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5.世界最初の長編特撮映画

 後の映画の歴史、いや、映像文化の歴史を変える15分の試験映像、パイロットフィルム「敵軍港撃砕」は終わった。


******


 試写室に明りが灯された。しかし社長は呆然としたままだった。


 そして一言。

「凄い…」


 唖然としていた重役達も我に返り、拍手を浴びせた。

「素晴らしい!」

「一体いくらかけたんだ!」

「海軍が協力したのか!」

 ヨーホー社の重役一同が立って拍手しつつ、興奮しつつ疑問を投げかけた。


 リック少年はその反響にほっと安心したのもつかの間、そのまま社長室へ引きずって行かれた。


「あれどうやって撮影したの?!

 海軍が出動したり演習したなんて話聞いてないわよ?!」

「あれは全部模型や大道具です。

 模型と言っても、水柱が上がるシーンは小ぶりな船程の大きな模型ですが」


 そう言われても社長は納得していない。


 それを予期したのか、アックスが3mの模型、各部が被弾して破損したものを運んで来た。

「ほ…ホントだわ…」

「いえ、これは遠景用です。主に使われたのは10mの模型です」

 メートル、これはフィルムなどと同じく異世界から来た勇者がこの地球の大きさから割り出した寸法で、その後の魔道具作成に大きく役立った。

 時間も地球の自転を1日、公転を360日、月の満ち欠けを30日として制定したためその勇者は王として長く慕われた。

 リック少年の世界は微妙なズレがあってキッチリ割り切れなかったそうだが。


 それはさておき、社長は未だ納得いかない事がいくらでもあった様だ。

「出演者は船の上にいましたよね?船の上で撮影したんですの?その費用は?」

「いいえ。撮影所に銀幕を張って海の映像を映したんです。

 役者はその手前で演技したんですよ」

「そ、そうなのね…

 それに!あんなに人の顔が大きく映ったり色んな場面が変わったり!」


 この世界では、色々なシーンを切り替える「モンタージュ効果」というものがまだ知られていなかった。


「こんな映画見た事ないわ!みんなに知らせなきゃ!

 いえ、やっぱり待って!

 これは特許にしなきゃ!

 リック君!やっぱりあなたは素晴らしいわ!

 鉄道だけじゃなくて映画でも協力して!我が社の社員になってー!」


 こうして公爵夫人でもあり、この大陸の通商を牛耳った大人物を、12歳のリック少年は後ろ盾として得たのだった。


******


「ふう。大分取り乱してしまいましたわ。

 で。あの作品の制作費は?」

 早速の商談だ。


「王都郊外、クランに構えた屋外の人口池、模型撮影用のスタジオ、同時音声出力の記録・再生装置は合わせて1千万デナリ(約1億円)」

「一千万…微妙ね」


 この時代、建物は割と安く、逆に金属を使った機械や魔道具は高額だった。

 しかも複雑な装置となれば王室も簡単に手に入れられない。

 しかし、これら装置はリックと婚約者アイラ、魔導士アイディーとその知人によって実労費で作り上げられた。


 セシリア社長が特撮と並んで注目したのは、トーキーという技術。

 フィルムの脇にレコードに刻まれた溝に替わって波形を映し込んで再生させる技術だ。


「撮影環境で1千万デナリ。

 じゃあ、あの模型とか大道具とかは?

 それに撮影に使ったフィルムも上映時間の何倍分になるのかしら?」

 夫人は凄い真剣な目でリック少年を問い詰めた。


「三千万デナリ」

「「「さんぜんまんー???!!!」」」


 これには社長以下役員一同が驚愕した。


「わずか10分で、三千万…」

「いやいや、艦隊を動員して撮影したら、年間の軍事予算なんか消えてしまう」

「そうなれば数億デナリかけても撮影できんぞ?!」

「もし模型で撮ったというのが本当なら、あれをもっと長く撮れば、長編大作として公開できようぞ!」


 考えてみれば、この短編フィルムに演劇部分を足せば、長編映画として公開できる。

 いや、リック少年はそれを織り込み済みで撮影していた。

 長編映画化、それこそが彼の目的であった。


「やっぱりあの映画は世界を変えるわ!」

 セシリア夫人が叫んだ!

 侯爵夫人であり王妹という高い身分を忘れて、お淑やかさを忘れて絶叫した。


「リック君…いえ、リック監督!

 暫く我が社に、なんならザナク公爵家に滞在して下さい!」


「いえ、婚約者と既に暮らしているものですから」

「じゃあ婚約者様も呼んで下さい!

 英雄チームの皆様も客分として歓迎します!」


「いえ~。もう撮影所も建てて、近くに家も建ててますんで」

「じゃあ専属契約を!」

 とりあえず本作品を公開する際はヨーホー社独占で、と言う事になった。


******


 英雄チームは将軍たちよりも陸軍卿よりも、もっと国を救うことに貢献した功労者である。

 しかしその生活は質素だった。

 何より貴族の様に重責に満ちた生活など彼らは望んではいなかった。


 彼等の希望は

「野営してた頃の、リック達と飲んで喰って騒いでた楽しい日々が、平和な今でも続く」事。


「よっしゃ!撮影所の近くに家でも建てるか!」

「ちょっとアンタ自分で建てるつもりじゃないでしょね?」

「流石に細かい仕上げは無理だな」

「はは!骨組みは自分でやるつもり満々じゃないか」

「うっせえ!貴族様のお前と違って俺は腕一本で生きてくしかねえんだよ!」


 楽しそうだ。


「えー。俺が家を建てます。希望を教えて下さい」


 こうして、撮影所の近所に英雄チームの家…屋敷の建設が始まった。

 リック少年のチート魔法でたちまちの内に4件分の敷地が整地され、各々の要望の通りの間取りの基礎が固められ、柱が建てられ壁が石で覆われて行った。


 しかし、彼らは完成を待たずに撮影所の宿舎に転がり込み、リックの家に集まっては飲んで騒いで、そのまま温泉を満喫して寝たのだった。

 徐々に彼等彼女等が結婚するまでは…いや、結婚してからも、だった。


 それが王都の外れ、クランの荒野を王都有数の高級住宅街に押し上げる最初の一歩となったのだが、それは後々の事だ。

 だが、リック少年はその年に似合わず、ちゃっかり撮影所周辺の土地も買っており、後々莫大な資産に変えていったのだった。


******


「あのフィルムは世界を変えるわ!」

 セシリア社長は海軍へ赴き、買い取ったフィルムを買い取ったトーキー装置で上映した。


 海軍の驚きは、ヨーホー社以上だった。


「いつあんな軍艦を用意したのか?」

「演習を盗み撮りしたのか?」

「いやいや、あんな一斉砲撃などここ数年演習でもやっておらん!」


「これが撮影に使った模型です」

 ヨーホー社での試写会同様に証拠を示されて尚、信じがたい様子だった。


 ついに海軍卿まで試写を閲覧し、これまた物凄く興奮した挙句、更に国王陛下の御前での上映となった。


「凄いぞー!!、リック君はこんなすごい物まで作れてしまうのだなあー!」

 荒廃した村や町の復興に、鉄道、そして自動車に飛行機まで作り上げて来た姿を見て来た国王は、統治者として以上に、戦友として喜んでいた。

 その上この迫力の映像が模型を撮影したものと知らされて、むしろ一層感激したそうだ。


「兄上!じゃなかった国王陛下」

 と、セシリア社長。

「このフィルムを使い、海軍記念日に本作を長編映画に編集したものを公開しては如何でしょうか?」


 国王は一考して言った。

「戦争は勝つことしら恐ろしいという、英雄ならではの言葉を最後に強調するその想い!

 戦いに対するあくまで謙虚な姿勢!

 魔王軍との戦いを平和裏に収めたリック君ならではの作品だ!

 この精神で作られた映画であれば、死せる英雄達も、敵将兵ですらも心安らぐであろう!

 ぐっ!んぐううう~!!」

 この時の国王は、半泣きだったとか。


「何より、争いから立ち直った我が民の心も癒される事であろう!」

「同感にございます!」


 国王、海軍卿の熱い同意を得て、この世界初の長編特撮映画「キリエリア沖海戦」の製作が決定した。


******


 特撮で歴史を再現する、この世界初の試みの企画が決まり、リック監督は準備してあった長編脚本を提出した。

 その題は、「キリエリア沖海戦」。


 監督は歴史書や、新たに閲覧を許された軍の記録、そして敵国の亡命者が残した海戦に至る経緯を読み漁って、1時間半の脚本を書いた。

 演劇をそのまま映した映画だと1幕1時間弱、それが3~4幕で1作というのんきなものだが、それに比べるとせわしない。


 だが映画は精々1時間半から2時間程度が限度だとリック少年は考えていた。

 余程の超大作でも間に休憩挟んで2時間半から3時間が限界。

 しかしそれは色彩化、大型画面、立体音響といった後に実現する高度な技術を用いての限界とも考えていた。


 俳優による、特撮を用いない場面~これを彼は「本編」と呼んだ~は調べ上げた歴史を両国の立場から極力忠実に再現し、「何故両国は戦わねばならなかったか」「戦いはどの様に推移したか」を正確に、かつ最低限ドラマチックに描くという矛盾した課題を、演出と音楽で実現する事に彼は賭けた。


 そのドラマの中心となるのが特撮シーンである。

 主な戦闘シーンはパイロットフィルム「敵軍港撃砕」のために撮影されたフィルムから流用する。

 それでも新たに出航シーンやら陸戦シーン、敵軍港被災の地獄絵図などを撮らなければならない。


 それらを勘案し、既に支払われた撮影所買収費や完成済みフィルムの買い取り代とは別に、制作費を5千万デナリと試算した。


 この巨額な予算は一映画会社だけで何とかできる者では無い…いや、復興の足となる鉄道から得た膨大な利益があれば何とかできる事もないが、セシリア社長は敢えて海軍へ支援を要請した。


 キリエリア海軍は魔王軍で出番が無かったため予算を減らされており、そこに映画への出費など拒否されるかと思われたが、パイロットフィルムの反響から「行ける!」との確信をセシリア社長は得ていた。


 その読み通り、試写を終え興奮した海軍首脳部は出資に応じた。

 但し、ちょっとした条件付きで。


 更に王家も出資話に乗り、予算は確保された。

 海軍から出された要望とは、「士官たちをスタジオ見学させてほしい」という、意外な物だった。


 もしお楽しみ頂けたら星を増やしていただけるとヤル気が満ちます。


 またご感想を頂けると鼻血出る程嬉しく思います。

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