確信を得てからでは遅すぎる事もある」
ユーちゃんとスクさんの演技、そして未来的な衣装のミステリー人。
各国の軍指揮官が集まる大会議場。
「我々各国家は地球規模で団結し、最新の魔道技術を持つ騎士団を結成し、ミステリー人に対抗しなければならないのです!」
スクさんが貫録ある宣言を下す。
飛び立つ空中戦艦、打ち上がる熱線砲輸送ロケット、!
予告用のマーチが劇場に轟く。
「「「ふおおお~~~!!!」」」
観客が食い入るように見る。
「想像を絶する、脅威の未来技術新兵器を総動員して展開する、壮烈無比の一大攻防戦!」
「構想二年!ゴドラン、白蛇姫をしのぐ空前絶後の大スペクタクル!
史上初の天然色パノラマスコープ4チャンネル立体音響でお贈りする未来空想映画!
地球騎士団をご期待下さい!」
最後、激しい光線を放つ熱線砲塔、星空の宇宙基地が登場。
音楽が盛り上がって「近日公開!」の字幕。
「「「うおおお~~~!!!」」」
拍手喝采だった。
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この噂は貴族界に轟いた。
そして使用人たちにも知れ渡った。
朝の劇場は結構な人が入る様になった。
そして。
「社長!監督連中から苦情が入ってます!」
「何で?」
「あんなの朝一番にかけられたら自分の作品のインパクトが薄れてしまうって」
「あちゃ~!」
予告編は、最終公演前に移動した。
朝一番に入った客が、肝心の封切り中の作品を日中何度かネバって見ていたのが、最終公演に移った。
その結果封切り作品に感動し1回では物足りなかった観客は、パノラマ立体音響の予告編を見たい事もあって何回か劇場に足を運び、収益が上がった。
「リっちゃん、ありがとねえ」
「何で?」
身に覚えのない理由で監督たちから感謝されたリッちゃんであった。
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王都郊外の軍演習所。
立ち入り禁止の警備が敷かれた。
サイレンが鳴り響き、拡声器で「爆発、5秒前、3.2.1.爆破!」
閃光!続いて大轟音とともに巨大な爆雲が立ち上る。
それははるか上空で渦を巻いて、巨大なキノコの様な雲となる。
ミステリー人のドーム要塞の爆発場面だ。
これで特撮班はクランクアップ。
一方、本編班は。
ミステリー人が攻撃中止を勧告する。
「宜しい、中止しましょう。
しかし、ミステリー人の、即時地球外退去を要求します!」
半ば勝利を確信し、堂々としたスクさんが侵略者の恫喝を一蹴する。
名優、スクさんはこれで撮影終了。
未来の技術に憧れ、それを異星人に騙されたアゲちゃんが後録音で叫ぶ。
「ミステリー人の悲劇は地球にとっていい教訓だ!
高度な技術も、その使用を誤ると悲惨だ。
地球はミステリー人の悲劇を繰り返すな!」
ドーム要塞に潜入した主人公と、救助されたヒロイン達を背に要塞中心部に戻り、侵略軍の末路を見届ける天才魔導士。
逃げ遅れて死んだミステリー人が壊れたヘルメットからのぞかせる素顔は、放射線に犯されたケロイド状だった。
赤く照らされた空中戦艦の艦橋。
逃亡するミステリー人の円盤飛行機を追撃する場面。
「彼らは、永遠に宇宙の放浪者です。
我々は、決して彼らの轍を踏んではならない」
ゲオさんの、地球人類自らを戒める言葉で、本編班は撮影を終えた。
本編班、特撮班は別々の日に白亜の殿堂の噴水前で記念撮影を行った。
音楽の録音も開始され、予告で演奏されたミステリー人の主題、戦闘マーチを両軸に場面に合わせて演奏された。
物凄い熱量の演奏に、長い休憩が必要だった。
一風変わっていたのは、円盤飛行機等の未来兵器のために弦楽器が無機的な、機械音の様な響きを添えていた事だった。
「先生がノコギリを使った『白蛇姫』も面白いと思いましたが、これも面白い物ですね」
編集された場面の、弦楽器の効果をナート師が興味深く見た。
「その内魔石や電気の共鳴する音を使った楽器が出来ますよ」
「そんな時代になるんですねえ。
それより、もっと使いやすい管楽器が出来ないものですかね?」
この時代、管楽器は演奏者が音を歌うように変えていくものだ。
「あー。チェンバロみたいにここを押せばこの音、見たいな楽器も要りますねえ」
後に「バルブ」と呼ばれる押しボタンで、金管楽器の演奏の幅は実に広がった。
室内冷却装置に、新型の管楽器。
何か作品を作る度に仕事が増えるリック監督であった。
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そして完成試写会。
セシリア社長以下ヨーホー経営陣、機材開発に協力してくれた王立魔導士協会、天文学で助言頂いた王立学院が参加している。
ゴドラン同様、何故か国王カンゲース5世、撮影に協力したとは言え軍トップの陸軍卿、無関係な海軍卿やミゼレ祭司まで毎度のことながら平民に扮して参加している。
「来てるし…」
「みんなリックさんのファンなんですよ」
「モテモテリックきゅ~ん」
試写会の映像、音響は、パイロットフィルムをしのぐ迫力があった。
特に最終攻防戦、飛行熱線砲と空中戦艦対ドーム要塞の光線の乱舞は観客を興奮させた。
最後、ゲオさんの「彼らの轍を踏んではいけない」の言葉。
その後に、夕焼け空に上っていく光。
ユーちゃん演じる主人公が、ミステリー人を監視する人工衛星だと伝える。
「あのロケットという物で、星空にラジオ中継地の様なものを飛ばせるのか?」
という問いが多くて、リック監督が最後に無理くり突っ込んだ、と言われるシーンだ。
ただ、ラジオ電波は大気圏で反射されるので、人工衛星は必要ないのだけれど。
金属製の球形の周りに鉄の棒、電波受信機が付いた人工衛星が地球の上を飛び、ミステリー人の宇宙基地が地球から去っていく。
そしてエンドマーク。
その後は、拍手喝采だった。
試写後の祝宴では、
「単純明快、まさに活劇巨編でしたなあ!」
「最後のあの熱線砲、あれは軍で作る予定はあるのだろうか?」
「それよりリック監督!あなたのいた世界には、あんな異星人がいたのですか?」
王、陸海軍卿が聞き耳を立てていた。
「戦争は威力よりも物量です、この映画は要塞を潰せば勝ちでした。
しかし発達した未来の戦争ではあまり今と変わらず、飛行機や戦車の数が大事でした。
あの強力な光線砲は研究されましたが、使われる事は無かったですね」
「ほほ~」
「あと、太陽系内に生き物は地球以外いません。
他の太陽系、他の銀河にならいるかも知れませんが、光の速さ、1秒で30万kmで飛ぶロケットを作っても、4年かかる場所にいるかいないか。
そんな移動距離を飛べる技術を持つ異星人がいるかどうか、俺の記憶ではついに現れなかったですねえ」
「「「ほええ~~~」」」
リック監督の途方もない話に、皆が呆然とした。
「しかし単なる見世物で終わる話ではありませんでしたね」
と、ゲオさん。
「ゴドラン同様、おとぎ話。
私達の未来は、決してこうなってはいけない。
そんな教訓があって、とてもよい話だと思います」
「そう言って頂けると、特撮ファンとして嬉しい限りです」
リック監督は自らの演技にしっかりとした芯を持っているゲオさんに敬意を表した。
会場にはゴレモルはじめ円盤飛行機、宇宙基地、空中戦艦の模型にミステリー人の衣装をかぶせた人形、果てはドーム要塞内部のネオン管の機械まで並んでいた。
「まるで未来の美術館の様だ!」
誰もが子供の様な目でそれらを見つめていた。
「未来空想映画は、確かに毎年の映画の一つの売りにはなるでしょうねえ。
でも、観客が男に偏りそうで興行成績が半分になりそうだわあ」
セシリア社長はそう呟いた。
果たして、セシリア社長の見識はほぼ的中するのであった。




